アデノシン二リン酸(ADP)P2Y12受容体阻害薬は血小板凝集を抑制する抗血小板薬です。
虚血性心疾患のステント治療後などに、アスピリンと併用して使用されます。
この抗血小板薬を2剤併用することをDAPT(Dual Anti-Platelet Therapy)といいます。
また、ADP(P2Y12)受容体阻害薬にはチエノピリジン系(第1~第3世代)と非チエノピリジン系の薬剤があり、それぞれ薬剤の違いがあります。
ではADP(P2Y12)受容体阻害薬の各薬剤の特徴、違いについて一緒にみていきましょう。
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Contents
【抗血小板薬】ADP(P2Y12)受容体阻害薬の特徴比較
系統、世代別に記載すると下記となります。
- 第1世代:チクロピジン
- 第2世代:クロピドグレル
- 第3世代:プラスグレル
- チカグレロル
各薬剤の構造式は下図となります。
チエノピリジンとは、
窒素を1つ含む六員環芳香族化合物であるピリジンと、
硫黄を1つ含む五員環芳香族化合物であるチオフェンが、
環の1辺を共有して縮合した二環式化合物のことです。
個々の薬剤の薬物動態情報はコチラの記事たちをご覧ください。
チエノピリジン系と非チエノピリジン系の異なる点
チエノピリジン系薬剤はプロドラッグのため代謝されてから効果を示します。
非チエノピリジン系薬剤はP2Y12受容体に直接作用します。
そのためチエノピリジン系と比べて非チエノピリジン系の薬剤は効果が出るまでの時間が速い傾向にあります。
作用発現時間:チエノピリジン系>非チエノピリジン系
(プラスグレルとチカグレロルは同じくらい)
また、チエノピリジン系の薬剤は血小板に非可逆的に作用しますが、非チエノピリジン系薬剤は可逆的に作用します。
そのため非チエノピリジン系薬剤の方が、作用消失時間は速いです。
作用消失時間:チエノピリジン系>非チエノピリジン系
第1世代チエノピリジン系
第1世代チエノピリジン系のチクロピジンは血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)や無顆粒球症といった重篤な副作用があり、過去に2度イエローレターが出ている薬剤です。
プロドラッグでありCYP2C9、CYP2C19、CYP3A4で代謝されて産生された活性代謝物が作用を示します。
第2世代チエノピリジン系
第2世代チエノピリジン系のクロピドグレルは第1世代チエノピリジン系のデメリットであったTTPや無顆粒球症といった副作用が少ない薬剤です。
日本人は人種的にCYP2C19の“poor metabolizer”といった遺伝子多型があります。
つまり、クロピドグレルの効果が十分に得られない人がいる可能性があります。
例えば、クロピドグレルはバイアスピリンと併用するケースも多く、消化器症状予防目的にPPIが処方されるケースも多いです。
オメプラゾールはCYP2C19で代謝に競合しクロピドグレルの効果が減弱します。
そのため、PPIを使用する際はオメプラゾールではなくランソプラゾールやラベプラゾールなどを使用したほうが良いと思います。
第3世代チエノピリジン系
第3世代チエノピリジン系のプラスグレルはクロピドグレルと異なり、遺伝子多型による“poor metabolizer”の問題がありません。
経口投与されたプラスグレルは、小腸細胞でカルボキシルエステラーゼにより速やかに代謝され、さらに小腸及び肝臓で主にCYP3A4及びCYP2B6による代謝をうけ活性代謝物となります。
非チエノピリジン系
非チエノピリジン系のチカグレロルはシクロペンチルトリアゾロピリミジン(CPTP:cyclopentyltriazolopyrimidine)系に分類されます。
可逆的に抗血小板作用を示し、半減期がみじかいため1日2回内服する必要があります。
チカグレロルはプロドラッグではなくそれ自身に抗血小板作用がありますが、CYP3A4による代謝物にも活性を示すものがあります。
また、P-糖蛋白の基質であるため、P-糖蛋白阻害作用を持つ薬剤との併用に注意が必要です。
チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルの共通点
チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルの共通点は
- 肝代謝型の薬剤
- タンパク結合依存型の薬剤
という点です。
肝代謝型(主に肝臓で薬剤が消失する)薬剤であり、肝機能低下時は特に薬物血中濃度が上昇する可能性があるため注意が必要です。
また、タンパク結合依存型(タンパク結合率の影響を受けやすい)薬剤であり、アルブミンが低下した状態(感染などの炎症、腎機能低下時、低栄養状態)やタンパク結合の競合など、薬物相互作用により薬物血中濃度が上昇する可能性があるため注意が必要です。
作用発現時間
急性心筋梗塞の治療では、発症から再灌流までの総虚血時間をいかに短くするかが重要であるとされ、発症から120 分以内の再灌流が目標とされています。
また、ステント血栓症は手技後24時間以内に多いため、ステント留置時には抗血小板薬が十分に効果を発揮していることが望ましいとされています。
例えば、病院到着時にローディング量を内服して発症から120分以内の再灌流が達成できたとしても、クロピドグレルの作用発現時間は4~5時間とステント治療後から少なくとも2~3時間のあいだはクロピドグレルの十分な効果は得られていないということになります。
そのため特に急性期では、作用発現時間の短いプラスグレル、チカグレロルは大きなメリットだと思います。
血小板凝集抑制率
血小板凝集抑制率の大きさで比べると、
チクロピジン<クロピドグレル≦プラスグレル<チカグレロル
となります。
使い分け(個人的見解です)
- 急性心筋梗塞発症急性期:プラスグレル、チカグレロル
- 急性心筋梗塞治療後:クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロル
(チクロピジンは新規で始めるケースはまずないと思います…)
1日2回の薬剤に比べ、1日1回の薬剤の方が飲み忘れも少ないと思いますので、個人的にはまず1日1回の薬剤を提案します。
1日1回の薬剤と比べ1日2回の薬剤にかなり大きなメリットがあればもちろん別です。
他にも1日2回の薬を飲んでいるのであれば1日1回でも2回でも良いとは思います。
また、記載時点で薬価的には後発医薬品のあるクロピドグレルがプラスグレル、チカグレロルに比べ安価です。
- チクロピジン100mg:11.80円(後発)、25.20円(先発)
- クロピドグレル75mg:30.30円(後発)、152.00円(先発)
- プラスグレル3.75mg:275.00円(先発)
- チカグレロル90mg:284.00円(先発)
比較しやすいように1日薬価(後発品の薬価がメーカーで異なる場合は最小薬価)で記載しています。
チクロピジンとチカグレロルは1日2回内服の薬剤なので、1錠薬価はそれぞれ1/2してください。
クロピドグレルの後発品は特にプラスグレル、チカグレロルに比べ安価です。
そのため、初期(ローディングのみも含む)だけプラスグレルでその後クロピドグレル後発品に切り替えるという選択肢はありだと思います。
また、すでにアスピリンとクロピドグレルを服用しているのに、ステント血栓症や再狭窄等を起こす場合は、より血小板凝集抑制率の高いプラスグレルやチカグレロルを選択するべきだと思います。
やはり薬の選択には患者背景の把握が重要だと思いますね。
【抗血小板薬】ADP(P2Y12)受容体阻害薬の特徴比較まとめ
- 第1世代:チクロピジン→重篤な副作用(血栓性血小板減少性紫斑病、無顆粒球症など)でイエローレター2回
- 第2世代:クロピドグレル→日本人はCYP2C19の遺伝子多型あり
- 第3世代:プラスグレル
- チカグレロル→P糖蛋白阻害作用を持つ薬剤との併用に注意