心不全とは〇〇の状態である~原因から心不全を理解しよう~
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心不全とは何でしょうか?

心不全とは、『何らかの原因により、心臓のポンプ機能が低下して、全身の臓器が必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態』をいいます。

心不全は病名ではありません。

心臓が衰えた状態をあらわす症候名、つまり症状を認めている状態です。

では、何が原因で心不全症状を認めている状態になるのでしょうか。

例えば、狭心症・心筋梗塞、心臓弁膜症、先天異常、心筋炎、不整脈、甲状腺疾患、高血圧、腎不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、貧血、加齢などが心不全を惹き起こす原因として考えられます。

一つの原因により心不全を引き起こすこともあれば、いくつかの原因が重なって心不全を引き起こすこともあります。

心不全の治療は、原因を取り除いてあげること、症状を改善してあげることが重要です。

これらの原因で心不全が起こりうる理由を一つ一つ考えていきたいと思います。

なぜその状態(原因)から心不全になるかを一緒にイメージしてみましょう。

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原因1.心筋梗塞

心臓(左心室)を動かすためには、心臓へ酸素やエネルギー源を豊富に供給すること、つまり多くの血液が必要です。

そして、心臓に血液を供給するための血管を冠動脈といいます。

心筋梗塞は冠動脈が完全に詰まった状態です。

例えば、1方通行の道路をトラックやバイクで食糧を運んでいるとします。

心筋梗塞は道路が障害物で完全にふさがれてしまってその先に食糧が送れない状態です。

冠血管が詰まったその先に酸素やエネルギー源を供給できない状態です。

放っておくと心筋が壊死していきますので、早急な対応が必要です。

 

障害物をどかしてトラックやバイクが通れるようにしてあげるのが経皮的冠動脈形成術(PCI)、障害物を避けて迂回路をつくってあげるのが冠動脈バイパス手術(CABG)のイメージになります。

 

原因2.狭心症

狭心症は冠動脈が何らかの原因により細くなった状態です。

狭心症の状態が続くと心不全を惹き起こす可能性があります。

例えば、1方通行の道路をトラックやバイクで食糧を運んでいるとします。

途中の道に障害物があり道路を90%塞いでしまいました。(冠動脈狭窄90%の状態です。)

トラックは道路を通れませんが、バイクは通れます。

しかし、バイクではトラックの10%の量しか運ぶことができません。

必要な量の食糧を届けることができないため、もちろん食べる量も減ってしまいます。

これが続けば弱ってきてしまいますよね。

この状態が心不全です。

障害物を取り除くための治療は、心筋梗塞と同様(PCIまたはCABG)です。

 

狭心症では硝酸薬などの冠血管拡張作用がある薬剤でも症状を改善することは可能です。

道路を拡げて一時的にトラックが通れるようにしてあげるというイメージです。

しかし、障害物を取り除いたわけではありませんので、根本的な解決にはなっていません。

今後、障害物自体が大きくなったり、硝酸薬が効かなくなる場合もあります。(硝酸薬は耐性ができる可能性があります。)

心筋梗塞では硝酸薬により、症状は改善するのでしょうか?

 

硝酸薬は血管(内皮細胞)と血液が触れている部分で冠血管拡張作用を示すと考えてください。

心筋梗塞は完全に血管が詰まっている状態ですので、詰まった場所(障害物)より先では血管と血液は触れていない状態です。

つまり、心筋梗塞では硝酸薬の効果は期待できないということです。

原因3.心臓弁膜症

心臓弁膜症は心臓の弁に問題が生じた状態です。

大きく分けると、弁が上手に閉じなくなった閉鎖不全と、弁の通り道が狭くなった狭窄症があります。

正常、閉鎖不全、狭窄症の違いを図にしました。

閉鎖不全・狭窄症ともに、送り出す血液量(酸素量)が必要な量よりも少ない場合に、心不全を発症する可能性があります。

ここでは僧帽弁閉鎖不全症と大動脈弁狭窄症で考えてみます。

 

○僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症は、何らかの理由により、僧帽弁がうまく閉じなくなってしまった状態です。

僧帽弁は、左心房と左心室のあいだにある弁です。

 

僧帽弁がうまく閉じないと左心室から左心房へ血液が逆流します。

普段、左心室から全身に送っている血液を100%としたら、逆流して、80%しか左心室に血液がたまりません。

80%の血液量しか全身に送れなくなった状態と考えてください。

 

