カムザイオス®(マバカムテン)薬物動態情報~実臨床での注意点とポイント~
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肥大型心筋症(HCM)は、心室の壁が厚くなることで心機能に影響を及ぼす疾患であり、従来はβ遮断薬や非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬(ベラパミル)などが治療の中心でした。

しかし今回、心筋収縮力そのものをターゲットとするマバカムテン(商品名:カムザイオス®)が登場し、注目を集めています。(2025年3月27日承認、2025年5月21日発売)

この記事では、マバカムテンの薬物動態(PK)情報もふまえて、実臨床で注意すべきポイントについてわかりやすく解説します。

※各動態情報の項目についての基本は以下の記事もご参照ください。

※本記事中のIFは「カムザイオス®IF, 2025年3月(第1版)」を指します。

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カムザイオス®(マバカムテン)薬物動態情報~実臨床での注意点とポイント~

作用機序

マバカムテンは、従来のβ遮断薬やベラパミルとは異なり、HOCM(閉塞性肥大型心筋症)における心筋収縮力亢進という病態の根本機序に直接作用する初の薬剤です。

心筋特異的ミオシンATPアーゼ阻害薬に分類され、過剰なアクチン-ミオシン架橋形成を抑制することで、収縮力を適正化し、左室流出路閉塞を改善します。

適応

閉塞性肥大型心筋症(HOCM)

閉塞性肥大型心筋症とは?

肥大型心筋症(HCM)は、心筋が遺伝的背景などにより肥厚する疾患です。特に左心室中隔が肥大することで心室内腔が狭くなり、血液が大動脈へスムーズに流れにくくなる状態が見られます。

この中でも、収縮時に左室流出路(LVOT)が狭くなって血流を妨げるタイプを「閉塞性肥大型心筋症(HOCM)」と呼びます。

主な症状
  • 労作時の息切れ(心拍出量の低下による)
  • 動悸・胸痛(心筋虚血、リズム異常)
  • 失神・めまい(心拍出量の一過性低下や不整脈)
  • 重症例では突然死のリスクも(特に若年者や運動時)
なぜ閉塞が起きるのか?
  1. 心室中隔の肥大 → 左室内腔が狭くなる
  2. SAM(Systolic Anterior Motion)→ 僧帽弁の前尖が収縮期に中隔へ吸い寄せられ、物理的に流出路が閉塞される
治療の目的
  • 収縮力をやや抑え、LVOTの閉塞を軽減
  • β遮断薬やベラパミルは、心拍数を抑えて拡張時間を延ばし、収縮力を低下させる
  • マバカムテンは、心筋の収縮力そのものを制御
非閉塞性との違い
特徴 閉塞性(HOCM) 非閉塞性(HNCM)
LVOT狭窄 あり なし
SAM しばしば認められる 認められない
症状 より強く出やすい 比較的軽度
治療 収縮能や血流への配慮が必要 心不全管理中心

用法・用量と投与管理

開始用量:1回2.5mgを1日1回経口投与

LVEFが55%未満の場合は投与開始不可。投与開始後はLVEF50%未満を休薬・中止の指標とします。

マバカムテンの用量調節

投与開始から4週間後の初回評価(初期段階)
評価項目 判断 対応
バルサルバLVOT圧較差 < 20 mmHg
かつ LVEF ≧ 50%
心機能が良好で、効果が強すぎる可能性あり 1段階減量
バルサルバLVOT圧較差 ≧ 20 mmHg
かつ LVEF ≧ 50%
効果・安全性のバランス良好 用量維持
投与開始12週間以降の継続評価

12週ごとに心エコー検査を実施し、以下の基準に基づき用量調節を行います。

評価項目 判断 対応
バルサルバLVOT圧較差 ≧ 30 mmHg
かつ LVEF ≧ 55%
圧較差の改善が不十分な場合 1段階増量
※12週以上の間隔を空ける
LVEF ≧ 50% かつ < 55% 安全性に留意しつつ経過観察が必要な段階 用量維持
バルサルバLVOT圧較差 < 30 mmHg
かつ LVEF ≧ 55%
目標に達していると判断 維持用量
心エコー検査の間隔を最大24週に延長可能

※増量を行った場合は、4週間後に再度心エコー検査を実施し、LVEFが50%未満に低下していないかを必ず確認する。

維持用量と判断される条件
  • バルサルバLVOT圧較差:30 mmHg未満
  • LVEF:55%以上
  • 上記を12週ごとの心エコーで2回連続して確認できた場合 → 維持用量に到達と判断
  • その後の心エコー検査は最大24週ごとに実施可能

