β1遮断薬ってどんな薬ですか?
簡単に答えると『荷物をゆっくり運んで負担を減らす』イメージの薬です。
β1遮断薬とは
β1遮断薬を簡単にまとめると下記のようになります。
○ 目に見えにくい作用:心臓の負担を減らす
○ 注意する副作用:血圧低下、徐脈
○ 薬:カルベジロール、ビソプロロール
もう少し詳しく見ていきましょう。
β1受容体は心臓に分布しています。
β1受容体の刺激は心拍数や心筋収縮力の増加を引き起こし、結果として心拍出量の増加を引き起こします。
反対にβ1受容体の遮断は心拍数や心筋収縮力の低下を引き起こし、結果として心拍出量の低下を引き起こします。
上図のように、心拍出量は心収縮力と心拍数で決まり、矢印がβ1受容体遮断薬の作用となります。
また、参考までに、β2受容体は平滑筋に分布しています。
β2受容体の刺激は平滑筋の弛緩、つまり血管を拡張や気管支の拡張を引き起こします。
β1受容体遮断薬は本態性高血圧、狭心症、心室期外製収縮、虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全、頻脈性心房細動などに対して使用される薬です。
β1受容体遮断薬の中でも薬剤によって適応が異なってきます。
例えば、慢性心不全に適応があるβ1受容体遮断薬ですが、現在、日本で適応があるβ1受容体遮断薬はカルベジロールとビソプロロールの2種類のみになります。
この記事はカルベジロールとビソプロロールについての内容となります。
β1受容体遮断薬は、心臓の働きを抑えてしまうため、以前は心不全に対して禁忌とされていました。
しかし、現在では、少量から開始し、忍容性をみながら増量していくことで、長期的には心臓への負担を減らし、予後を改善する薬として使用されています。
前述したように、β1受容体が刺激されると、心拍数や心筋収縮力の増加を引き起こします。
交感神経が活性化されている状態は、常に心臓が頑張っている状態であり、β1受容体を遮断することは、心臓に少しリラックスしてもらうことになります。
予後を改善するために、慢性期の心不全ではできるだけ心臓を休ませてあげるべきとされています。
あなたも頑張りすぎると疲れてしまいますよね。
そして疲れたら、リラックスしますよね。
心臓は自分自身でリラックスできず、動き続けますから、薬で心臓が頑張り過ぎないようにしているわけです。
荷物をゆっくり運んで負担を減らすイメージです。
β1受容体遮断薬はなぜ心臓の負担を減らすのか?
β1受容体遮断薬はなぜ心臓の負担を減らすのかイメージしていきましょう。
心不全の状態は酸素の『必要量>供給量』です。
β1受容体遮断薬を使用すると、心拍数が低下しますから、酸素の供給量は減ります。
そのため、心不全の症状がある状態では心不全を悪化させる可能性があるため、使用しません。
また、心拍数が低下した分、心臓の収縮・拡張の回数も減ります。
強心作用はないので、心臓の収縮拡張が減った分、心臓の酸素消費量(必要量)は減ります。
心臓の負担を減らす、イメージしにくいと思いますが、β1受容体遮断薬により心拍数が低下し心筋の酸素消費量(必要量)が減るため、結果的に心臓の負担を減らすことになります。
心不全でβ1受容体遮断薬を少量から開始し漸増する理由とは?
結論から言うと、心不全を悪化させないためです。
では見ていきましょう。
心不全に対してβ1受容体遮断薬を使用するときは、『少量から開始し、忍容性をみながら増量していく』旨が『注意事項等情報(旧・添付文書のこと)』に記載されています。
この『忍容性』とは何でしょうか。
忍容性とは、薬の副作用がどれだけ耐えることができるかの程度のことです。
副作用が生じたとしても患者さんが十分耐えられる程度であれば『忍容性が高い』といいます。
どの薬でも薬の成分でアレルギー症状が出てしまった場合は忍容性がありません。
『注意事項等情報』の禁忌の欄にも『本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者』と記載されています。
では、心不全に対するβ1受容体遮断薬の忍容性とは何でしょうか。
アレルギー症状がないことは当然ですが、β1受容体遮断薬の作用によって『薬の副作用がないか』、『心不全の悪化がないか』です。
血圧低下、脈拍低下、心不全症状の悪化(確認項目としては体重増加、うっ血、呼吸苦などの症状)がないかをみましょう。
血圧低下、脈拍低下は分かりやすいと思いますが、心不全症状の悪化はどうでしょうか?
