消化管出血を防ぐつもりが…?NSAIDs+PPIの意外な落とし穴
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「NSAIDsを使うときはPPIを併用すれば安心」…そう思っていませんか?

近年の研究で、NSAIDs+PPI併用が下部消化管出血のリスクを高める可能性が指摘されています。

では、PPIが本当に必要なのはどんな患者なのでしょうか? 他に選択肢はあるのでしょうか? 一緒に見ていきましょう。

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Contents

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消化管出血を防ぐつもりが…?NSAIDs+PPIの意外な落とし穴

胃と腸、それぞれのリスク

NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)は、鎮痛や抗炎症作用を持つ一方で、消化管に対する副作用が知られています。これらの副作用は、上部消化管(胃・十二指腸)と下部消化管(小腸・大腸)で異なるメカニズムによって引き起こされます。

上部消化管(胃・十二指腸)への影響

NSAIDsは、胃や十二指腸の粘膜でプロスタグランジンの生成を抑制します。プロスタグランジンは、胃酸の分泌抑制や粘液の分泌促進など、粘膜の防御機能を維持する役割を持っています。そのため、NSAIDsの使用により粘膜の防御機能が低下し、潰瘍や出血のリスクが増加します。このリスクに対して、PPI(プロトンポンプ阻害薬)は胃酸の分泌を抑制することで、上部消化管の潰瘍や出血を予防する効果があります。

下部消化管(小腸・大腸)への影響

一方、NSAIDsは小腸や大腸の粘膜にも影響を及ぼします。具体的には、腸粘膜の防御機能を低下させ、腸内細菌叢のバランスを崩すことで、潰瘍や出血のリスクを高めます。特に、近年の研究では、NSAIDsとPPIを併用することで、下部消化管出血のリスクがさらに増加することが報告されています。

PPIを併用すると下部消化管出血リスクが…

韓国の5つの病院で行われた研究では、NSAIDs単独使用者とNSAIDs+PPI併用者を比較した結果、併用者の方が下部消化管出血のリスクが約2.8倍高い(ハザード比:2.843、95%信頼区間:1.998~4.044、p<0.001)と報告されました。1)

PPI併用による下部消化管出血リスク増加のメカニズム

PPIは胃酸の分泌を強力に抑制しますが、これにより小腸や大腸の環境が変化し、腸内細菌叢のバランスが乱れる可能性があります。具体的には、胃酸の減少により、通常は胃酸で抑制されている細菌が小腸や大腸に過剰に増殖し、腸粘膜に悪影響を及ぼすことが考えられます。このような腸内環境の変化が、下部消化管出血のリスク増加に寄与していると考えられます。

これらより、NSAIDsとPPIの併用に際しては、上部消化管の保護効果と下部消化管へのリスク増加のバランスを考慮することが重要です。患者のリスク因子に応じて、適切な消化管保護策を選択することが求められます。

本当にPPI併用が必要なケースとは?(リスク評価の重要性)

NSAIDsとPPIの併用が下部消化管出血リスクを高める可能性があることを踏まえ、適切な対策を考えることが重要です。単に「NSAIDsを使うならPPIを併用すればよい」と判断するのではなく、患者ごとのリスク評価を行い、最適な選択肢を検討する必要があります。

PPIの適応を考える際、以下のようなリスク因子を持つ患者ではPPI併用が有益と考えられます。

NSAIDs使用時の高リスク患者
  • 既往歴あり:消化性潰瘍や消化管出血の既往がある
  • 高齢者(65歳以上):加齢に伴い消化管の防御機能が低下
  • 抗血栓療法中:抗凝固薬(ワルファリン、DOAC)、抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレルなど)を併用
  • 重篤な疾患あり:慢性腎臓病、肝疾患、心血管疾患など

このようなリスク因子をもつ患者では、PPIを使用することで上部消化管のリスクを低減できるため、投与を検討する価値があると考えられます。

PPI以外の選択肢の検討

H2ブロッカー(H2受容体拮抗薬)

H2ブロッカーは、胃酸分泌を抑制することでNSAIDsによる上部消化管障害を軽減する効果が期待されます。しかし、PPIと比較すると潰瘍治癒・予防効果は劣るため、NSAIDs潰瘍の一次予防としては推奨されていません。

