高コレステロール血症に使用されるHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)はどれくらいLDLコレステロールを低下させるのでしょうか?
HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)はスタンダードスタチン、ストロングスタチンという名で分類されています。
名前のとおりストロングスタチンはスタンダードスタチンと比べてLDLコレステロールを低下させます。
ですがLDLコレステロールを低下させたいからといってストロングスタチンを選択しておけば良いというわけではありません。
“必要な量”を投与し、経過をフォローしていくことが重要です。
まずはこの記事で各スタチン製剤の投与量とLDLコレステロール低下率の関係を理解いただければと思います。
そして、適切な薬物療法のためには患者さんの背景と薬剤の特徴を把握することが必要です。
HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)について各薬剤のLDLコレステロール低下率や薬剤の特徴を一緒にみていきましょう。
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Contents
HMG-CoA還元酵素阻害薬とLDL-コレステロール低下率
HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系薬剤)は高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症に適応をもつ薬剤です。
HMG-CoA還元酵素阻害薬はそれぞれどのくらいLDLコレステロールを低下させるのか?
各薬剤インタビューフォーム(IF)より得られた値が下の表です。
LDL-C低下率により分類すると、以下のようになります。
各スタチン製剤のLDLコレステロール低下率の目安が分かりますね。
薬剤の選択だけでなく、薬剤の投与量も重要です。
スタチン単独で50%以上LDLコレステロールを低下させるのはロスバスタチンを最大量20mg投与した場合のみです。
また、スタチンには『6%ルール』があります。スタチンを倍量に増量しても効果は6%しか増加しないというものです。最初の表を見てもだいたいその程度ということが分かるかと思います。
スタチン単独で目標のLDLコレステロール値まで低下しない場合は他剤の併用が必要となります。
HMG-CoA還元酵素阻害薬の必要性
脂質のなかでもLDLコレステロール高値は心血管イベントリスクを高めます。
LDLコレステロールの目標値は1次予防と2次予防で変わってきます。
1次予防と2次予防
1次予防とは、生活習慣の改善、健康教育、予防接種などの病にかからないように施す処置や指導のことです。
2次予防とは、早期発見、早期治療を促して病が重症化しないように行われる処置や指導です。
LDLコレステロールの目標値
この記事では2次予防、つまり冠動脈疾患の既往がある場合について記載します。
冠動脈疾患の既往がある場合のLDL-コレステロール目標値は70mg/dL未満となります。(その他詳細はガイドライン等を参照してください)
LDL-コレステロール低下率を把握しておくと、LDL-コレステロール目標値は70mg/dL未満を達成するためにどの薬剤をどのくらいの投与量で投与すればよいか目安をつけることができます。
それ以降は、LDL-コレステロール値をみながら必要に応じて増量や他剤を併用していくことになります。
HMG-CoA還元酵素阻害薬の薬物動態的特徴
LDLコレステロール低下率だけで薬剤選択するわけではありません。それぞれの薬の特徴があります。
スタチンの主な排泄部位は胆汁排泄になるので、各スタチンは肝臓で代謝された後、胆汁で排泄されるということになります。
水溶性スタチンのプラバスタチンは腎排泄+胆汁排泄、ロスバスタチンは胆汁排泄、脂溶性スタチンであるその他のスタチンは肝代謝により肝臓より薬剤が消失します。
その他の情報としてシンバスタチンは唯一プロドラッグ型のスタチンとなります。
水溶性と脂溶性
水溶性の薬剤は名前の通り水に溶けやすい製剤ですが、脂溶性(水に溶けにくい)の薬剤は肝臓で代謝され、水に溶けやすい状態となります。
また、一般的に水溶性の薬剤は、ヒトの細胞膜を通過できないため、組織への移行性が低く、副作用や薬の相互作用が少ないと言われています。
逆に脂溶性の薬剤は、ヒトの細胞膜を通過し組織への移行性が高いと言われています。
CYPの影響
シンバスタチンとアトルバスタチンはCYP3A4、フルバスタチンはCYP2C9による影響を受ける薬剤のため、CYPを阻害する薬剤との併用には注意が必要です。
それに対し、プラバスタチンとピタバスタチン、ロスバスタチンはCYPによる影響を受けない・受けにくい薬剤です。
HMG-CoA還元酵素阻害薬の薬物動態的特徴
薬物動態情報より実施した特徴づけは上表となります。
また、表中“―”は情報がないか、分類不可の場合です。
