病院薬剤師が知っておくべき血液浄化療法と薬剤のポイント
スポンサーリンク

血液浄化療法(Renal Replacement Therapy:RRT)は、急性または慢性の腎不全に対して、体内に蓄積した老廃物や過剰な水分、電解質異常を是正することを目的に行われる、極めて重要な治療法です。

しかしこのRRTは、薬物動態に大きな影響を与えることがあり、薬剤が本来意図された効果を発揮できなくなる可能性もあります。そのため、薬剤師には正確な知識に基づいた投与設計やTDM(血中濃度モニタリング)への関与が強く求められます。

育児休業から復帰後、ICUに配属され、血液浄化療法に触れる機会が一気に増えました。今までの知識だけでは対応が難しい場面もあり、「今ここで、しっかり学び直しておきたい」と思い立ち、本記事を作成しました。

本記事の構成と目的

この記事では、以下のような項目について、現場で役立つ視点から網羅的に解説しています。

  • 各種血液浄化療法(HD、HDF、CRRTなど)の違いと特徴

  • 除去対象となる物質とその原理(拡散・濾過・吸着)

  • 薬物動態への影響と除去特性に関わる因子

  • 代表的な薬剤(例:バンコマイシン、アミカシンなど)と投与時の注意点

スポンサーリンク

病院薬剤師が知っておくべき血液浄化療法と薬剤のポイント

腎臓の主な機能と、透析・薬剤での代替ポイント

腎臓は非常に多機能な臓器であり、主に以下の役割を担っています。

腎臓の機能 内容 透析での代替 薬剤での補充・調整
老廃物の排泄 尿素・クレアチニンなどの除去 血液浄化療法で代替可
水・電解質バランス調整 Na⁺、K⁺、Ca²⁺ など 透析による調整 必要に応じて薬剤補正(例:カリメート、ケイキサレート)
酸塩基平衡の維持 H⁺ 排泄、HCO₃⁻ の再吸収 透析で部分的に代替可 クエン酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム
ホルモン分泌 エリスロポエチン、活性型ビタミンDなど ❌ 透析では代替不可 補充薬(エポエチン、カルシトリオール)
血圧調整 レニン-アンジオテンシン系の調節 ❌ 透析では代替不可 降圧薬の調整やRAS阻害薬の使用

このように、透析で代替できるのは一部機能(主に排泄・電解質調整)に限られ、その他は薬剤による補充が必要です。

薬剤師は、透析だけでは代替できない機能についても常に意識し、必要な薬剤の選択や投与量調整を行う役割があります。

 

透析をすると血圧が下がるケースも多いと思いますが、透析そのものに「血圧を調整する機能」はなく、血圧の変動は透析に伴う“結果”です。透析中低血圧の原因になることもあるため、透析日に降圧薬を中止・減量する必要がある場合がありますね。

血液浄化療法の種類と除去機序

血液浄化には主に以下の方法が用いられ、それぞれ除去のメカニズムが異なります。

血液浄化療法 主な除去機序 特徴
HD(血液透析) 拡散+限外濾過(少量) 小分子薬剤の除去に有効。水分除去には限外濾過が使われる。
HF(血液濾過) 限外濾過(対流) 中分子薬剤の除去に有効。水分・薬剤を対流で除去。
HDF(血液透析濾過) 拡散+限外濾過(対流) HDとHFの併用。広範な薬物・水分の除去が可能。
PD(腹膜透析) 拡散+少量の限外濾過 持続的に小分子薬物を除去。自宅管理も可能。
CRRT(持続的血液浄化) 持続的な拡散/限外濾過/吸着 ICU向け。AKI(急性腎障害)に持続的に対応可能。血行動態が不安定な患者にも使用可能。
ECUM(限外濾過療法) 限外濾過のみ 水分除去のみを目的とする。薬物除去は目的としない。
吸着型血液浄化(PMX・LPMなど) 吸着 膜やカラムで特定物質を選択的に吸着。PMX(エンドトキシン吸着)やLPM(サイトカイン吸着)など。薬剤の吸着も起こり得る。
吸着型血液浄化の補足
  • PMX(ポリミキシンBカラム):主にエンドトキシン(グラム陰性菌の毒素)を除去。敗血症性ショックなどで使用される。
  • LPM(サイトカイン吸着):炎症性サイトカイン(IL-6など)を吸着し、SIRSや重症感染症、ARDSへの対応目的で使用。

吸着は薬剤にも及ぶ可能性があり、抗菌薬や免疫抑制薬の血中濃度が予想以上に低下することがあるため、TDMと併せて注意が必要です。

拡散・限外濾過・対流のイメージ解説(小学生にもわかる!)