※バルサルバLVOT圧較差バルサルバ法(呼吸操作)で左室流出路の圧力差を測定する方法。閉塞性肥大型心筋症の評価に使われる。
※LVEF(左室駆出率):心臓が1回の拍動でどれだけ血液を送り出せているかを示す指標(正常値:55%以上)。

休薬・中止の基準

  • 休薬基準:LVEFが50%未満 → 50%以上に回復するまで少なくとも4週間休薬。回復後は1段階減量して再開。
  • 中止基準:1mg投与中にLVEF50%未満で休薬 → 1mgでの投与再開から4週間後にLVEFが50%未満になった場合、投与を中止。
段階
投与量 1 mg 2.5 mg 5 mg 10 mg 15 mg

薬物動態パラメータ(PK)

バイオアベイラビリティ

  • 85

経口バイオアベイラビリティは臨床用量範囲内で約85%と推定された(IFP.45より)

経口投与後のバイオアベイラビリティは約85%と高く、安定した吸収が期待されます。

 全血液中薬物濃度/血漿中薬物濃度(B/P

  • 0.79

In vitro>マバカムテンの血漿中濃度に対する血中濃度の比は0.79 であった。(IFP.47より)

血漿中に主に分布する薬剤といえます。

 分布容積(Vd

  • 見かけの分布容積:293.5LIFP.45より)
    ※日本人8 例にマバカムテン25mg を空腹時単回投与

見かけの分布容積は293.5Lで、血漿中濃度に対する血中濃度の比(B/P)が0.79であることから、Vd(b)は約371.5Lとなります。

Vd(b)Vd/(B/P)293.5/0.79371.5

見かけの分布容積ですが、Vd(b)50となり、細胞内分布型の薬剤と考えられます。

 全身クリアランス(CL

  • 見かけの経口クリアランス(CL/F):1439mL/hIFP.44より)
    ※日本人8 例にマバカムテン25mg を空腹時単回投与

 尿中未変化体排泄率(Ae

  • 2.57

マバカムテン25mg 単回経口投与後47 日間で、総放射能の7.02%が糞便中から、85.2%が尿中から回収された。尿中で検出された未変化体は2.57%であった。また、糞便中で検出された未変化体は1%であった。(IFP.48より)

Ae30より肝代謝型の薬剤といえます。

 抽出比

みかけのクリアランスのため、腎抽出比(ER)・肝抽出比(EH)を算出することはできませんでした。

 タンパク結合率

  • 93.1IFP.47より)

タンパク結合率より結合していない(遊離形)割合が分かります。

血漿中遊離形率(fuP:fraction unbound in plasma)=10.9310.069

fuP0.2よりタンパク結合依存型の薬剤といえます。

つまり薬の多くが血液中でアルブミンなどのタンパク質とくっついて存在しているタイプです。薬が血液中に入ると、多くは血漿タンパク質(主にアルブミン)と結合します。このうち、タンパク質とくっついていない「遊離型(フリー)」の薬だけが、実際に体内で薬理作用を発揮できます。

なぜタンパク結合依存型だと注意が必要?

薬物間相互作用に注意
他の薬剤がアルブミンと競合することで、マバカムテンの遊離型が増加し、作用が強まりすぎたり、副作用が出やすくなる可能性があります。

低アルブミン血症に注意
肝障害や栄養不良などで血中アルブミンが低下すると、遊離型が相対的に増加し、同じ用量でも薬の効果が強く出るリスクがあります。

 半減期

  • 216.3時間(IFP.41より)
    ≒9日間

9日間×545日間と、定常状態に到達するまで約6週間かかります。また中止後も長く作用が持続するため注意が必要です。

    実臨床での注意点

    半減期が長い

    血中濃度の安定化に時間を要する一方、副作用が出た際も効果が持続するため、調整には時間がかかります。(調整については項目『用法用量と投与管理』参照))

    相互作用に注意すべき薬剤

    CYP阻害剤との併用に注意

    マバカムテンは主に CYP2C19およびCYP3A4 によって代謝されるため、これらの酵素を阻害する薬剤と併用すると、マバカムテンの血中濃度が上昇し、心機能抑制などの副作用リスクが高まる可能性があります。

