交感神経作動性強心薬(アドレナリン作動薬)とは、一般的に循環不全における短期的な改善を目的として使用される薬です。
ドパミン、ドブタミン、アドレナリン、ノルアドレナリンなどがあります。
これらの薬の違いはどの受容体(場所)に作用するかで、得られる効果が少しずつ変わってきます。
この記事では、交感神経作動性強心薬の違いと注意するべき副作用について記載していきます。
まず、各薬剤がどこに作用するかをまとめた表です。
すべてβ1受容体を刺激する作用があります。
一般的に、心筋のβ1受容体を刺激する交感神経アゴニスト(作動薬・刺激薬)は頻脈や不整脈、そして心筋酸素消費量の増加という共通の副作用が認められます。(β1遮断薬の逆の作用です。)
以下に各薬剤の特徴等について記載していきますが、これらの薬では上室性頻拍や心房細動、心室性期外収縮、心室性頻拍、心室細動等の不整脈が発生する可能性があります。
また、ノルアドレナリンでは徐脈(血圧上昇に伴う自律神経系の徐脈反射)が起こる可能性があります。
では、ドパミンとドブタミン、アドレナリンとノルアドレナリンについて個々の薬剤を見た後に違いを比較していきましょう。
ドパミン
- 適応:
・急性循環不全(心原性ショック、出血性ショック)
・下記のような急性循環不全状態に使用する。
(1)無尿、乏尿や利尿剤で利尿が得られない場合
(2)脈拍数の増加した状態
(3)他の強心・昇圧剤により副作用が認められたり、好ましい反応が得られない状態 - ドパミンは用量により目的となる主な作用が変わる
・低用量:D1受容体の刺激⇒腎動脈の拡張による利尿作用
・中用量:β1受容体の刺激⇒心収縮力の増強作用
・高用量:α1受容体の刺激⇒末梢血管の収縮による昇圧作用※用量:低 2~5、中 5~10、高 10~20μg/kg/min
ドブタミン
-
適応:急性循環不全における心収縮力増強
-
作用:
・β1受容体の刺激(作用が強い)⇒心収縮力の増強作用(作用が強い)
・α1受容体の刺激(作用が弱い)⇒末梢血管の収縮による昇圧作用(作用は弱い)
ドパミンとドブタミンの違い
まずは、D1受容体への作用があるかどうかが大きな違いです。
ドブタミンは(ドパミンと比較して)
- 利尿作用がない
- 血圧に影響を与えにくい
つまり、
- 血圧が低い場合はドパミン
- 血圧が維持できている場合はドブタミン
を選択することが多いかと思います。
また、前述したように、β1受容体を刺激する交感神経アゴニスト(作動薬・刺激薬)では頻脈や不整脈が認められます。上室性頻拍、重篤な心室性不整脈の発生頻度はドパミンよりドブタミンで少ないとされています。
循環動態は血圧と心拍数と(循環)血液量で表すことができます。(他にも影響を与える因子等あるかもしれませんが、ここでは割愛します。)
式で表すと下のようになります。
循環動態=血圧×心拍数×血液量
循環動態が低下した状態で使用される薬剤ですので、どうやって元の状態に近付けていくのかといった話になります。
各薬剤イメージで見た方が分かりやすいと思います。イメージなので細かい部分は考慮していません。あまり気にしないでください。
実際に薬を使用するとき血圧、心拍数等のバイタルサインを確認しながら投与量調節していくと思いますので、どういった状態なのか等を把握できた方が良いと思います。
また、血液量が少ない場合に輸液を追加するということが分かっていただけるかと思います。
例えば、下の図では、ドパミンは「循環動態が低下しているので、血圧・心拍数を上げて、つまり心拍出量を上げて循環動態を改善しよう」、ドブタミンは「循環動態が低下しているので、心拍数を上げて、つまり心拍出量を上げて循環動態を改善しよう」というイメージです。血圧が正常な人に対して血圧を上げる必要はありませんので、ドブタミンが選択されます。
アドレナリン
- 使用目的:アナフィラキシーショック、心肺蘇生時など
- 作用
・β1受容体の刺激 ⇒心収縮力の増強作用
・β2受容体の刺激(低用量)⇒血管拡張作用
・α1受容体の刺激(高用量)⇒血管収縮作用(血圧上昇)、頻脈を惹起する(高用量は心不全患者には望ましくない作用)
ノルアドレナリン
- 使用目的:急性の血圧低下時(ショック)における昇圧
- 作用
・β1受容体の刺激⇒心収縮力の増強作用
・α1受容体の刺激⇒血管収縮作用(血圧上昇)
※徐脈(血圧上昇に伴う自律神経系の徐脈反射)
アドレナリンとノルアドレナリンの違い
β2受容体作用あり⇒アドレナリン
β2受容体作用なし⇒ノルアドレナリン
β2受容体作用は末梢血管拡張作用なので、その作用がない分、ノルアドレナリンはアドレナリンと比較し、より血管を収縮させます。
つまり、ノルアドレナリンの方が血圧を上げる昇圧作用があるということです。
そのため、ノルアドレナリンでは血圧上昇に伴う自律神経系の徐脈反射にも注意が必要となります。
簡単に言い換えると、血圧が上がり過ぎたので、心拍数を下げて循環動態を安定させようということです。(徐脈になった場合はアトロピンという薬剤を使用します。)
こちらもイメージで見た方が分かりやすいと思います。
ノルアドレナリンは血圧が上がり過ぎた場合、その反射で心拍数を下げて調整し、徐脈になる可能性があります。
こういった薬剤は緊急時に使用されるので、不整脈が出たときも簡単には中止できないと思います。
薬で循環動態を維持しているので、中止するとそのうち破綻します。(状態が状態なので薬が原因かどうかもわからないかもしれません。)
あくまでイメージです。
実際に薬を使用するとき血圧、心拍数等のバイタルサインを確認しながら投与量調節していくと思います。
なので、このような薬を使用するときは薬の特徴も大事ですが、患者がどういった状態なのか、しっかりと把握することが大事です。
まとめ
- ドパミン:心収縮増強(低血圧時)
- ドブタミン:心収縮増強
- アドレナリン:アナフィラキシーショック、心肺蘇生時
- ノルアドレナリン:低血圧(ショック)時
※患者の状態を把握して投与量調節する
- 全ての薬剤(β1刺激作用によるもの):上室性頻拍、心室細動等の心室性不整脈(ドブタミンはドパミンに比べ不整脈の発生頻度は低い)
- ノルアドレナリン:徐脈(血圧上昇に伴う自律神経系の徐脈反射)
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このブログが書籍になりました。『心電図最後の教科書【NEXT STEP】~薬剤性不整脈編~』