「高カリウム血症」は、腎機能の低下や薬剤の影響などで血中のカリウム濃度が異常に上昇する状態です。この症状は放置すると不整脈や心停止を引き起こすリスクがあるため、迅速な治療が求められます。
高カリウム血症の治療のひとつとして、腸内でカリウムを吸着し体外に排出するカリウム吸着薬があります。カリウム吸着薬には「カリメート」、「ケイキサレート」、「ロケルマ」、そして2024年9月に承認された「ビルタサ」という4つの薬剤がありますが、それぞれ異なる作用機序や副作用などの特徴を持っています。ここではカリウム吸着薬の違いについて詳しくみていきましょう。
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Contents
【高カリウム血症】知っておくべきカリウム吸着薬の違いと選び方
高カリウム血症とは
高カリウム血症の定義
高カリウム血症とは、血中のカリウム濃度が通常の範囲(3.5~5.0 mEq/L)を超えて上昇した状態を指します。カリウムは心筋や骨格筋の正常な活動に不可欠な電解質ですが、血中濃度が過剰になると神経や筋肉の興奮性が変化し、生命に関わる状態を引き起こします。
高カリウム血症の原因
高カリウム血症は、主に以下の要因によって引き起こされます。
- 腎不全:カリウムを排泄する役割を担う腎臓の機能低下により、体内にカリウムが蓄積します。
- 薬剤の影響:アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、カリウム保持性利尿薬などの薬剤がカリウムの排泄を妨げ、血中濃度を上昇させる可能性があります。
- 細胞の破壊:大やけどや筋肉の損傷、大量の細胞が破壊されることによって細胞内のカリウムが血中に漏れ出します。
- 食事:カリウムを多く含む食品を過剰に摂取した場合、腎機能が低下していると排泄が間に合わず高カリウム血症を引き起こす可能性があります。
高カリウム血症の症状
高カリウム血症は軽度の段階では無症状のことも多いですが、進行すると以下のような症状が現れることがあります。
- 不整脈:心拍が異常になるため、動悸や心電図異常が現れます。
- 筋力低下:筋肉の収縮が阻害され、脱力感や疲労感が強くなります。
- しびれ:手足にしびれ感や感覚の異常が見られることがあります。
- 心停止:重症化すると心臓が停止し、命に関わる状態に至ることもあります。
それでは、カリウム濃度を下げるために重要な役割を果たす、腸内でカリウムを吸着し体外へ排出するカリウム吸着薬について詳しく見ていきましょう。
カリウム吸着薬
カリウム吸着薬は、高カリウム血症の治療に使用され、主に腸内でカリウムを吸着し体外に排出することで、血中のカリウム濃度を低下させる薬剤です。この薬は、とくに腎不全や一部の薬剤の影響でカリウムが過剰に蓄積してしまう患者にたいして使用されます。
カリウム吸着薬には、「カリメート」、「ケイキサレート」、「ロケルマ」、そして2024年9月に承認された「ビルタサ」の4つがあり、それぞれ異なる特徴を持っています。それでは、各薬剤の特徴を詳しくみていきましょう。
カリメート(一般名:ポリスチレンスルホン酸カルシウム)
カリメート(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)は、腸管内でカルシウムイオンとカリウムイオンを交換することにより、血中のカリウム濃度を低下させる薬剤です。カリメートは主に下部結腸で作用するため、通常の経口投与に加えて、注腸(浣腸)として使用されることもありますが、近年では注腸での使用はあまり一般的ではなくなっています。
カリメートは通常、15~30g/日を2~3回に分割して投与します。患者の状態やカリウムの重篤度に応じて、医師が具体的な量を調整します。
禁忌としては、カリメートは腸管内で膨潤する性質を持っているため、腸閉塞のリスクが高い患者には禁忌とされています。
重大な副作用には、腸管穿孔、腸閉塞、大腸潰瘍などの消化管に関連する問題が挙げられます。このため、消化管に問題を抱える患者に使用する際は、慎重な対応が求められます。
ケイキサレート(一般名:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)
ケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)は、腸管内でナトリウムイオンとカリウムイオンを交換することにより、血中のカリウム濃度を低下させる薬剤です。ケイキサレートは、主に下部結腸で作用するため、経口投与以外に注腸(浣腸)として使用されることもありますが、近年では注腸での使用はあまり一般的ではなくなっています。
ケイキサレートは通常、30g/日を2~3回に分けて投与します。
ケイキサレートは水分により膨潤する特性があり、消化管内で滞留する可能性があるため、腸管穿孔、腸潰瘍、腸壊死などの重篤な消化管関連の副作用が報告されています。
Na負荷があるため、ナトリウム摂取量に注意が必要です。特に、心不全を有する患者では、ナトリウムの過剰摂取が心不全を悪化させるリスクがあるため、慎重な使用が求められます。ケイキサレート1gには0.254gの食塩(NaCl)が含まれており、1包(5g)で1.27gの食塩を摂取することになります。
ロケルマ(一般名:ジルコニウムシクロケイ酸)
