【静脈栄養】すぐできる必要栄養量の計算!その点滴大丈夫?
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栄養ってどれくらい必要なの?

なんか栄養量の計算って難しそうと思うかもしれませんが、食わず嫌いなだけです。

必要栄養量の計算は本当に本当に簡単です!

また、病棟でビーフリードなど末梢静脈栄養だけで長期間栄養管理されている患者さんがいた場合、「点滴が投与されているから大丈夫」と思いますか?実はヤバいかもしれません。それが具体的にどうヤバいのか考えてみたことはありますか。

 

この記事では

  • 必要栄養量の計算
  • 栄養投与経路の選択
  • 末梢静脈栄養と静脈栄養投与の違い
  • 末梢静脈栄養のみでの長期栄養管理に注意

について分かります。

 

動画でサクッと聞き流し(1.5倍速推奨)[10:37]

動画の目次
00:31 必要栄養量の計算
03:45 投与経路の選択
05:22 末梢静脈栄養と中心静脈栄養の違い
07:01 よくある処方⁉で考えてみよう
08:56 まとめ

 

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必要栄養量の計算

それでは必要栄養量の計算をしていきます。

必要栄養量を算出するための式がありますのでみてみましょう。

Harris-Benedictの式

男性: 13.397×体重kg+4.799×身長cm−5.677×年齢+88.362

女性: 9.247×体重kg+3.098×身長cm−4.33×年齢+447.593

国立健康・栄養研究所の式
((0.1238+(0.0481×体重kg)+(0.0234×身長cm)-(0.0138×年齢)-性別*1))×1000/4.186
注)*1;男性=0.5473×1、女性=0.5473×2

式の名前は聞いたことあるかも…と思う方もいるかと思います。とはいえこのような式を覚えますか?難しいですよね。正直私も覚えていません。

臨床ではだいたいの必要量が分かれば十分です。簡易式を使いましょう。

簡易式
体重kg×25~35

覚えやすくないですか?

普段は体重kg×30を用います。なぜなら計算がしやすいからです。×25や×35の場合は電卓等必要になるかもしれませんが、×30ならベッドサイドでもおおよその必要量はすぐ計算できますよね!

また25~35と幅があるのは病態{疾患(糖尿病、腎不全など)や活動度(ベッド上安静、寝たきりなど)、身体への負担(外傷や手術、褥瘡の有無など)}により必要エネルギー量は異なってくるためです。

肥満の方など少なめに投与したい場合には×25、活動度が高い場合や褥瘡がある場合など多めに投与したい場合には×35などを用いると良いでしょう。

もし体重が50kgだった場合は、
必要栄養量=50kg×30kcal=1500kcal
1500kcalが必要栄養量となります。

1500kcalが必要栄養量だということは分かりました。

ではどのように摂取しますか?

糖質で1500kcal?蛋白質で1500kcal?脂質で1500kcal?とはならないですよね。
次はどのような組成で必要栄養量を摂取するかについてみていきましょう。

蛋白質

各栄養素の必要量を考えるときに一番最初に考えるのが蛋白質です。
普段は『蛋白質g=体重kg×1.0』で考えます。体重が50kgであれば蛋白質は50gということです。×1だと覚えやすいですよね!

もちろん病態による調節はありますが、基準を覚えておくことが大切です。
例えば蛋白質を少なく投与したい急性腎不全の乏尿期では『蛋白質g=体重kg×0.5~0.6』としたり、逆に蛋白質を多く投与したい術後や褥瘡がある場合では『蛋白質g=体重kg×1.2~2.0』と調節します。

NPC/N比とは?

蛋白質の投与量を考えるときにNPC/N比という言葉がでてきてよくわからなくなるんだよね…と思うかもしれませんが、ニガテな人は覚えなくてOKです。

基本的には『蛋白質=体重kg×1.0』で求めた必要量でOKです。

なぜな必要な蛋白質量とNPC/N比により推測される蛋白質量はだいたい同じくらいになるからです。

ここでNPC/N比についての簡単な説明と、だいたい同じになるということを見ていきたいと思います。(サラッと読んでいただければ!むずかしいと感じたらNPC/N比の部分は飛ばしてもOK!)

