高カリウム血症の緊急治療に必須!カルチコールの作用機序とは?
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高カリウム血症は命に関わる危険があります。そんな緊急時に使用されるカルチコール(グルコン酸カルシウム)は、不整脈から心臓を守る重要な役割を果たします。

なぜカルチコールが不整脈を予防できるのか、その理由をご存じですか?

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高カリウム血症の緊急治療に必須!カルチコールの作用機序とは?

はじめに~高カリウム血症とは~

高カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が正常範囲を超えて高くなった状態です。カリウムは心臓や筋肉の正常な機能に重要な電解質であり、そのバランスの崩れは生命に関わるリスクをもたらします。特に、カリウム濃度が急激に上昇すると、心筋の異常な興奮を引き起こし、不整脈や心停止の危険性があります。

高カリウム血症が引き起こすリスク

カリウムは細胞内外の電位差を保つために重要な役割を果たしています。高カリウム血症では、血液中のカリウム濃度の増加により、心筋細胞の静止膜電位が低下し、脱分極が容易になります。これにより心筋の興奮性が高まり、不整脈が発生しやすくなります。
(本記事内『高カリウム血症における心室筋細胞の活動電位変化のイメージ』参照)

心室筋細胞の活動電位について

心室筋細胞の活動電位は、心臓が正常に収縮して血液を送り出すための電気的な変化です。主に以下の5つの段階で構成されています。

  1. 静止膜電位(約-90mV):カリウムイオン(K+)チャネルは絶えず開いていてK+が細胞外へと流出しているため、細胞内の電位が低い状態(静止膜電位:-90 mV)に保たれています。
  2. 脱分極(立ち上がり):刺激によりナトリウムイオン(Na+)が細胞内に流入し、電位が急上昇します(+20mV)。
  3. プラトー相:カルシウムイオン(Ca2+)が流入し、膜電位が一定に保たれます。この段階が心筋の収縮を維持します。
  4. 再分極:K⁺が細胞外に流出し、電位が元に戻ります。
  5. 静止膜電位に復帰:細胞が再び安静状態に戻り、次の刺激に備えます。

この繰り返しにより心臓は興奮して収縮して、全身に血液を送っています。

 

心室筋細胞の活動電位については『【抗不整脈薬一覧】薬物動態情報まとめ&心房細動時の使い分け』の《心筋の興奮伝導について》の項目にもう少し詳しく記載しております。

カルチコールの作用機序

カルチコールとは何か?

カルチコール(グルコン酸カルシウム)はカルシウムを補給するための薬剤であり、心筋の電気的安定化作用を持つため、高カリウム血症では不整脈の発生を防ぐために使用されます。

心筋細胞の収縮には、カルシウムチャネルを通じて細胞内にカルシウムイオンが流入することが重要です。カルチコールにより、カルシウムを供給することでカルシウムチャネルの機能を安定化させます。

カルシウムチャネルが適切に機能することで、心筋の正常な収縮と弛緩が維持され、心臓が効率的に血液を送り出すことが可能になります。

細胞膜の安定化

通常、細胞内外に存在するカリウムイオンの濃度差が、細胞膜の電気的安定性を保ち、適切な興奮と収縮を促します。

しかし高カリウム血症では、血清カリウム濃度が上昇するため、心室筋細胞の静止膜電位が低下(脱分極)します。

カリウム濃度が過剰になると、心筋細胞の脱分極が持続し、正常な興奮が起こりにくくなるため、不整脈が発生しやすくなります。ここで、カルシウムイオンが細胞膜の安定性を高め、異常な脱分極を抑制する作用を持ちます。

カルチコールを投与すると、カルシウムイオンが心筋細胞膜に取り込まれ、脱分極を防ぎ、活動電位を正常に近づけることで、心筋の電気的安定性が回復し、異常な興奮を抑制して不整脈を予防します。

 

心室筋細胞の活動電位をわかりやすくイメージ化すると次のようになります。

高カリウム血症における心室筋細胞の活動電位変化のイメージ

高カリウム血症における心室筋細胞の活動電位変化のイメージです。

 

緑の線(正常な活動電位): 正常な心室筋細胞の活動電位。静止膜電位は約-90 mVで、刺激により急速な脱分極(+20 mV)が起こり、その後プラトー相が続き、再分極して静止膜電位に戻る。

赤の線(高カリウム血症での活動電位): 高カリウム血症では、細胞外のカリウム濃度が高いため、静止膜電位が-70 mV程度と浅くなり、脱分極が減弱する。プラトー相も短縮し、再分極が遅くなることで、異常な電気的活動が生じやすくなる。

青の線(カルチコール投与後の活動電位): カルチコール(グルコン酸カルシウム)を投与すると、カルシウムが細胞膜を安定化させ、静止膜電位が部分的に回復し、活動電位も正常に近づく。これにより、過剰な脱分極が抑制され、心筋の電気的安定性が回復する。

活動電位の閾値の上昇

心筋の興奮にはナトリウムイオンの急激な流入による脱分極が必要ですが、高カリウム血症ではこれがさまたげられます。

カリウムの異常でなぜナトリウムが?と思われるかもしれませんが、カリウムは細胞内に多い電解質で、常に細胞内から細胞外に移動し、細胞内の電位を下げる働きをしています。

このカリウムの移動で細胞内の電位が下がると、細胞外に多いナトリウムが一気に細胞内に入ることができ、心筋は興奮して収縮することができるのです。

しかし、高カリウム血症では細胞外にカリウムが多くなっているので、カリウムが細胞内から細胞外に移動しにくい状態となっています。

そのため、高カリウム血症では細胞内の電位がさがりにくくなり、ナトリウムが細胞内に入りづらくなります。

その結果、高カリウム血症では、心筋の興奮が起こらず、心停止へとつながる可能性があるのです。

 

しかし、カルシウムを補充することで、心筋細胞の活動電位の閾値が上昇し、異常な電気的興奮が発生しにくくなります。これにより、心筋が過剰に興奮するのを防ぎ、心拍のリズムを正常に保ちます。

このようにカルシウムイオンは、心筋の活動電位の発生において重要な役割を果たします。

 

ここででてきた心筋細胞の活動電位の「閾値が上昇する」というのは、心筋が電気的に興奮するために必要な刺激が強くなる、という意味です。

通常、心筋細胞が電気信号で興奮し、収縮するにはある一定の刺激(閾値)に達する必要があります。閾値が上昇すると、その刺激が大きくならないと心筋が反応しなくなるので、異常な興奮(例えば不整脈)が起こりにくくなるということになります。

不整脈予防としての役割

カルチコールは、カリウムの直接的な排泄促進や血清カリウム濃度を下げる薬剤ではありませんが、心筋細胞に働きかけることで不整脈のリスクを抑える効果があります。特に、高カリウム血症に伴う致命的な不整脈(心室細動、心停止)を予防するために緊急的に使用されます。

カルチコールの作用は短時間で現れ、投与後すぐに心筋細胞の安定化をもたらします。しかし、その効果は一時的であるため、高カリウム血症の根本的な治療には他のアプローチ(インスリン、カリウム排泄薬や透析など)が必要です。

高カリウム血症の緊急治療に必須!カルチコールの作用機序とは?』まとめ

カルチコールは、高カリウム血症による不整脈を予防するために重要な薬剤であり、その主な作用は心筋細胞膜の安定化です。
(詳細は本記事内『カルチコールの作用機序』参照)

ただし、カルチコールによる副作用予防は一時的な作用であるため、カリウム濃度を下げるために他のアプローチ(インスリンや利尿薬、透析など)が必要です。

 

 

 

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