ACE-I・ARB・MRA・ARNIはなぜ心保護効果があるのか?
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心不全の薬物療法には目に見えやすい作用と目に見えにくい作用があります。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)といったレニン‐アンジオテンシン系に作用する薬剤は目に見えにくい作用として心保護効果があります。心保護効果はどのようにして得られているのでしょうか。

この記事を読むとなぜ心保護効果があるのか理解することができます。

では一緒に見ていきましょう。

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アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)の特徴
  • 目に見える作用:血圧を下げる
  • 目に見えにくい作用:心保護作用
  • 注意する副作用:血圧低下、高カリウム血症
  • 注意する副作用(ACE-Iのみ):空咳、血管浮腫
  • 薬:~プリル
    先発医薬品名(成分名)
    ・レニベース®(エナラプリル)
    ・ロンゲス®、ゼストリル®(リシノプリル)
    ・カプトリル®(カプトプリル)
    ・タナトリル®(イミダプリル)
    ・エースコール®(テモカプリル)
    ・コバシル®(ペリンドプリル)

    ACE-Iと次に説明するARBの特徴の違いは空咳と血管浮腫です。これはACE-Iに特徴的な副作用です。空咳や血管浮腫が発現しACE-Iの忍容性がなければ(継続できなければ)ARBへの変更を検討します。

    アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)

    アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の特徴
    • 目に見える作用:血圧を下げる
    • 目に見えにくい作用:心保護作用
    • 注意する副作用: 血圧低下、高カリウム血症
    • 薬:~サルタン
      先発医薬品名(成分名)
      ・ニューロタン®(ロサルタン)
      ・ディオバン®(バルサルタン)
      ・ミカルディス®(テルミサルタン)
      ・オルメテック®(オルメサルタン)
      ・アバプロ®、イルベタン®(イルベサルタン)
      ・アジルバ®(アジルサルタン)

      ACE-IとARBの作用機序

      アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I:Angiotensin Converting Enzyme Inhibitor)はアンジオテンシン変換酵素(ACE)の働きを阻害することで、原因物質であるアンジオテンシンⅡの生成を抑制し、作用を示します。

      アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARBAngiotensinReceptor Blocker)は原因物質であるアンジオテンシンⅡが受容体に作用しないように拮抗し、作用を示します。

      ACE-I・ARBの作用機序はまとめてレニン・アンジオテンシン(RA)系と言われ、両薬剤とも降圧作用もありますが、心不全に対しては主に心臓を保護する目的で使用されます。

      アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換させるのですが、それ以外にもブラジキニンを分解する作用もあります。

      つまりACE-Iを使用するとブラジキニンの分解が抑制されるということになります。

      空咳はACE-Iのもつブラジキニン分解抑制作用によって増加したブラジキニンによる肺胞刺激が原因と考えられています。(誤嚥性肺炎の予防として用いることもあります。)

      また、ブラジキニンは血管拡張や血管透過性を亢進する作用があります。これにより、血管浮腫が発症すると考えられています。血管浮腫の症状は、皮膚のどこにでもあらわれ、多くの場合、瞼や唇、頬に多くみられます。皮膚以外にも、口の中、舌、喉、消化管などの粘膜に発症することもあります。

      ACE-IかARBかですが、基本的には生命予後に関するエビデンスが多いACE-Iが第一選択ですが、空咳や血管浮腫などで忍容性がなければARBを選択します。

      また、ACE-IARBの併用は副作用(腎障害、高カリウム血症、低血圧など)の観点から推奨されていません。

      ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA

      ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の特徴
      • 目に見える作用:血圧を下げる
      • 目に見えにくい作用:心保護作用
      • 注意する副作用:高カリウム血症
      • 薬:アルダクトンA®(スピロノラクトン)、セララ®(エプレレノン)

      ※MRAにはミネブロ®(エサキセレノン)もありますが、コチラの医薬品は心不全に対しての適応を取得しておりません。(記載時点)

      ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRAmineralocorticoid receptor antagonist)も降圧作用もありますが、心不全に対しては主に心臓を保護する目的で使用されます。

      MRAはACE-IまたはARBと併用されますが、高カリウム血症に注意が必要です。

      また、腎機能障害時の投与に注意が必要です。重度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス30mL/分未満)のある患者ではスピロノラクトンは慎重投与ですが、エプレレノンは禁忌に該当します。

      腎機能障害時はカリウムが体外に排泄しにくくなっていますので、より高カリウム血症の注意が必要になります。

      ACE-IARBMRAはなぜ心保護と言われるのか?

      ACE-I、ARB、MRAはなぜ心保護と言われるのか?