NPC/N(ノンプロテインカロリー パー エヌ)比
NPC/N比=非蛋白質エネルギー量(kcal)÷窒素量(g)

蛋白質を効率良く利用するために必要な、投与アミノ酸の窒素1gあたりの非蛋白エネルギー量(糖質・脂肪によるエネルギー量)をNPC/N比といい、中心静脈栄養(TPN)の処方を組む上で重要な目安になります。一般的に、蛋白合成に効率的なNPC/N比は150~200です。

また窒素量は『窒素量(g)=蛋白質量×0.16』で求めることができます。

NPC/N比を用いると必要な蛋白質量を算出することができます。逆算ですね。

必要蛋白質量=エネルギー量÷(係数*+25)×6.25
病態 係数*
外傷・術直後・熱傷 100~120
基準値 150~200
腎不全・肝硬変 300~500

例えばNPC/N比150で計算してみましょう。

体重50kgの場合、簡易式を用いて必要エネルギー量が1500kcalでした。
必要蛋白質量=1500÷(150+25)×6.25≒53.6g

通常はNPC/N比を考えなくても『蛋白質g=体重kg×1.0』で問題ないということが分かりましたよね。

NPC/N比を100と低く設定した場合は、
必要蛋白質量=1500÷(100+25)×6.25=75g
と体重50kg×1.2~2.0=60~100のあいだにあります。

NPC/N比を300と高く設定した場合は、
必要蛋白質量=1500÷(300+25)×6.25≒28.8g
と体重50kg×0.5~0.6=25~30のあいだにあります。

NPC/N比を考えなくても、『必要蛋白質量=体重kg×1』をベースに病態により調節すると覚えておけば臨床では問題ないということが分かると思います。

脂質

続いて脂質についてです。

脂質は投与栄養量の10~20%程度が良いとされています。

ここでは点滴で見ていきたいと思いますので、イントラリポス20%100mlで考えていきましょう。

イントラリポス20%100mlには脂質20gで約200kcal含まれています。
これは体重50kgの場合の必要栄養量1500kcalの約13.3%です。

少し話はずれますが、食事摂取ができず、点滴のみで栄養投与されているうち脂肪乳剤が投与されているケースはあまり多くありません。栄養に興味のある医師がいるところはそうではないかもしれませんが…10年位前の調査ですが自施設では10%程度でした。

最近は点滴投与のみの患者のうち、直近の血栓症(脳梗塞など)や感染症コントロール不良で加療中などの状態を除きNSTで提案するようにしています。

昔に比べ今では脂肪乳剤の使用量も増えてきていますが、なかなか難しいのが現状です。

糖質

蛋白質、脂質と必要量を設定して最後に糖質です。
糖質の栄養量は必要栄養量から蛋白栄養量と脂質栄養量を除いたものです。

糖質kcal=必要栄養量kcal-蛋白質kcal-脂質kcal

1gあたりの栄養量は、

  • 蛋白質4kcal
  • 脂質9kcal
  • 糖質4kcal

ですから、体重50kgの場合は、

糖質=1500kcal-200kcal-200kcal=1100kcal=275g
となります。

必要栄養量のまとめ

  • 必要栄養量の計算
    必要栄養量=体重kg×25~35
    (通常は30をもちいて計算)
  • 3大栄養素の必要量計算
    ・蛋白質g=体重kg×1.0
    ・脂質g=必要栄養量の10~20%
    ・糖質g=必要栄養量-蛋白質-脂質
    • 1gあたりの栄養量
      蛋白質:4kcal、脂質:9kcal、糖質:4kcal

     

    体重50kgの場合、
    ・栄養量1500kcal
    ・蛋白質50g
    ・脂質20g
    ・糖質175g
    が必要な栄養量になります。

    さてこれを点滴で投与するとどうなるでしょうか?(点滴内容は本記事内『末梢静脈栄養と中心静脈栄養の違い』に記載しています)

     

    まずその前に投与経路の選択についてです。
    なんでもかんでも点滴投与というわけにはいきませんよね。

    どのように投与経路が選択されるのかみていきましょう。

    投与経路の選択

    まずは栄養評価をします。
    栄養療法が必要と判断された場合、次に考えるのは腸管が安全に使用できるかどうかです。
    腸管が安全に使用できる場合は経腸栄養を選択します。そのうえで経腸栄養が短期間の場合は経鼻胃管を、4週間以上と長期になると見込まれる場合には胃瘻を検討、となります。

    腸管が安全に使用できない場合、つまり腸閉塞や難治性嘔吐、難治性下痢、活動性の消化管出血などの場合には経静脈栄養が選択されます。また経腸栄養のみでは必要栄養量が摂取できない場合も静脈栄養の適応となります。