%を人数に換算して考えてみます。

 

80人で100人分の仕事をしている状態です。

最初は頑張って仕事をできると思いますが、この状態がずっと続いたら疲れてしまいますよね。

疲れて症状が出てきたら心不全です。

 

○大動脈弁狭窄症

大動脈弁狭窄症は、何らかの理由により大動脈弁の通り道が狭くなった(狭窄した)状態です。

 

大動脈弁は、左心室と大動脈のあいだにある弁です。

 

大動脈弁が狭窄すると、左心室から全身に送る血液量が減ってしまいます。

例えば、普段、左心室から全身に送っている血液を100%としたら、通り道が狭くなって、80%の血液量しか送れなくなった状態と考えてください。

 

%を人数に換算して考えてみます。

80人で100人分の仕事をしている状態です。

最初は頑張って仕事をできると思いますが、この状態がずっと続いたら疲れてしまいますよね。

疲れて症状が出てきたら心不全です。

 

さらに、大動脈弁狭窄症ではずっと左心室に負荷がかかった状態です。

どういうことか。

拡張期には100人左心室にいますが、80人しか大動脈弁を通れません。

収縮期に0人となるはずが20人はそのまま左心室に残っています。

0人という空の状態では負荷はありませんが、左心室に20人残った状態は負荷がかかっています。

負荷が長い期間続いた結果、左心室の壁が肥大します(心肥大)。

 

例えば、筋トレを続けると、筋肉が大きくなると思いますが、心臓も心筋という筋肉でできていますので、それと同じイメージです。

24時間365日、それ以上休まずにずーっと筋トレを続けていると思ってください。

辛いですよね。

長いこと筋トレを頑張りすぎて心臓の筋肉が分厚くなった状態が心肥大です。

原因4.不整脈

頻脈(例えば心房細動)の場合、心臓が収縮したあと、拡張が十分ではないために、左心室に血液が充填される前に収縮する可能性があります。

つまり、必要な血液を十分に送りだせていない可能性があるということです。

 

1分間に心臓から送り出した血液量=1回に送りだす血液×心拍数

で表すことができます。(1分間に心臓から送り出した血液量は心拍出量のことです。)

 

心臓が1回の拍動で送り出す血液量は約50 mlですので、心拍数を80/分とすると、

正常:心拍出量=血液量50 ml×心拍数80/分=4,000

となります。

 

正常な場合は心臓から送り出される血液は約50 mlですが、頻脈では25 mlまで入った段階で血液を送り出すと仮定します。

 

頻脈:心拍出量=血液量25 ml×心拍数160/分=4,000

 

必要な酸素量を供給するために心臓は頑張り続けているわけです。

そのうち心臓が疲弊し、維持できなくなってくると、心不全を引き起こす可能性があります。

心房細動を完治させるには薬ではなく、カテーテルアブレーション(ABL)等の治療が必要です。

 

徐脈の場合は、心臓から送り出される血液は通常時と変わりませんが、心拍数が通常より遅いため、全身が必要な血液を十分に送りだせていない可能性があります。

 

正常を血液量50 ml、心拍数80/分とします。

心拍出量=50 ml×80回=4,000 mlが供給できる血液量だとして、例えば2,500 mlを下回った状態が続くと心不全症状が出てくると仮定します。

 

心拍数40/分と徐脈になった場合、心拍出量=50 ml×40回=2,000 ml2,500 mlを下回り、必要な血液量(酸素量)を供給できないため、心不全を引き起こす可能性があります。(数字は分かりやすくするためのイメージです)

 

正常、頻脈、徐脈のときの左心室にたまる血液量のイメージです。(イメージについて、頻脈はイメージしやすくするため、『拡張時間を半分≒正常時の2倍の心拍数』で考えています)

