硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド)とニコランジルは血管拡張薬であり心不全や虚血性心疾患で用いる薬剤です。
では、硝酸薬とニコランジルの各薬剤にはどのような違いがあるのでしょうか?一緒に確認していきましょう。
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Contents
硝酸薬・ニコランジルの薬物動態情報まとめ&使い分け
薬物動態情報
特徴づけ
尿中未変化体排泄率
硝酸薬・ニコランジルすべての薬剤は尿中未変化体排泄率30%未満であり、肝代謝型の薬剤でした。
分布容積
硝酸薬・ニコランジルすべての薬剤で分布容積Vd(b)の特徴づけはできませんでした。
特徴づけの詳細は各薬剤の記事をご確認ください。
剤型
硝酸薬・ニコランジルには急性期に使用される静脈注射薬、慢性期に使用される内服薬・貼付薬があります。また、狭心症発作時には舌下錠、スプレーが用いられます。
剤型と投与経路、効果発現時間、効果持続時間についてまとめました。
ニトログリセリンと硝酸イソソルビドにはさまざまな剤形があります。しかし、なぜニトログリセリン製剤には錠剤(経口投与)がないのでしょうか?また、なぜ一硝酸イソソルビド製剤の投与経路は経口だけなのでしょうか?順番にみていきましょう。
なぜニトログリセリン製剤には錠剤(経口投与)がないのか?
ニトログリセリンの投与経路は舌下、経皮、経静脈と経口投与の剤型がありません。これはニトログリセリンのバイオアベイラビリティが1%未満であり、経口投与では吸収されたあと肝臓で速やかに代謝され効力が低下してしまうためです。
なぜ一硝酸イソソルビド製剤の投与経路は経口だけなのか?
投与された一硝酸イソソルビドはほぼ100%吸収され薬剤が作用を示します。つまり、経口剤で十分であり、貼付剤(経皮投与)や注射剤(経静脈投与)など他の剤型があってもメリットがほとんどありません。
静脈投与が必要な病態(急性期など)の場合にはニトログリセリンや硝酸イソソルビド、ニコランジルが使用されます。
硝酸薬・ニコランジルの構造式
硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド)・ニコランジルの構造式をみてみましょう。
硝酸薬はニトロ基(-NO2)の数が異なっていますね。ニトログリセリンは三硝酸グリセリンともいい、ニトロ基が3つ、硝酸イソソルビドはニトロ基が2つ、一硝酸イソソルビドは名前のとおりニトロ基が1つです。
硝酸薬に限っていえば、ニトロ基の数が減っていくにつれて、バイオアベイラビリティが高くなっていますね。
- ニトログリセリン<硝酸イソソルビド<一硝酸イソソルビド
禁忌
硝酸薬・ニコランジルは、ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬・可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬との併用は禁忌となっています。併用により、血圧降下作用が増強し過度に降圧させる可能性があるためです。
- 肺動脈性肺高血圧症治療薬・勃起不全改善薬:シルデナフィル
- 勃起不全治療剤:バルデナフィル
- 肺動脈性肺高血圧症治療薬・勃起不全改善薬・排尿障害改善薬:タダラフィル
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症治療薬:リオシグアト
降圧効果
硝酸薬・ニコランジルは血管拡張薬なので、降圧作用があります。降圧作用はニコランジルと比べて硝酸薬の方が大きいとされています。これは硝酸薬が冠動脈主幹部などの太い血管を主に拡張するのに対し、ニコランジルは主に細い血管を拡張するためです。(太い血管を拡張する方が血圧は下がりやすいです。)
- 硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド)>ニコランジル
耐性
硝酸薬は耐性ができやすいと言われています。耐性ができると作用が減弱するため注意が必要です。作用が減弱するのを防ぐために間欠投与を用いることもあります。例えば内服では起床時・寝る前内服とか、テープ剤では夜貼って朝はがすといった指示です。
また、ニコランジルは硝酸薬と比べて耐性ができにくいとされています。
- 硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド)>ニコランジル
頭痛
硝酸薬、ニコランジルでは頭痛が報告されています。頻度としては硝酸薬の方が多いとされています。
- 硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド)>ニコランジル
また、薬剤開始時等は頭痛を起こす可能性がありますので、事前に説明しておくことが重要です。頭痛が治まるまで個人差はありますが1~2週間程度かかるため、2週間を超えても頭痛がひどい場合は医師に伝えるように指導しています。
硝酸薬・ニコランジルの使い分け
慢性期に使用する場合、個人的には、一硝酸イソソルビドもしくはニコランジルの経口投与を選択したいと考えます。ニトログリセリン・硝酸イソソルビドの貼付剤も内服錠数を減らすという観点からは良い選択肢と思います。
血圧が高い場合は、硝酸薬・ニコランジルどちらを選択しても良いと考えます。また、血圧が低い場合は、血圧を下げにくいとされるニコランジルを選択します。
開始後は頭痛が起きやすいので注意しますが、硝酸薬で頭痛があればニコランジルに変更を提案します。ただ、事前に頭痛が起こりうることは伝え、徐々におさまっていくため日常生活に支障が出てない場合は我慢するよう伝えることもあります。
最終的には頭痛の症状の重さと薬剤投与の必要性の程度(例えば、冠動脈狭窄があって治療予定であれば、治療終了までは硝酸薬を投与したいなど)により継続するか中止するかを医師が判断するため、病態をみながら医師と相談しながら薬物治療を行っています。
冠血管の狭窄がある場合は、硝酸薬とニコランジルを併用することもありますよ。
“硝酸薬・ニコランジルの薬物動態情報まとめ&使い分け”まとめ
- 肝代謝型の薬剤
- PDE5阻害薬、sGC刺激薬が禁忌
- バイオアベイラビリティが1%未満
- バイオアベイラビリティがほぼ100%
- ニトログリセリン<硝酸イソソルビド<一硝酸イソソルビド
- 硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド)>ニコランジル
- 硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド)>ニコランジル
- 硝酸薬(ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、一硝酸イソソルビド)>ニコランジル