主なH2ブロッカーと作用
  • ファモチジン(ガスター®):H2受容体を阻害し、胃酸分泌を抑制(長時間作用)
  • ニザチジン(プロテカジン®):胃酸分泌抑制作用に加え、胃粘膜血流増加作用を持つ
H2ブロッカーの限界と併用の必要性
  • NSAIDs潰瘍の一次予防には推奨されない

日本消化器病学会の「消化性潰瘍診療ガイドライン2020」でも、NSAIDs潰瘍の一次予防にはPPIが推奨され、H2ブロッカーの使用は推奨されていません。

H2ブロッカーのNSAIDs潰瘍の予防効果について、胃潰瘍ではファモチジンは高用量(40mg×2回/日)で発生率が有意に低下、十二指腸潰瘍では「40mg×2回/日」「40mg×2回/日」ともに発生率を有意に低下したことが示されている。2)

日本の承認用量を考えると、十二指腸潰瘍の予防には有効と考えらますが、胃潰瘍には限定的と言えます。

PPIが使用できない場合の代替手段としての活用

PPIの長期使用による高マグネシウム血症や骨折リスクを考慮し、PPIの使用が難しい場合にH2ブロッカーを使用するケースがあります。ただし、H2ブロッカーには「タキフィラキシー(耐性の発現)」があり、長期使用で効果が減弱するため、持続的な胃酸抑制には不向きです。

H2ブロッカーまとめ
  • H2ブロッカーはNSAIDs潰瘍の一次予防としては推奨されず、PPIの方が効果的。
  • 胃潰瘍の予防にはPPIに劣るが、十二指腸潰瘍には一定の予防効果を示す。
  • PPIが使用できない場合の代替策として検討されることがあるが、長期使用で耐性が生じる点に注意。

防御因子増強薬

防御因子増強薬は、胃粘膜の保護や修復を促進することでNSAIDsによる消化管障害を軽減することが期待されます。しかし、単独での十分な効果は証明されておらず、NSAIDs潰瘍の治療や予防において第一選択とはなりません。

主な防御因子増強薬とその作用
  • レバミピド(ムコスタ®):胃粘膜の血流を改善し、粘液分泌を促進
  • スクラルファート:胃粘膜を直接保護し、潰瘍部位を覆う
  • ゲファルナート:胃粘膜の修復作用を持つ
防御因子増強薬の限界と併用の必要性
  • NSAIDs継続時の消化管障害予防における有効性は限定的

日本消化器病学会の「消化性潰瘍診療ガイドライン2020」では、NSAIDs潰瘍の治癒・予防においてPPIやプロスタグランジン製剤の有用性が認められる一方で、防御因子増強薬の有効性は実証されていないとされています。また、PPI(ランソプラゾール)と防御因子増強薬の併用に関して、潰瘍治癒の上乗せ効果が認められなかったという報告もあります。

単独使用よりも他の薬剤との併用が推奨されるケースもある

防御因子増強薬単独では十分な効果が得られないため、消化管リスクの高い患者ではPPIやプロスタグランジン製剤など、科学的根拠が確立された薬剤の使用が優先されます。ただし、PPIの長期使用による副作用が懸念される場合や、PPIが使用できない場合には、H2ブロッカーや防御因子増強薬の補助的な使用が検討されることがあります。

防御因子増強薬まとめ
  • 防御因子増強薬は胃粘膜の防御を強化するが、NSAIDsによる消化管障害の予防や治療の第一選択ではない。
  • PPIやプロスタグランジン製剤と比較して、NSAIDs潰瘍の治癒や予防効果は限定的。
  • 高リスク患者では、PPIやプロスタグランジン製剤が優先されるが、PPIが使えない場合に補助的な選択肢となることがある。

プロスタグランジン製剤(PGE1誘導体)

プロスタグランジン製剤は、NSAIDsによって低下する胃粘膜の防御機能を補う薬剤であり、胃潰瘍の予防に有効とされています。

主なプロスタグランジン製剤と作用
  • ミソプロストール(サイトテック®):胃粘膜の血流を増加させ、防御因子を強化
プロスタグランジン製剤の有効性と限界
  • NSAIDs潰瘍の予防効果はPPIと同等かそれ以上