正常と徐脈で体内の血液量は変わっていません。

正常では左心室に血液をためて、全身に血液を送ることが問題なくできていました。

しかし、徐脈の場合、50 mlたまるまでの時間が長くなっています。

正常のときに左心室にたまる予定だった血液はどこにいったのでしょうか。

この左心室にたまる予定だった血液が、血管内に維持できる血液量の限界を超えるとうっ血として症状が出ます。

左心室に問題がありますので肺にうっ血が見られます。

また、右心系に問題があれば、右心不全になりますので、全身にうっ血が見られます。

原因5.先天異常

冠動脈や心臓の弁に先天的に異常がある場合です。

冠動脈や弁に問題が起きた場合、心不全の原因となることは『原因2.狭心症』『原因3.心臓弁膜症』などをご確認ください。

原因6.心筋炎

心筋炎とは、心臓の筋肉に炎症が発生した状態のことをいいます。

心臓の筋肉に炎症が生じると心臓の持つポンプ機能が障害を受けたり、心臓の電気回路に影響が出て不整脈となりえます。

この状態が続くと、心不全を惹き起こす可能性があります。

心不全の分類について記載した記事の分類3の心拍出量が低下、分類4の低灌流状態がポンプ機能低下の状態です。(現在、心不全分類の記事を記載中です。もう少々お待ちください。)

また、不整脈については原因4の記載をご確認ください。

原因7.甲状腺疾患

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される甲状腺機能亢進症の自覚症状に脈拍増加による動悸があります。

つまり、頻脈傾向です。

心房細動を発症している方もいます。

 

甲状腺ホルモンの分泌が減少する甲状腺機能低下症では徐脈傾向となります。

 

甲状腺疾患から不整脈を引き起こし、心不全の原因となりうることがつながりましたか?(『原因4.不整脈』参照)

また、甲状腺疾患は倦怠感も自覚症状としてあり、心不全と症状が似ています。

甲状腺疾患の治療が必要です。

原因8.高血圧

高血圧とは文字通り血管の“圧”が高い状態です。

収縮時または/かつ拡張時も絶えず負荷がかかっています。

負荷がかかっている状態は、心臓が頑張っている状態ですから、そのうち心臓が頑張りすぎて疲れてしまいます。

心臓が頑張っている状態が続いて疲れたり、筋トレ状態(負荷)が続いて心臓の筋肉が厚くなったり(心肥大)して心不全を引き起こす可能性があります。

原因9.腎疾患

腎臓とは、血液をろ過して、体内で不要になった水分や物質(薬剤等)を、尿として排出する臓器です。

腎臓の機能が低下すると、不要物を体内から排出する力も低下します。

これを補うために、心臓はより多くの血液量を心臓から送り出す必要がありますので、心臓に負荷がかかります。

頑張りすぎると心臓が疲れてしまって、心不全を引き起こす可能性があるということです。

 

逆に、先に心臓の機能が低下して全身への血液量が減った場合、腎臓への血液量も減りますので、腎臓からの不要物が排出できなくなるため、腎機能が低下する可能性があります。

 

心臓と腎臓のいずれか一方に問題が起こると、他の方にも影響して問題が起こる可能性があり、心腎連関と言われています。

原因10.慢性閉塞性肺疾患

慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは二酸化炭素が出しにくく、また酸素を取り込みにくくなった状態です。

酸素が取り込めず、血液中の酸素濃度が低くなったらどうなるでしょうか。

心臓が動くためには酸素が必要です。

酸素濃度が低い状態が続いたら、心臓も頑張ってたくさん血液を送ろうとします。

この状態が続いた(心臓が頑張った結果)、心不全を惹き起こす可能性があります。

原因11.貧血

貧血にもいろいろ種類はありますが、簡単に言うとヘモグロビン濃度が低くなった状態です。

ヘモグロビンは酸素を運搬します。

つまり、ヘモグロビン濃度が低いということは、酸素が十分量供給できない可能性があります。

そのため心不全の原因となりえるのです。

原因12.加齢

加齢だけでは心不全は起こしにくいですが、年を重ねるにつれて原因111の症状が起こりやすくなります。

そのため、加齢も心不全を引き起こす原因といえます。

その他の原因

風邪や不眠、ストレス、暴飲暴食などが最後のひと押しとなって心不全を引き起こしたり悪化させてしまう可能性もあります。

心不全を発症するということは多くの要因が背景にはあるということを想像しておかなければなりません。

まとめ

心不全の原因は記載した以外にも色々ありますが、原因は何であれ共通点は全身に送る血液量(酸素量)が必要とする血液量(酸素量)よりも少ない状態が続いたことです。

『必要量>供給量』の状態に耐えられなくなった段階で心不全の自覚症状が発生してきます。

心不全の治療は、原因を取り除いてあげること、症状を改善してあげることが重要です。

 

 

 

 

 

 

 

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