拡散(かくさん)ってなに?

たとえるなら「インクが水に広がる様子」!

水の中にインクを1滴落とすと、しばらくすると全体に広がっていきますよね?

これは「濃いところから薄いところへ」物が自然に広がる現象です。

血液浄化でいう「拡散」は、血液の中にある 悪いもの(尿素など) が、キレイな液(透析液)にじみ出ていくイメージです。

小さなゴミ(小さい分子)はこの方法でスイスイ出ていきます!

限外濾過(げんがいろか)ってなに?

たとえるなら「スポンジをぎゅっとしぼる」!

水をたっぷり吸ったスポンジを手でギューっとしぼると、水が出てきますよね。

これと同じように、血液に圧力をかけて水分を押し出す方法が限外濾過です。

この方法では、血液中の余分な水分や、一緒に“小さなゴミ(分子)”もフィルターを通して出すことができます。

対流(たいりゅう)=濾過ってなに?

たとえるなら「川の水に押し流される落ち葉」!

水の流れが速い川では、落ち葉やごみも一緒に流れていきますよね。

対流では、水分をどんどん引っ張ることで、ついでに大きめのゴミ(中分子)も一緒に流すことができます。

つまり、水分の流れ(対流)に乗せて、“中くらいのサイズの悪いもの(たとえばβ2ミクログロブリンなど)”も血液から取り除ける方法のことです。

拡散・限外濾過・対流のまとめ
  • 拡散(diffusion):分子が濃度差により透析膜を通って移動。主に小分子(尿素など)を除去。

  • 限外濾過(ultrafiltration):圧力差により水分を除去。水分管理に関与。

  • 対流(convection)=濾過:水分の流れに乗って分子も一緒に移動。中分子除去に有効

限外濾過が本体とすると、対流は副効果のようなものです。ただECUM(限外濾過のみの治療)では水分除去のみが目的なので、対流による薬物除去はほとんど期待されません。

透析の目的に合わせて拡散、限外濾過、対流といった機序を使い分けているってことですね!

除去に関わる薬剤側の因子

血液浄化で薬剤がどれくらい除去されるかは、以下の薬剤の性質に依存します。

因子 内容 除去性への影響
分子量 大きいほど膜を通りにくくなる 小分子薬(<500Da)は除去されやすい
タンパク結合率 アルブミンなどに結合していると除去されにくい 結合率が高いほど除去されにくい
分布容積(Vd) Vdが大きい=組織に広く分布 Vd > 1L/kg だと除去されにくい
親水性/脂溶性 親水性薬剤は血中に多く残る 脂溶性薬剤は除去されにくい傾向

たとえば、アミカシン(分子量:約585 Da、Vd:0.3 L/kg、親水性)のように、

  • 分子量が小さく

  • Vdが小さく

  • 血中に多く存在する

といった薬剤は、血液浄化での除去対象になりやすく、投与スケジュールの調整やTDMによるモニタリングが必須になります。

一方で、脂溶性が強くVdが大きい薬剤(例:アミオダロン、ジゴキシンなど)は、組織に移行してしまうため、透析ではほとんど除去されません。

またアルブミン結合率が90%を超える薬剤(例:フロセミド、フェニトインなど)は、血中にあっても「膜を通れるフリー成分(遊離型薬剤)」が少ないため、透析では除去されにくい点に注意が必要です。

各血液浄化療法の除去ターゲットと分子量

分子量 主な物質 除去可能な療法例
<500 Da 尿素・クレアチニン HD、HDF、CRRT など
500〜5,000 Da β2ミクログロブリン、バンコマイシンなど HF、HDF、high-flux HD
>5,000 Da 免疫グロブリン、サイトカイン 一部のHDFや吸着型膜が必要
Da(ダルトン)ってなに?