ロケルマ(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)は、非ポリマーの無機結晶であり、腸管内でナトリウムイオン(および水素イオン)とカリウムイオンのイオン交換を行い、選択的にカリウムを吸着して体外に排出する薬剤です。この薬剤は水分で膨潤しないため、消化管に関連する副作用が少ないとされ、比較的安全性が高いと考えられています。
Na負荷があるため、ナトリウム摂取量に注意が必要です。特に、心不全を有する患者では、ナトリウムの過剰摂取が心不全を悪化させるリスクがあるため、注意が必要です。ロケルマ1gには0.2032gの食塩(NaCl)が含まれており、1包(5g)には1.016gの食塩が含まれていることになります。
ロケルマは、ナトリウム交換を行うため、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムと同様に、高ナトリウム血症やナトリウム負荷にたいする注意が必要ですが、消化管に対する負担が比較的少ない点で安全性が高い薬剤です。
ビルタサ(一般名:パチロマー)
パチロマー(ビルタサ)は、腸管内でカルシウムイオンとカリウムイオンを交換することによってカリウムを体外に排出する薬剤です
禁忌として、腸閉塞が挙げられます。パチロマーは水分により膨潤する特性があり、消化管に重大な副作用(腸管穿孔、腸閉塞)を引き起こす可能性があります。
パチロマーはナトリウムを含まないため、心不全や高ナトリウム血症リスクのある患者にとってより安全な選択肢とされています。
またビルタサ(パチロマー)は、冷所(2~8℃)で保存することが推奨されています。室温(1~30℃)での保管も可能ですが、室温で保存をする場合には、冷蔵庫外での保管開始日から3ヵ月以内に使用しない場合、その後は服用せずに廃棄する必要がある点に注意が必要です。
カリウム吸着薬選択の目安
患者の病歴、併存疾患、服薬コンプライアンス等により、適切なカリウム吸着薬を選択し、フォローアップしていくことが重要です。
カリウム吸着薬を投与するとなった場合は、以下のフローチャートのように薬剤を選択していきます。
腸閉塞の既往がある場合、ポリスチレンスルホン酸カルシウム製剤やパチロマーは水分で膨潤するため、消化管関連の副作用リスクが高く、禁忌とされています。
これに対して、ロケルマ(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム)は水分で膨潤しない特性を持ち、消化管に関連する副作用が少ないとされているため、このような患者には安全性が高い選択肢となります。
心不全患者に対しては、Na(ナトリウム)負荷が心不全を悪化させる可能性があるため、ナトリウムを含まない製剤を選ぶことが重要です。したがって、心不全患者にはポリスチレンスルホン酸カルシウム製剤やビルタサ(パチロマー)が適した選択肢となります。
水分負荷を避けたい場合は、ポリスチレンスルホン酸カルシウム経口ゼリーも選択肢となりますが、服用しづらいこともあるため、代わりにカリメート経口液(20ml/包)を使用すると他の薬剤と比べて1包あたりの水分量を抑えることが可能です。
服薬コンプライアンスの悪い患者には、1日1回の服用で済む製剤が推奨されますが、他の薬剤より費用がかかってしまうことには注意が必要です。
ロケルマ、ビルタサは1日1回製剤であり、維持量の最大用量の場合でも水分量は約80~90mlとなり水分負荷を抑えることが可能です。ただし、ロケルマ(2018年12月承認)とビルタサ(2024年9月承認)は後発品がないためポリスチレンスルホン酸を選択する場合に比べて薬価が3~5倍程度高くなってしまいます。
薬品名 | 規格 | 薬価(円) | 後発 |
ポリスチレンスルホン酸カルシウム | g | 10.1 | ― |
ポリスチレンスルホン酸Ca 経口ゼリー20%分包25g「三和」 |
個 | 77.8 | 後発 |
カリメート散 | g | 10.1 | ― |
カリメートドライシロップ92.59% | g | 10.4 | ― |
カリメート経口液20%25g | 包 | 77.8 | ― |
ポリスチレンスルホン酸ナトリウム | g | 9.1 | 後発 |
ケイキサレート散 | g | 10 | ― |
ケイキサレートドライシロップ76% | g | 9.4 | ― |
ロケルマ懸濁用散分包5g | 包 | 1024.3 | ― |
ロケルマ懸濁用散分包10g | 包 | 1504.6 | ― |
ビルタサ懸濁用散分包8.4g | 包 | 949.5 | ― |
『【高カリウム血症】知っておくべきカリウム吸着薬の違いと選び方』まとめ
- カリメート(ポリスチレンスルホン酸カルシウム)
・心不全の既往があるとき
・水分量を抑えたいとき(ゼリーまたは低用量の場合は経口液)
・薬剤費を抑えたいとき - ケイキサレート(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)
・薬剤費を抑えたいとき - ロケルマ(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)
・腸閉塞の既往があるとき
・水分量を抑えたいとき(高用量投与時)
・服薬コンプライアンスが悪いとき - ビルタサ(パチロマーソルビテクスカルシウム)
・心不全の既往があるとき
・水分量を抑えたいとき(高用量投与時)
・服薬コンプライアンスが悪いとき(冷所管理が可能の場合)
あくまで目安ですので、患者背景や目的に応じて、かつ総合的に考えて、判断・提案等していただければと思います。