プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、消化性潰瘍や胃食道逆流症(GERD)の治療薬として広く使用されています。しかし、PPIの長期使用には様々なリスクが指摘されており、「どこまで続けて良いのか?」という議論が絶えません。
- 添付文書は長期使用に慎重な立場を取っている
- ガイドラインでは特定の疾患では長期使用を容認するケースもある
- 実臨床では、実際に長年PPIを服用している患者は少なくない
では、どの情報を信じるべきなのでしょうか?
『心不全と薬物療法のニガテ』を解決するための1冊!
①知る
②整理する
③想像(イメージ)する
3ステップで心不全薬物療法の考え方を理解し、臨床に活用しよう!


薬剤師の“みや”です。
『薬の特徴や比較』、『循環器領域の薬物療法の考え方』、『論文の読み方のポイント』、『男性の育休取得時のポイント』などのテーマで記事を執筆しています。医療現場や日常生活で役立つ視点から、読者にわかりやすく、実用的な情報をお届けすることを心がけています。
Contents
PPI長期使用の考え方:添付文書vsガイドラインvs実臨床
PPI長期使用時の副作用リスク
PPIの長期使用に伴うリスクとして、以下の点が指摘されています。
- 骨折リスクの増加(特に高齢者)
- 低マグネシウム血症
- 腸内細菌叢の変化による感染リスク増加(Clostridioides difficile感染症など)
- 腎機能低下
添付文書の記載:PPIは短期使用が原則?
代表的なPPI(ランソプラゾール、ラベプラゾールなど)の添付文書では、「通常8週間以内の使用が推奨される」と記載されており、短期使用が原則とされています。
また、添付文書ではありませんが、医薬品安全性情報 Vol.9 No.16(2011/08/04)では、PPIの1年以上の使用と低マグネシウム血症の関連が報告されています。
添付文書の立場は一貫して「PPIは短期間で使用し、長期使用は慎重に行うべき」というものです。
ガイドラインの推奨:長期使用は容認されるのか?
ガイドラインは、疾患によってはPPIの長期使用を容認するケースがあります。
- GERD(胃食道逆流症):再発リスクの高い患者には長期使用も可
- NSAIDs潰瘍予防:NSAIDsを継続する限り、PPIを長期使用することが推奨される
- Barrett食道:食道腺がんリスク低減の可能性があり、PPIの継続を考慮
- 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレルなど)を服用している患者では、胃腸障害や消化管出血のリスクが高まるため、PPIの併用が推奨されるケースが多い
- クロピドグレルとオメプラゾールの相互作用(CYP2C19を介した代謝の競合)が指摘されており、PPIの選択時に注意が必要
ガイドラインは最新のエビデンスを反映するため、添付文書よりも柔軟な姿勢を取ることが多いです。
実臨床の実態:本当に短期間でやめられるのか?
- 一度PPIを処方されると、減量・中止が難しいケースも多い
- 症状がぶり返すことを恐れて漫然と処方を続けることがある
- 高齢患者では、過去の処方がそのまま継続されていることも
- 高リスク患者(過去に消化管出血歴あり):PPIの継続が強く推奨
- 低リスク患者:定期的なリスク評価を行い、必要に応じてPPIを中止または減量
- クロピドグレル使用時のPPI選択:オメプラゾールよりもランソプラゾールやエソメプラゾールが適しているケースも多い(相互作用の観点から)
ガイドラインの推奨がある疾患では長期使用が積極的に行われる一方で、本来は慎重にすべきケースでもPPIが続けられていることが課題とされています。
『PPI長期使用の考え方:添付文書vsガイドラインvs実臨床』まとめ
添付文書 | ガイドライン | 実臨床 | |
立場 | 安全性重視(慎重な推奨) | 最新エビデンス重視(柔軟な推奨) | 個別対応 |
長期使用 | 基本的に非推奨 | 特定の疾患では推奨 | 実際には漫然と続くことも |
抗血小板薬併用 | 明確な記載なし | 高リスク患者には推奨 | PPI併用が一般的 |
PPIの長期使用を管理するには、
- 添付文書に記載されている安全性の問題を理解する
- 最新のガイドラインの推奨を把握する
- 患者の症状・背景に合わせて慎重に判断する
ことが重要です。