たとえば「<500 Da」と書かれているときの「Da」は、分子の重さ(質量)を表す単位のことです。

薬の名前 分子量(Da) 分子のサイズ分類
アセトアミノフェン 約151 Da 小分子薬
バンコマイシン 約1,450 Da 中分子薬
アルブミン 約66,000 Da 高分子(タンパク質)

「Da」は、薬の“サイズの目安”です。小分子(<500 Da)はHD(拡散)で除去されやすいです。

Daは「分子量(molecular weight)」と同じ意味です。

1 Da = 1 g/mol
なので、分子量が500 g/molの薬=500 Daの薬となります。

つまり、電子添文やインタビューフォームで薬の分子量を調べれば、そのまま「Da」で表現できます。

透析膜の種類と薬剤師が意識すべきポイント

透析膜(ダイアライザー)の素材や性能(high-flux/low-flux)によって、薬剤の除去性は大きく異なります。

透析膜の素材別比較

素材 商品例 特徴 薬剤への影響
ポリスルホン(PS) キュアフローA(旭化成)、ヘモフィールSNV(東レ)など 生体適合性が高く、汎用性が高い膜素材 吸着は少なく、薬剤相互作用も少ないことが多い
ポリエーテルスルホン(PES) フロースター(JMS)など 高性能で耐久性が高く、High-flux化されている製品も多い High-flux条件下で薬剤が除去されやすい場合がある
ポリメチルメタクリレート(PMMA) フィルトライザーBK(東レ)など 吸着性が高く、炎症性サイトカインの除去にも優れる アミオダロン、フェニトインなど一部薬剤が吸着されやすい
AN69膜(ポリアクリロニトリル系) セプザイリス(ヴァンティブ)など 吸着能あり、サイトカイン・エンドトキシン除去に用いられる 陽イオン性薬剤(ナファモスタット等)やACE阻害薬は禁忌・注意あり
セルロース系膜 Cuprophaneなど(現在は非主流) 初期の透析膜。補体活性化の懸念あり、生体適合性はやや劣る 現在は実用性低いため現在は使用されていない。古い文献では登場することがある

透析膜にはさまざまな素材が使用されており、それぞれ除去特性吸着能力生体適合性(副作用の出にくさ)に明確な違いがあります。

PMMA(ポリメチルメタクリレート)膜やAN69膜(ポリアクリロニトリル系)は薬剤の吸着能力が高く、投与設計に注意が必要です。PMMA膜は薬剤だけでなく、中分子の炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-αなど)も吸着除去でき、敗血症など炎症性疾患への応用例も報告されています。一方で、AN69膜はサイトカインに加えてエンドトキシンの吸着にも優れており、敗血症時の吸着療法(Cytokine Adsorption)やCRRTに用いられるケースがあります。

薬剤師としては、使用中の膜素材の種類や特性を把握し、それがどのように薬剤除去やTDMに影響するかを常に意識しておく必要があります。

なお、AN69膜積層構造を持ち、拡散と吸着の両機構を活用できる特性を持ちますが、ACE阻害薬やナファモスタットとの併用は急性アナフィラキシー様反応のリスクがあるため、「禁忌」または「使用すべきでない」とされています。詳しくは『AN69膜と薬剤相互作用の注意点(ACE阻害薬・ナファモスタット)』をご参照ください。(コチラの記事は記載中です。しばらくお待ちください。)

High-flux膜とLow-flux膜の比較

特徴 Low-flux膜 High-flux膜
透過性 小分子(例:尿素、クレアチニン)は通すが、中分子(例:β2ミクログロブリン)は通しにくい 小分子に加え、中分子もよく通す
除去機序 主に拡散 拡散+濾過(対流)
孔径 小さい 大きい
β2-ミクログロブリン除去 不十分 除去可能
アルブミン漏出 基本的になし 過剰な濾過条件では漏出の可能性あり(通常の使用では安全)
現在の使用頻度 ほとんど使用されていない 標準的に使用されている
使用例 古い機器や一部の制限環境下 現在の標準透析膜

現在では、Low-flux膜はほとんど使用されておらず、臨床現場ではHigh-flux膜が標準となっています。薬物除去の考察においては、教科書や資料でLow-fluxとの比較が登場することもありますが、実臨床ではHigh-flux膜を前提とした投与設計が主流です。