      これは各作用部位の受容体が刺激を受けるとどのような作用を示すかを理解すると分かります。

      では作用部位を見ていきましょう。

      アンジオテンシンⅡ受容体にはAT1受容体とAT2受容体があります。

      AT1受容体は刺激されると血管収縮、Na貯留、心肥大、線維化、動脈硬化など心臓に対して悪い影響を与えます。

      AT2受容体は刺激されると血管拡張、心肥大抑制、線維化抑制、抗動脈硬化など心臓に対して良い影響を与えます。AT2受容体は血管障害や心筋梗塞、心肥大などの病的状態(すでに悪い状態のとき)において高発現します。

      ARBはAT1受容体をブロックします。心不全患者にARBを使用することで悪い影響を押さえるだけでなく、AT2受容体が高発現している状態ではAT2受容体が刺激され心臓に対して良い影響、心保護効果が得られるということになります。

      ACE-Iは、上流でアンジオテンシンⅡを作らせないように酵素の働きを阻害します。AT1受容体を刺激するアンジオテンシンⅡの量が減るので、悪影響を与えず、心保護効果が得られるということになります。

       

      また、MRAはアルドステロンがMR受容体に作用するのを阻害します。アルドステロンがMR受容体に作用すると、Na貯留、心肥大、線維化などの心臓に対して悪い影響を与えるため、作用を防ぐことで、心臓に対して悪い影響が出るのを防ぎます。つまり心保護効果が得られるということになります。

      アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI

      アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)の特徴
      • 目に見える作用:血圧を下げる
      • 目に見えにくい作用:心保護作用
      • 注意する副作用:血圧低下、高カリウム血症
      • 薬:エンレスト®(サクビトリルバルサルタン)

        アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNIAngiotensin Receptor-Neprilysin Inhibitor)はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)とネプリライシン阻害薬の合剤です。

        2020年発売の新しい薬です。

        ネプリライシンは内因性ナトリウム利尿ペプチド(ANPBNPなど)を不活性化する分解酵素です。ネプリライシン阻害薬は、ネプリライシンを阻害することで内因性ナトリウム利尿ペプチドの分解を抑制します。分解を防ぐので内因性ナトリウム利尿ペプチドの作用(血管拡張、利尿、心肥大抑制、線維化抑制、腎保護など)が得られます。

        ネプリライシン阻害薬はARBとの合剤ですが、ここまでの記載を見てACE-Iとの合剤でも良かったのではないか?と思った方もいるのではないでしょうか。実際、ネプリライシン阻害薬とACE-Iの合剤でも研究されていましたが、重篤な血管浮腫が認められ、ARBとの合剤になりました。

         

        ARNI開始時に注意点があるのですが、心不全の標準的な薬物療法を受けている方に使用可能で、ACE-I又はARBから切り替えて投与する必要があります。最初からARNIを開始することはできません。

        ACE-IからARNIの切り替え時には血管浮腫発現の可能性があるため、ARNI開始の36時間前にはACE-Iを中止する必要があります。(ACE-I投与中の患者、あるいは投与中止から36時間以内の患者は添付文書上禁忌に該当します。)

        ARBからの切り替え時にはこのような注意事項はありません。

        ACE-Iが第一選択で、空咳や血管浮腫が認められる場合にはARBを検討すると記載しましたが、今後はARNIを使うことを見据えてARBが選択されることも増えてくるのではないかと思います。

        また、ネプリライシンはBNPの分解を阻害するため、ARNI投与後にBNPの上昇がみられます。そのため開始後に心不全の重症度の指標としてBNPを測定する場合は検査結果の解釈に注意が必要です。(BNP上昇が薬剤だけが原因か心不全の悪化もあるのか分かりにくい)そのため、ARNIを開始する際はNT-proBNPを用いて評価をします。

        まとめ

        • アンジオテンシンⅡ受容体にはAT1受容体とAT2受容体がある。
        • ACE-I、ARBはAT1受容体をブロックし血管収縮、Na貯留、心肥大、線維化、動脈硬化などを防ぐため心保護効果と言われる。
        • MRAはMR受容体をブロックしNa貯留、心肥大、線維化などを防ぐため心保護効果と言われる。
        • ARNIはARBとネプリライシン阻害薬の合剤である。
        • ネプリライシン阻害薬は、ネプリライシンを阻害し内因性ナトリウム利尿ペプチドの分解を抑制し内因性ナトリウム利尿ペプチドの作用の作用(血管拡張、利尿、心肥大抑制、線維化抑制、腎保護など)が得られるため心保護効果と言われる。

         

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        挫折せず一気読み出来ました!

        中でもコラムが気に入りました。

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