Vaughan Williams分類Ⅰa群に分類される抗不整脈薬シベノール®(シベンゾリン)の薬物動態情報を見ていきたいと思います。
シベノール®(シベンゾリン)は腎排泄型の薬剤で透析により除去されないため透析患者に禁忌というのは知っておくべき内容ですね。
各動態情報の項目について詳細は下記記事をご参照ください。
本記事中のIF錠は『シベノール®錠IF, 2022年4月(第21版)』、IF注は『シベノール®静注IF, 2022年4月(第19版)』のことです。
Contents
シベノール®(シベンゾリン)薬物動態情報
適応
錠・注:頻脈性不整脈
用法用量
- シベノール®錠
シベノール®錠 1回100mg 1日3回経口投与(最大450mg/day)
※腎機能に応じた初期投与設定が必要
腎機能正常不整脈患者、腎機能軽度~高度障害不整脈患者(クレアチニンクリアランス(CLCr) 正常:70ml/min以上、軽度障害:50~70ml/min、中等度障害:30~50ml/min、高度障害:30ml/min 以下)にシベンゾリン100mg又は150mgを単回投与したとき、シベンゾリンの消失半減期は以下のように延長した。(IF錠:P.19より)
CLCr:70ml/min以上を基準として半減期の延長は
CLCr:50~70ml/min→1.8倍
CLCr:30~50ml/min→1.8倍
CLCr:30ml/min以下→3.6倍
単純に考えると、軽度~中等度腎機能障害(CLCr:30~70ml/min)までは通常量の1/2以下で、高度腎機能障害(CLCr:30ml/min 以下)では通常量の1/3以下で投与するべきということです。
こまかい初期投与量の設定については2012年7月に製薬企業より発出された『適正使用のお願い』の中に『腎機能(CLCr)を指標としたシベンゾリン初期投与ノモグラム』がありますので、参考にしてみてください。
- シベノール®注
シベノール®注 1回0.1mL/kg(シベンゾリンコハク酸塩として1.4mg/kg)を必要に応じて生理食塩液又はブドウ糖液にて希釈し、血圧及び心電図監視下2~5 分間かけて静脈内に注射する
バイオアベイラビリティ
- 平均92%
(IF錠:P.17より)
全血液中薬物濃度/血漿中薬物濃度(B/P)
- データなし
B/Pが得られていないためB/P=0.5を代用します。
分布容積(Vd)
- 434±78L
(IF注:P.15より)
Vd(b)≦Vd/(B/P)=434/0.5
Vd(b)≦868L
Vd(b)≧50(細胞内分布型)、Vd(b)=20~50(分布中間型)、Vd(b)≦20(細胞外分布型)すべての可能性があるため、特徴づけできませんでした。
全身クリアランス(CL)
- 742mL/min
(IF注:P.15より)
尿中未変化体排泄率(Ae)
- 65.1%(48時間後までのデータ)
(IF注:P.17より)
Ae=30~70%より腎・肝混合型(中間型)の薬剤となります。
Ae=65.1%も48時間までのデータでありもともと腎排泄型よりの値ではありますが、腎機能の低下に伴い半減期が延長することと、血液透析で除去されない点を考慮すると腎排泄型の薬剤と考えて良いと思います。
腎クリアランス(CLR)=CL×Ae=742×0.651=483ml/min
肝クリアランス(CLH)=CL-CLR=742-483=259ml/min
抽出比
- 腎抽出比
ER≦CLR(ml/min)/(B/P)/QR(ml)=483/0.5/1200
ER≦0.805
ER<0.3(消失能依存型)、0.3≦ER≦0.7(中間型)、ER>0.7(血流速度依存型)すべての可能性があるため、特徴づけできませんでした。
- 肝抽出比
EH≦CLH(ml/min)/(B/P)/QH(ml)=259/0.5/1600
EH≦0.324
EH<0.3(消失能依存型)、0.3≦EH≦0.7(中間型)の可能性があるため、特徴づけできませんでした。
タンパク結合率
- 50.5~53.4%
(IF注:P.16より)
タンパク結合率より結合していない(遊離形)割合が分かります。
血漿中遊離形率(fuP)=1-0.5=0.5
fuP>0.2よりタンパク結合非依存型の薬剤といえます。
半減期
- 7.0±2.4時間
(IF注:P.13より)
その他
- 治療上有効な血中濃度
【錠】トラフ濃度(朝投与直前):70~250ng/mL(IF錠:P.15より)
【注】有効血漿中濃度 250~350ng/mL(IF注:P.14より) - 血液透析による除去量は投与量の1%未満(IF注:P.17より)
- 透析患者は投与禁忌、腎機能障害患者は少量から開始するなど注意が必要。
- 急激な血中濃度上昇により意識障害を伴う低血糖などの重篤な副作用を起こしやすい(膵β細胞ATP感受性K+チャネルを閉鎖し、インスリンの分泌を促進するため低血糖が起こると考えられている)
- 抗コリン作用があり、その作用に基づくと思われる排尿障害、口渇、霧視、視調節障害等の症状があらわれた場合は減量か投与を中止する必要がある
- 生体利用率が92%であることより、肝における初回通過効果をほとんど受けないものと考えられる
- 主にCYP2D6 及びCYP3A4 で代謝される(IF注:P.16より)
- 主代謝物(デヒドロ体)に明らかな抗不整脈作用は認められなかった(ラット)(IF注:P.17より)
シベノール®(シベンゾリン)薬物動態情報まとめ
- Vaughan Williams分類:Ⅰa群
- Ae=65.1%→腎・肝中間型(30<Ae<70)
※代謝物に抗不整脈作用はなく臨床的には腎排泄型と考えて良い - ER≦0.805→特徴づけ不可
- EH≦0.324→特徴づけ不可
- Vd(b)≦868L→特徴づけ不可
- fuP=0.5→タンパク結合非依存型(fuP>0.2)
- バイオアベイラビリティ:92%
- 半減期:7.0時間
- CYP2D6 及びCYP3A4 で代謝
- 有効血中濃度(錠剤):トラフ濃度(朝投与直前)70~250ng/mL
- 透析除去率:1%未満
- 透析患者には禁忌
- 腎機能に応じて初期投与量を調節し、必要に応じて血中濃度を測定する