薬剤師が実臨床で意識すべきこと

透析スケジュールに合わせた投与設計

透析によって薬物が除去されるかどうかは、その投与タイミングで大きく影響を受けます。

たとえば「透析直後に投与することで除去を避ける」または「透析で除去された分を補うように透析後に追加投与する」など、透析前後の薬物動態を考慮した投与設計が重要です。

モニタリングの必要性(TDM対象薬は必須)

薬物によってはTDM(Therapeutic Drug Monitoring:薬物血中濃度モニタリング)が必須なものもあり、特に透析を受けている患者では体内動態が不安定になりやすいです。

バンコマイシンやアミカシンなどのTDM対象薬では、透析前後での血中濃度の把握が投与設計に直結します。

透析膜の種類を確認する(例:PMMA膜やhigh-flux膜)

使用している透析膜の素材や特性により、除去される薬物の種類や程度が変わります。

たとえば、high-flux膜は中分子まで除去できるため、本来除去されにくい薬物でも影響を受ける可能性があります。

また、PMMA膜のように吸着能を持つ膜もあり、TDM対象薬であっても予想以上に除去されることがあるため、注意が必要です。

ICUではCRRT(持続的腎代替療法)の使用も考慮

集中治療室(ICU)では、血行動態が不安定な患者に対してCHDFなどの持続的血液浄化(CRRT)が用いられることがあります。この場合、薬物は少しずつ長時間にわたって除去されるため、1日量を分割投与したり、透析後に追加投与したり、持続静注などの方法を検討する場合もあります。

また、透析機器や設定によって除去率が異なるため、医師や臨床工学技士との連携も重要です。

バンコマイシンを例にみてみよう

バンコマイシンは、RRT中によく投与される薬剤の一つであり、膜の種類や療法のモードによって除去率が大きく変動する代表例です。以下に、透析除去に関与する主な薬剤側因子を整理します。

特性 解説
分子量 約1,450 Da 中分子に分類され、low-flux膜では通過しにくいが、high-flux膜やHDF、CRRTでは一定程度除去される。
タンパク結合率 約30~55% 結合率は中等度で、遊離型(透析で除去される)薬物が一定量存在するため、透析の影響を受けやすい。
分布容積(Vd) 約0.4~1.0 L/kg 分布容積は中程度で、血中にとどまる割合が比較的高く、透析による除去が成立しやすい。
親水性 高い(極性あり) 脂溶性が低く、血中滞在が多いため、透析による除去が起こりやすい。

これらの性質を踏まえると、バンコマイシンは「除去されやすいとは言えないが、RRTによって一定量が除去されうる薬剤」と位置づけられます。膜の種類や透析条件によって除去率が変動するため、一律の投与設計では不十分であり、個別対応が求められます。

また、TDM(血中濃度モニタリング)では、得られた結果だけでなく、臨床経過や感染症の重症度、患者背景などを加味した上での用量調整が不可欠です。

『病院薬剤師が知っておくべき血液浄化療法と薬剤のポイント』まとめ

  • 血液浄化療法(RRT)は、腎機能の一部を代替するものであり、薬物動態に大きく影響を与える。
  • 透析の除去機序(拡散・限外濾過・対流)や療法の種類(HD、HDF、CRRTなど)により除去されやすい薬剤が異なる。
  • 薬剤の分子量、タンパク結合率、分布容積(Vd)などが除去性に大きく関与する。
  • 薬剤師は、透析スケジュール、膜の種類、TDMの必要性を考慮して、適切な投与設計を行う必要がある。
  • 吸着型療法(PMX、LPMなど)やHigh-flux膜の使用時は、予想以上の薬物除去が起こる可能性もあり、注意が必要。
  • ICUなどで使用されるCRRTでは、持続的かつ緩やかな薬物除去が行われるため、持続投与や分割投与が検討される。
  • 医師・臨床工学技士と連携し、患者ごとの状況に応じた柔軟な薬物療法の提供が重要。

     

     

    皆様の応援が励みになります。
    1日1回、クリック(↓)をよろしくお願いします。

    にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

     

    PVアクセスランキング にほんブログ村

    スポンサーリンク
    他にもこんな記事を書いています!