このような項目は普段心不全患者さんに対して確認している項目だと思いますが、薬が原因で起こりうるのです。
薬の作用を考えます。
血圧を下げる作用、脈拍を下げる作用がありますから、副作用として低血圧や徐脈が考えられます。
これは、イメージしやすいですよね。
では、体重増加、心不全の悪化はイメージできますか?
心不全症状で呼吸苦や浮腫などはうっ血が原因で起こります。
そしてβ1受容体遮断薬を使って忍容性がない場合、うっ血が起こる可能性があります。
なぜ?と思いましたか。一緒にイメージして考えていきましょう!
体内の水分量が変わらないと仮定します。
この状態で脈拍が下がるとどうなるでしょうか。
(1回の拍出量は変わらないと仮定してください。)
1回の心拍で50 mlの血液が心臓から送り出されます。
そして、50 mlの血液が心臓に戻ってきます。
今、心不全で血管内の水分量はこれ以上増えると心不全症状が出てしまうといった状態です。
1分間に心臓から送り出した血液量(心拍出量)=1回に送りだす血液×心拍数
を用いてイメージしてみましょう。
簡易的に1分間に心臓から送り出した血液量が、全身の血液量とします。
1分間の心拍数が80回の場合、
50 ml×80回=4,000 ml
β1受容体遮断薬を使用して、1分間の心拍数が70回となった場合、
50 ml×70回=3,500 ml
心拍数80回と心拍数70回の心拍出量の差は、
4,000 mlー3,500 ml=500 ml
脈拍が遅くなった分、循環できない余分な水分が出てきました。
これまでは心拍出量4,000 mlで循環する容器でしたが、β1受容体遮断薬を使用して心拍出量3,500 mlで循環する容器へと小さくなりました。
簡単に言うと3,500 mlの容器の中に4,000 ml入っている状態です。
心拍出量が3,500 mlですから500 mlが心臓の前で渋滞してしまいます。
さて、この500 mlはどこにいくのでしょう?
心不全患者は、すでに渋滞を起こしそうな状態であることが多いです。
健常人では耐えることができて渋滞を起こさないケースでも、心不全患者ではこのような小さな変化に耐えることができないために渋滞を起こしてしまうのです。
症状が出てしまう閾値が低いということです。
症状がでてしまった状態を『忍容性がない』といいます。
血管内に渋滞してあふれてしまった水分が肺に溜まれば肺うっ血となりますし、下肢に溜まれば下肢浮腫となります。
また、β1受容体遮断薬使用中に利尿薬を追加・増量することがあります。
これは、余分な水分(うっ血)を取り除いてあげるためです。
増量していく途中でうっ血となるようであれば、その段階を維持量とするか、利尿薬を追加し余分な水分を取り除いてあげるかは、全身状態や他の項目の忍容性(血圧、脈拍など)が許容できる範囲かどうか、主治医が総合的に判断して指示を出しているはずです。
もし最初から最大用量で投与した場合、どうなるでしょうか?
ここまでの話から、イメージしやすいと思いますが、少しずつ増量していけば、もし忍容性がなくても、最小限の心不全症状で抑えられますが、最大用量で投与した場合、どこまで耐えられるか分かりませんよね。
もし心不全が悪化して、肺うっ血となってしまったら、酸素投与必要なかった人も必要になったりするかもしれません。
基本的にβ1受容体遮断薬を心不全に対して使用する場合は『注意事項等情報』上の最大用量まで増量を目指します。
しかし、最大用量まで増量できない方も多いので、忍容性を確認しながら、維持量を決めているのが実際です。
なぜ心不全に対してβ1受容体遮断薬は忍容性をみて少しずつ増量するのか?
心不全を悪化させないためということがイメージできましたか?
まとめ
- 心不全に適応のあるβ1遮断薬はカルベジロールとビソプロロールのみ
- 心臓の負担を減らす薬(『荷物をゆっくり運んで負担を減らす』イメージ)
- 心不全を悪化させる可能性があるため、少量から開始し忍容性を見ながら少しずつ増量していく
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このブログが書籍になりました。『心不全×くすり ゼロから楽しく学ぶ3step』
こんなコメントもいただいています。
挫折せず一気読み出来ました!
中でもコラムが気に入りました。
心不全について様々な参考書を購入してきましたが、今までで一番イメージがつかみやすく、読みやすかったです。