    静脈栄養が短期間の場合には末梢静脈栄養(PPN)、2週間以上と長期になると見込まれるときには中心静脈栄養(TPN)が検討されます。

    胃瘻もTPNも検討と記載したのは、より侵襲的であり(特に胃瘻は)家族からの同意を得られないケースがあるからです。

     

    投与経路の優先順位は
    『経口摂取>経腸栄養>静脈栄養』
    です。

     

    本記事では静脈栄養について記載いたしますが、静脈栄養といっても末梢静脈栄養と中心静脈栄養があります。

    さきほど末梢静脈栄養と中心静脈栄養は見込まれる施行期間が2週間未満か以上かで選択されると記載しましたが、その他の違いは何があるのでしょうか。なぜ末梢静脈栄養だけでなく中心静脈栄養という投与方法があるのでしょうか。

    次は末梢静脈栄養と中心静脈栄養の違いについてみていきましょう。

    末梢静脈栄養と中心静脈栄養の違い

    一般的な末梢静脈栄養の単位熱量は0.4~0.5kcal/mlと少ないです。
    たくさん輸液を投与すれば必要栄養量を投与できる…かというとムリですね。

    たとえば体重50kgのときの必要栄養量1500kcal、蛋白質50g、脂質20gを末梢静脈栄養で投与するとどうなるでしょうか?

    末梢静脈栄養で必要栄養量1500kcal、蛋白質50g、脂質20gを投与する処方例
    ビーフリード 1000ml 420kcal(蛋白質30g)
    アミパレン 200ml 80kcal(蛋白質20g)
    ソルデム3AG 2500ml 750kcal
    5%ブドウ糖 250ml 50kcal
    イントラリポス20% 100ml 200kcal(脂質20g)

    水分量4050mlもの点滴を投与しなければなりません。過剰輸液によって心臓や腎臓に負担がかかってしまいます。

    それにたいして中心静脈栄養で投与すると

    中心静脈栄養で必要栄養量1500kcal、蛋白質50g、脂質20gを投与する処方例
    ネオパレン2号 1000ml 820kcal(蛋白質30g)
    アミパレン 200ml 80kcal(蛋白質20g)
    50%ブドウ糖 200ml 500kcal
    イントラリポス20% 100ml 200kcal(脂質20g)

    水分量1500mlとなります。水分量をおさえて高カロリー投与可能なことが分かると思います。

    水分必要量は『水分量ml=体重kg×30~40』で求めます。
    ただし心不全や腎不全など水分摂取制限がある場合は、減量が必要です。

    また末梢静脈栄養で安全に投与できる浸透圧比は約3までです。
    浸透圧が高くなると血管痛や静脈炎を起こす可能性があります。

    これらの問題点を解決するのが中心静脈栄養です。中心静脈栄養は高濃度の輸液を投与可能で、水分量を増やさずに必要量を投与することができます。たとえばネオパレン2号1000mlは820kcalです。ビーフリード1000ml(420kcal)の約半分の水分量で同じくらいの栄養量が投与できることになります。

    ほかにも留置手技による合併症の違いがあります。

    末梢静脈栄養は、中心静脈栄養と比べて手技が簡便で侵襲が少ないです。そのため比べた場合、留置手技による合併症は少ないです。

    逆に中心静脈栄養は、末梢静脈栄養と比べて手技が難しく侵襲を大きいため、留置手技による合併症も末梢静脈栄養と比べて多くときに重篤です。合併症として、空気塞栓、動脈誤穿刺、血種、血胸、気胸、感染などのリスクがあります。

    また末梢静脈栄養は在宅栄養療法に該当しませんが、中心静脈栄養は在宅栄養療法に該当します。
    そのため医療費も末梢静脈栄養に比べて中心静脈栄養のほうが高くなります。

    2023年4月薬価
    • 末梢静脈栄養
      ビーフリード 500ml 539.0円
    • 中心静脈栄養
      ネオパレン1号 1000ml 751.0円
      ネオパレン2号 1000ml 792.0円
      シザナリン(微量元素)1A 59.0円
    診療報酬令和4年版
    • C104 在宅中心静脈栄養法指導管理料3,000点
    • G001 静脈内注射(1回につき)34点
    • G004 点滴注射(1日につき)
      1.6歳未満の乳幼児に対するもの(1日分の注射量が100mL以上の場合)101点
      2.1に掲げる者以外の者に対するもの(1日分の注射量が500mL以上の場合)99点
      3.その他の場合(入院中の患者以外の患者に限る。)50点
    • G006 植込型カテーテルによる中心静脈注射(1日につき)125点

