薬物トランスポーターとは何でしょうか。
トランスポーターとは英語でTransporter「運搬装置」という意味の言葉です。つまり薬物トランスポーターとは薬物の運搬装置となります。
また薬物トランスポーターによる薬物相互作用は多く、薬物トランスポーターの阻害・誘導は薬の作用に影響を与えます。薬物トランスポーターは薬物相互作用を理解するうえで知っておきたい内容です。
添付文書等でよく目にするP-gp、OATP1B1も薬物トランスポーターの1つです。
ほかにもMDR1、ABCB1、MRP1~6、ABCC1~6、BSEP、ABCB11、MATE、OCT-1~3、OCTN-1~3、OAT-1~4、OATP-A~E、OATP2/8、PEPT1、PEPT2などがあります。
私自身も正直ニガテです。何言っているかよく分かりませんよね。
でも大丈夫。名前よりもどのような働きをするのかの方が大事です。
まずは大きく分類わけしてみましょう。
薬物の運搬は大きく2つに分けることができます。
薬物を細胞の中から外へ運搬するトランスポーターと外から中へ運搬するトランスポーターです。
これだけでだいぶスッキリしませんか?
では、薬物トランスポーターについて一緒に見ていきましょう。
Contents
薬物トランスポーターって何?
薬物トランスポーターは生体膜に存在し細胞内から細胞外へ、細胞外から細胞内へ、薬物の輸送を行う酵素のことです。
薬物の吸収、分布、排泄などの過程で重要な働きをします。
薬物トランスポーター(酵素)によって輸送される薬物と、薬物トランスポーターを阻害する薬剤を使用すると、薬物を輸送できなくなります。もし細胞外から細胞内に薬物を輸送するトランスポーターが阻害されれば薬物は吸収されにくくなり、逆に細胞内から細胞外に薬物を輸送するトランスポーターを阻害されれば薬物は体外に排泄されにくくなっているということになります。
薬物トランスポーターにはどんな種類があるの?
薬物トランスポーターには薬物を細胞外へ排泄するものと細胞内へ吸収するものがあります。
薬物を排泄するトランスポーターとしてATP Binding Cassette (ABC)トランスポーター、多剤・毒性化合物排出輸送体(MATE)が、薬物を吸収するトランスポーターとして有機イオン(SLC)トランスポーター、ペプチドトランスポーター(PEPT)があります。ではひとつひとつみていきましょう。
ABC(ATP Binding Cassette)トランスポーター
ABCトランスポーターとは生体内のATPの加水分解エネルギーを利用して、細胞内から細胞外へ薬物を運ぶ酵素群のことです。
P糖蛋白質(P-gp)(別名MDR1、ABCB1)や、多剤耐性関連蛋白質(MRP1~6)ファミリー(別名ABCC1~6)、胆汁酸塩排泄トランスポーター(BSEP)(別名ABCB11)などがあります。
- P-gp:P-glycoprotein
- MDR:multidrug resistance protein(多剤耐性蛋白)
- MRP:multidrug resistance-associated protein(多剤耐性関連蛋白質)
- BSEP:bile salt export pump
多剤・毒性化合物排出輸送体(MATE:multidrug and toxin extrusion)
MATEはプロトン(H+)/有機カチオントランスポーターです。細胞外から細胞内へのH+移動と同時に、カチオン性(塩基性)薬剤を細胞内から細胞外に移動します。
有機イオン(SLC:solute carrier)トランスポーター
カチオン(陽イオン)トランスポーターには有機カチオントランスポーター(OCT-1~3)、カルニチン有機カチオントランスポーター(OCTN-1~3)があります。
アニオン(陰イオン)トランスポーターには有機アニオントランスポーター(OAT-1~4)、有機アニオントランスポーティングポリペプチド(OATP-A~E、2/8)などがあります。
- OCT:organic cation transporter
- OCTN:carnitine/organic cation transporter
- OAT:organic anion transporter
- OATP:organic anion transporting polypeptide
OATP1B1は添付文書等でよく目にすることがあると思いますが、OATP2の別名です。
ペプチドトランスポーター(PEPT:Peptide Transporters)
蛋白質の消化産物であるジペプチドやトリペプチドなどを細胞内に輸送するトランスポーターのことです。PEPT1、PEPT2があります。
トランスポーターの機能
ABCトランスポーターとMATEは細胞内から細胞外への方向に薬を輸送し、SLCトランスポーターとPEPTは細胞外から細胞内への方向に薬を輸送します。またトランスポーターの発現する生体膜が血管側か組織・脳側かどちらに発現するかによってトランスポーターの役割は逆になります。
例えば、ABCトランスポーターのP-gpの相互作用はP-gpの阻害による作用増強、P-gpの誘導による作用減弱の可能性があります。P-gpは消化管では組織側に存在します。P-gp阻害作用を持つ薬剤と併用すると、細胞内から組織への移行を抑制します。組織へ移行できず行き場を失った薬物は血管側に移行します。血中濃度が上昇するということです。つまり作用増強です。
P-gpの基質となりうる薬剤として直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)やサムスカ®(トルバプタン)などがあります。またP-gpを阻害する薬物としてワソラン®(ベラパミル)やアンカロン®(アミオダロン)などがあります。
まとめ
薬物トランスポーターとは生体膜に存在し細胞内から細胞外へまたは細胞外から細胞内へ薬物の輸送を行う酵素のこと
- ABC(ATP Binding Cassette)トランスポーター
- P糖蛋白質(P-gp)(別名MDR1、ABCB1)
- 多剤耐性関連蛋白質(MRP1~6)ファミリー(別名ABCC1~6)
- 胆汁酸塩排泄トランスポーター(BSEP)(別名ABCB11)
- 多剤・毒性化合物排出輸送体(MATE:multidrug and toxin extrusion)
- 有機イオン(SLC:solute carrier)トランスポーター
- 有機カチオントランスポーター(OCT-1~3)
- カルニチン有機カチオントランスポーター(OCTN-1~3)
- 有機アニオントランスポーター(OAT-1~4)
- 有機アニオントランスポーティングポリペプチド(OATP-A~E、2/8)(OATP2の別名:OATP1B1)
- ペプチドトランスポーター(PEPT:Peptide Transporters)
略語や別名がたくさんあってややこしいですが名前を頑張って覚えるよりも、細胞内から細胞外へまたは細胞外から細胞内へ薬物を移動させるというトランスポーターの働きを理解することが重要だと思いますよ。