個々の薬剤についてどのようにその判断をしたか詳細はコチラの記事たちをご参照ください。
薬物動態情報の活用方法についてはコチラの記事をご参照ください。
HMG-CoA還元酵素阻害薬の見逃せない副作用
重大な副作用として横紋筋融解症、肝機能障害、間質性肺炎などがあります。
横紋筋融解症
横紋筋融解症の初期症状として筋肉痛(原因の思い当たらない)、褐色尿(飲み物のコーラみたいな色)といった症状が見られます。
筋肉痛がなくても血液検査でCPKを測定し、異常がないか定期的に確認しているはずです。
腎機能低下時やフィブラート系といわれる薬剤との併用時に横紋筋融解症のリスクが高くなります。
また、CYPの阻害等、併用薬により薬剤血中濃度が上昇する場合も注意が必要です。
たまに雑誌等で『飲むと危険な薬』みたいな特集に載っていることもありますが、肝機能・腎機能・併用薬など患者背景によっても危険度は変わってきますし、1次予防・2次予防どちらで用いているのかによって薬の必要度も変わってきます。
メリット、デメリットを判断した上で医師も処方していますし、医師だけでなく薬剤師目線でも薬物の適正使用と定期的なフォローが必要です。
発現率は低いですが、早期発見し重症にならないことが重要です。
肝機能障害
肝臓で代謝される薬剤であるため注意が必要です。
基本的には血液検査でのフォローになります。(重症の場合には黄疸が見られることもあります。)
- T-bil(総ビリルビン)
- AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)
- ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)
- γ-GTP(γグルタミルトランスペプチダーゼ)
間質性肺炎
細胞内分布型の薬剤(と考えられるものも含む)であり、間質性肺炎のリスクがあると考えられます。
呼吸苦といった自覚症状があり、胸部レントゲンでのスリガラス陰影やKL-6(採血検査)の上昇が認められる場合は間質性肺炎の可能性があります。
こちらも発現率は低いですが、早期発見し重症にならないことが重要です。
スタチンのLDLコレステロール低下率、薬剤特徴比較、使い分けまとめ
HMG-CoA還元酵素阻害薬とLDL-コレステロール低下率
- LDLコレステロールを最低用量で一番低下させるのはロスバスタチン
- LDLコレステロールをスタチン単独で50%以上低下させるのであればロスバスタチン20mg
- スタチンの6%ルール:スタチンを倍量に増量してもLDLコレステロール低下は+6%
- スタチン単独で目標値に到達しない場合は、他剤併用を検討する
HMG-CoA還元酵素阻害薬各薬剤の特徴
- 水溶性スタチン
・腎排泄・胆汁排泄:プラバスタチン
・胆汁排泄:ロスバスタチン - 脂溶性スタチン
・肝代謝:シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン
- プロドラッグ:シンバスタチン
- CYPの影響を受けない:プラバスタチン、ピタバスタチン
- CYPの影響を受けにくい:ロスバスタチン
- CYP3A4阻害作用のある薬剤との併用注意:シンバスタチン、アトルバスタチン
- CYP2C9阻害作用のある薬剤との併用注意:フルバスタチン
- 重大な副作用:横紋筋融解症、肝機能障害、間質性肺炎など
- 筋肉痛(原因の思い当たらない)
- 褐色尿(飲み物のコーラみたいな色)
HMG-CoA還元酵素阻害薬の使い分け
- LDLコレステロールをとにかく低下させたい場合はロスバスタチン
- CYPの影響を受けずLDLコレステロールを強く低下させたい場合はピタバスタチン
二次予防ではLDLコレステロールの基準が厳しくなるためストロングスタチンの中から選択させることが多くなると思いますが、一次予防ではスタンダードスタチンが選択されるケースもあります。
ある程度LDLコレステロールを低下させたい、CYPの影響も気にする必要がない場合は目標が達成できそうなスタチンであればどれを選択しても問題ありません。
どのHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が使用されていても重要なのは、目標LDL-コレステロールを達成することと副作用を起こさないことです。
HMG-CoA還元酵素阻害薬の薬物動態情報を把握して、薬の適正使用につなげていきましょう。
- 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版(日本動脈硬化学会)
- メバロチン®錠 IF, 2021年6月改訂(第15版)
- リポバス®錠 IF, 2021年7月改訂(第30版)
- ローコール®錠 IF, 2021年10月(第11版)
- リピトール®錠 IF, 2021年8月作成(第1版)
- リバロ®錠 IF, 2020年12月改訂(第31版)
- クレストール®錠 IF, 2021年2月(改訂第22版)
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