ミソプロストールは、NSAIDs関連胃潰瘍の予防においてPPIと同等またはそれ以上の有効性を示した研究が多数報告されています。特に高リスク患者(高齢者・ステロイド併用など)ではPPIと並ぶ選択肢として考えられています。

副作用のため使用が制限されることが多い

ミソプロストールの主な副作用として、下痢・腹痛などの消化器症状が高頻度に発生します。また、妊娠中は禁忌(子宮収縮作用により流産のリスクあり)です。

PPIが使用できない場合の代替手段

PPIが使用できない患者(PPIによる低マグネシウム血症、骨折リスクが高い患者)に対して、プロスタグランジン製剤が考慮されることがあります。ただし、副作用を考慮し、長期使用には慎重な判断が必要です。

プロスタグランジン製剤まとめ
  • ミソプロストールはNSAIDs潰瘍の予防においてPPIと同等以上の効果を持つ。
  • 特に高リスク患者では有効な選択肢となるが、下痢・腹痛などの副作用が多いため広く使われていない。
  • PPIが使用できない場合の代替手段として検討されるが、慎重な使用が求められる。

COX-2選択的NSAIDsの活用

従来のNSAIDs(非選択的NSAIDs)はCOX-1とCOX-2の両方を阻害しますが、COX-1阻害が消化管障害の主な原因です。そこで、消化管への影響を軽減するために、COX-2選択的NSAIDs(セレコキシブなど)の使用が推奨される場合があります。

COX-2選択的NSAIDsのメリット

  • COX-1を抑制しにくいため、消化管障害リスクが低い
  • 特に上部消化管の潰瘍・出血リスクを低減
注意点
  • 心血管リスクがある患者では慎重に使用(心血管イベント増加をさせる報告あり)
  • 消化管障害のリスクがゼロになるわけではないため、慎重なリスク評価が必要

低用量NSAIDs+別の消化管保護策

NSAIDsの使用量を減らし、他の鎮痛薬や保護薬と組み合わせる方法も考えられます。

    1. NSAIDsの最低限の使用
      できるだけ低用量で使用し、短期間での投与を心がける
      必要に応じてアセトアミノフェンやトラマドールなどの鎮痛薬と併用し、NSAIDsの用量を抑える
    2. 消化管保護薬との併用
      防御因子増強薬、プロスタグランジン製剤を併用し、NSAIDsによるダメージを軽減

まとめ

NSAIDs+PPI併用の意外なリスク

  • PPIは上部消化管(胃・十二指腸)潰瘍の予防に有効だが、NSAIDsとの併用で下部消化管(小腸・大腸)出血リスクが増加する可能性がある。
  • NSAIDs+PPI併用群では下部消化管出血リスクが約2.8倍に増加するという報告がある。

PPIが本当に必要な患者とは?

  • 既往歴(消化性潰瘍・消化管出血)がある、高齢者(65歳以上)、抗血栓療法中、重篤な疾患がある患者では、PPI併用が有益となる可能性が高い。
  • すべてのNSAIDs使用者にPPIを一律に併用するのではなく、患者ごとのリスク評価が重要。

PPI以外の選択肢

  • H2ブロッカー:NSAIDs潰瘍の一次予防には推奨されないが、PPIが使用できない場合の代替策として検討される。
  • 防御因子増強薬:単独での十分な効果は証明されておらず、補助的な選択肢。
  • プロスタグランジン製剤:PPIと同等以上の予防効果があるが、副作用(下痢・腹痛)に注意。
  • COX-2選択的NSAIDs:消化管リスクは低いが、心血管イベントリスクに注意。
  • NSAIDsの使用量調整:最低限の用量で短期間の使用を心がけ、アセトアミノフェンなど他の鎮痛薬と組み合わせる。

結論:患者ごとのリスク評価がカギ

  • 「NSAIDsとPPIを併用すれば安心」と単純に考えるのではなく、上部消化管(胃・十二指腸)と下部消化管(小腸・大腸)のリスクのバランスを考えることが重要。
  • リスクの高い患者ではPPIを適切に使用し、PPIが適さない場合はH2ブロッカーや防御因子増強薬などの選択肢を検討する。
  • NSAIDsを適切に使いながら、消化管全体のリスクを考慮し、最も適した治療方針を選ぶことが求められる。

 

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