SGLT2阻害薬は尿に糖を出すことで血糖を下げる薬です。
SGLT2阻害薬は現在6薬剤発売されています。
今回はその中の1つであり、2型糖尿病以外にも1型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病にも適応のあるフォシーガ®(ダパグリフロジン)の薬物動態情報を見ていきたいと思います。
各動態情報の項目について詳細は下記記事をご参照ください。
本記事中のIFは『フォシーガ®IF, 2021年8月(第11版)』のことです。
Contents
フォシーガ®(ダパグリフロジン)薬物動態情報
効能効果
効能又は効果
- 2型糖尿病
- 1型糖尿病
- 慢性心不全(慢性心不全の標準的な治療を受けていること)
- 慢性腎臓病(末期腎不全又は透析施行中の患者を除く)
効能又は効果に関連する注意
〈1型糖尿病、2型糖尿病〉
- 重度の腎機能障害のある患者又は透析中の末期腎不全患者では本剤の血糖降下作用が期待できないため、投与しないこと。
- 中等度の腎機能障害のある患者では本剤の血糖降下作用が十分に得られない可能性があるので投与の必要性を慎重に判断すること。
- 本剤の適用はあらかじめ糖尿病治療の基本である食事療法、運動療法を十分に行った上で効果が不十分な場合に限り考慮すること。
〈1型糖尿病〉
- 本剤の適用はあらかじめ適切なインスリン治療を十分に行った上で、血糖コントロールが不十分な場合に限ること。
〈慢性心不全〉
左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。(2023年1月改定により削除)- 「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。
〈慢性腎臓病〉
- eGFRが25mL/min/1.73m2未満の患者では、本剤の腎保護作用が十分に得られない可能性があること、本剤投与中にeGFRが低下することがあり、腎機能障害が悪化するおそれがあることから、投与の必要性を慎重に判断すること。eGFRが25mL/min/1.73m2未満の患者を対象とした臨床試験は実施していない。
- 「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(原疾患、併用薬、腎機能等)を十分に理解した上で、慢性腎臓病に対するガイドラインにおける診断基準や重症度分類等を参考に、適応患者を選択すること。
用法用量
用法及び用量
- 2型糖尿病
ダパグリフロジン 1日1回5mg経口投与
効果不十分な場合は1日1回10mgに増量可 - 1型糖尿病
ダパグリフロジン 1日1回5mg経口投与
効果不十分な場合は1日1回10mgに増量可
※インスリン製剤との併用下 - 慢性心不全、慢性腎臓病
ダパグリフロジン 1日1回10mg経口投与
用法及び用量に関連する注意
〈1型糖尿病〉
- 本剤はインスリン製剤の代替薬ではない。インスリン製剤の投与を中止すると急激な高血糖やケトアシドーシスが起こるおそれがあるので、本剤の投与にあたってはインスリン製剤を中止しないこと。
- 本剤とインスリン製剤の併用にあたっては、低血糖リスクを軽減するためにインスリン製剤の減量を検討すること。ただし、過度な減量はケトアシドーシスのリスクを高めるので注意すること。なお、臨床試験では、インスリン製剤の1日投与量の減量は20%以内とすることが推奨された。
〈慢性心不全、慢性腎臓病〉
- 1型糖尿病を合併する患者では、糖尿病治療に精通した医師あるいはその指導のもとで、適切な対応が行える管理下で5mg1日1回から投与を開始すること。また、経過を十分に観察しながらインスリン量を調整した後、10mg1日1回に増量すること。5mg1日1回では慢性心不全及び慢性腎臓病に対する有効性は確認されていない。
バイオアベイラビリティ
- 絶対バイオアベイラビリティ78%
(IF:P.109より)
全血液中薬物濃度/血漿中薬物濃度(B/P)
- 赤血球移行率(平均値)37 %
(フォシーガ®審査報告書, 平成26年1月6日, 審査報告(1)P.37より)
血球移行率37%で計算します。
血漿分布率=1-0.37=0.63
B/P=全血液中薬物濃度/血漿中薬物濃度・(1-Ht)とHt=0.5より
B/P=1/0.63・(1-0.5)=0.79
分布容積(Vd)
- 118 L
(IF:P.108より)
Vd(b)=Vd/(B/P)=118/0.79=149
Vd(b)≧50より細胞内分布型の薬剤といえます。
全身クリアランス
- 15.3(L/h)
(IF:P.108より)
単位をml/minに換算すると255ml/minとなります。
尿中未変化体排泄率(Ae)
- 2%未満(IF:P.115より)
Ae≦30より肝代謝型の薬剤といえます。
また、全身クリアランス(CL)≒肝クリアランス(CLH)とします。
抽出比
- 肝抽出比
EH=CLH/(B/P)/QH=255/0.79/1600=0.202
EH<0.3より消失能依存型の薬剤といえます。
タンパク結合率
- 約91%(in vitro)
(IF:P.111より)
タンパク結合率より結合していない(遊離形)割合が分かります。
血漿中遊離形率(fuP)=1-0.91=0.09
fuP<0.2よりタンパク結合依存型の薬剤といえます。
半減期
12.1時間(IF:P.102より)
その他
「左室駆出率が低下した心不全患者(HFrEF)において、心不全の標準治療へのSGLT2阻害薬ダパグリフロジンの追加は、糖尿病の有無にかかわらず、プラセボにくらべ心不全の悪化および心血管死のリスクを低下させた」という結果が得られました1)。
これまで左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)に適応のあるSGLT2阻害薬はエンパグリフロジンのみでした。
しかし2022年5月、ダパグリフロジンもHFrEFだけでなくHFpEFにも有効という結果が得られたことが発表されました2)。論文の発表が楽しみですね。
2022年9月にダパグリフロジンがHFpEFに有効という論文も発表3)され、2023年1月に電子添付文書が改定されました。(「効能又は効果に関連する注意」の項の慢性心不全における「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。」の記載が削除)
これにより、ダパグリフロジンは左室駆出率にかかわらず慢性心不全に使用可能となりました。
またダパグリフロジンは慢性腎不全に適応があるSGLT2阻害薬です。
「慢性腎臓病の患者では、2型糖尿病の有無にかかわらず、持続的なeGFR≧50%の減少+末期腎不全+腎疾患死+心血管死の複合エンドポイントは、ダパグリフロジン群でプラセボ群にくらべ有意に低いという結果が得られました4)。
フォシーガ®(ダパグリフロジン)薬物動態情報まとめ
- 適応:2型糖尿病、1型糖尿病、慢性心不全、慢性腎臓病
- Ae:2%未満→肝代謝型(Ae≦30)
- EH:0.202→消失能依存型(EH<0.3)
- Vd(b):149L→細胞内分布型(Vd(b)≧50)
- fuP:0.09→タンパク結合依存型(fuP≦0.2)
- バイオアベイラビリティ:78%
- 半減期:12.1時間
2) https://www.astrazeneca.com/media-centre/press-releases/2022/farxiga-hfpef-phase-iii-trial-met-primary-endpoint.html , (2022年5月28日最終アクセス)