     

    区分番号「C104」在宅中心静脈栄養法指導管理料を算定した場合には、区分番号「G001」静脈内注射、区分番号「G004」点滴注射及び区分番号「G006」植込型カテーテルによる中心静脈注射の費用(薬剤及び特定保険医療材料に係る費用を含む。)は算定できない。

    ここでは在宅での診療報酬を載せました。ほかにもいろいろあるとは思いますが、薬剤費と記載した診療報酬部分だけを考えても中心静脈栄養のほうが医療費が高くなるということは分かっていただけると思います。

    ※診療報酬の詳細は2022(令和4年)年度診療報酬改定をご確認ください。

     

    末梢静脈栄養と中心静脈栄養の違いについてはご理解いただけましたか?

    末梢静脈栄養(PPN)と中心静脈栄養(TPN)について記載しましたが、補完的中心静脈栄養(SPN)という言葉もあるので一応紹介だけしておきます。これは食事や経管栄養のサポートとして中心静脈栄養を投与するということです。

    末梢静脈栄養についてよくある⁉処方で考えてみよう

    末梢静脈栄養についてよくある⁉処方で考えてみましょう!

    • ビーフリード®(500ml)×2本
    • ソルデム3A(500ml)×2本

    上記のような内容がオーダーされているケースを目にすることはありませんか?
    この処方、栄養量はどのくらいだと思いますか?

     

     

     

    正解は水分量2000ml、栄養量592kcalでした!

    ここまで記事を読んできてこの摂取栄養量についてどう思いますか?
    ・・・少ないですよね。

    水分量2000ml、栄養量592kcalをわかりやすく置き換えると…

    1日ツナマヨネーズのおにぎり2個とアクエリアス(ゼロカロリー)2Lです。
    「これだけで毎日過ごしてください」と言われたらアナタは過ごせますか?

    体重50kgの場合、これがどのくらい少ないかというと、
    必要栄養量1500kcalの約39%(592/1500)しか投与できていないということになります。

    ずっとこれだけしか投与されていなければ、入院中に体重も減るし体力も落ちるわけですよね。

    しかもこの食事{ツナマヨネーズのおにぎり2個+アクエリアス(ゼロカロリー)2L}と末梢静脈栄養(ビーフリード1000ml+ソルデム3A1000ml)をくらべたら、栄養量は少ないとはいえ食事の方が圧倒的に良いです。腸管を使用できるという点とツナマヨネーズには脂質も含まれてる点で優れています。

    何が言いたいかというと「末梢静脈栄養だけで長期間必要栄養量を摂取するのは難しい!」ということです。

    絶食患者でビーフリード(500ml)×2本+ソルデム3A(500ml)×2本といったような処方が長く続いていたら本当にいいのかなと確認できるようになるといいですね。

     

    確認するときは、
    ・他の栄養投与経路では投与できないのか?
    ・末梢静脈栄養が続く場合、栄養量の少ない輸液が投与されていたら、より栄養量の多いものに変更できないのか?
    ・蛋白質を増やすことはできないのか?
    ・脂肪乳剤(脂質)を追加できないのか?
    といった内容が検討できるといいと思います!

    『【静脈栄養】すぐできる必要栄養量の計算!その点滴足りてる?』まとめ

    • 必要栄養量=体重kg×25~35
      (病態等により調節、通常は30をもちいる)
    • 3大栄養素の必要量
      ・蛋白質g=体重kg×1.0
      (病態等により調節)
      ・脂質g=必要栄養量kcalの10~20%
      ・糖質g=必要栄養量kcal-蛋白質kcal-脂質kcal
    • 1gあたりの栄養量
      蛋白質:4kcal、脂質:9kcal、糖質:4kcal
    • 水分量ml=体重kg×30~40
      (心不全・腎不全など水分摂取制限がある場合に注意)
    • 投与経路の優先順位
      経口摂取>経腸栄養>静脈栄養
    • 栄養投与経路の選択

    • 末梢静脈栄養(PPN)と中心静脈栄養(TPN)の違い

    • 末梢静脈栄養だけで必要栄養量を長期間摂取するのは難しい

     

     

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