    CYP阻害作用を持つ主な薬剤
    阻害するCYP 強い阻害薬 中程度の阻害薬 弱い阻害薬
    CYP2C19 フルコナゾール、フルボキサミン、チクロピジン オメプラゾール、ボリコナゾール カルバマゼピン、シメチジン
    CYP3A4 【禁忌】
    クラリスロマイシン、抗真菌薬(イトラコナゾール、ボリコナゾールなど)、抗HIV薬(リトナビルなど)
    アプレピタント、ジルチアゼム、ベラパミル、グレープフルーツジュース アルプラゾラム、シメチジン、フルボキサミン、イソニアジド
    • クラリスロマイシン、抗真菌薬、抗HIV薬などCYP3A4 を強く阻害する薬剤との併用は禁忌とされています。
    CYP誘導剤の中止・減量時におけるマバカムテンの用量調整について

    マバカムテン(カムザイオス®)はCYP2C19およびCYP3A4により主に代謝されます。したがって、これらの酵素の誘導剤を中止または減量することで、マバカムテンの代謝が遅くなり、血中濃度が増加する可能性があります。特に中止後は、マバカムテンの曝露量が緩徐に上昇し、定常状態に戻るまでに時間がかかるため、心機能(LVEF)や症状の変化に注意が必要となります。

    CYP誘導作用を持つ主な薬剤
    誘導するCYP 強い誘導薬 中程度の誘導薬 弱い誘導薬
    CYP2C19 リファンピシン
    CYP3A4 カルバマゼピン、フェニトイン、リファンピシン、セント・ジョーンズ・ワート ボセンタン、エファビレンツ、モダフィニル アプレピタント、ピオグリタゾン
    • 強い・中程度のCYP2C19誘導剤、強い・中程度・弱いCYP3A4誘導剤を中止または減量する場合、対応として、マバカムテンの用量を1段階減量します(例:1mgなら休薬)。その後4週間後にLVEFを確認し、状態を慎重に評価します。

    • 誘導作用の強さは用量や投与期間によっても変化する可能性があるため、TDM(血中濃度モニタリング)ができない薬剤では特に臨床所見の観察が重要です。

    LVEFと用量調整の実際

    LVEF50%を下回ると過剰な心筋抑制の可能性あり → 休薬・再評価が必要。

    用量は1mg~15mgの範囲で調整。(項目『用法用量と投与管理』参照)

    マバカムテンと従来治療の違い

    薬剤 主な作用 病態へのアプローチ
    β遮断薬 心拍数を抑制し、酸素消費を低下 症状の緩和(間接的アプローチ)
    ベラパミル 心拍数を抑制し、拡張時間を延長 症状の緩和(間接的アプローチ)
    マバカムテン 心筋の収縮力そのものを低下 病態の本質(収縮力過剰)に直接作用

    従来薬(β遮断薬、ベラパミル)は、心拍数を抑えることで症状の改善を図りますが、病態の原因である収縮力の過剰には直接作用しません。一方、マバカムテンは心筋のミオシンの働きを抑え、過剰な収縮を直接是正します。

    従来の治療が心拍数や血圧を間接的に調整していたのに対し、マバカムテンは病気の中心となる「心筋の収縮が強すぎる」という問題自体を根本から正す、非常に理にかなった治療です。

    『カムザイオス®(マバカムテン)薬物動態情報~実臨床での注意点とポイント~』まとめ

    • Ae:2.57% → 肝代謝型(Ae≦30)
    • Vd:293.5L → 細胞内分布型(Vd(b)≧50)
    • fuP:0.069 → タンパク結合依存型(fuP≦0.2)、薬物間相互作用や低アルブミン血症時の影響に注意が必要
    • バイオアベイラビリティ:85%
    • 半減期:216.3時間(長い)
    • CYP2C19・CYP3A4で代謝される → 相互作用に要注意
    • 作用機序:心収縮力の直接的な制御
    • LVEF50%未満 → 休薬・中止の判断指標

    マバカムテンは、従来のβ遮断薬やベラパミルとは異なり、HOCM(閉塞性肥大型心筋症)の根本的な機序に働きかける新規治療薬として注目されています。

    薬物動態の面では、蓄積性が高く、代謝酵素の影響を受けやすい薬剤であることが示されており、定期的な心エコーによるモニタリングと用量調整が非常に重要です。

    適切なモニタリングと用量調整のもとで使用すれば、HOCM治療における新たな治療選択肢として臨床的意義の高い薬剤となります。

    参考資料

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