【閉塞性肥大型心筋症】強心薬・血管拡張薬・利尿薬はなぜ要注意?
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閉塞性肥大型心筋症ではなぜ強心薬・血管拡張薬・利尿薬に注意が必要なのでしょうか?

強心薬・血管拡張薬・利尿薬はどれも心不全で使用される薬剤です。ただ閉塞性肥大型心筋症により心不全状態となった場合、安易に強心薬・血管拡張薬・利尿薬を投与すると症状を悪化させ生命の危機…となってしまうかもしれません。

なぜ症状を悪化させる可能性があるのか、一緒にみていきましょう。

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【閉塞性肥大型心筋症】強心薬・血管拡張薬・利尿薬はなぜ要注意?

閉塞性肥大型心筋症とは

まずは肥大型心筋症という疾患についてみていきます。

ガイドライン1)より肥大型心筋症(HCM)は、「(1)左室ないしは右室心筋の肥大と(2)心肥大に基づく左室拡張能低下を特徴とする疾患群」と定義されます。

肥大型心筋症の分類
    1. 閉塞性肥大型心筋症(hypertrophic obstructive cardiomyopathy:HOCM)
      安静時または運動などの生理的な誘発で30mmHg以上の左室流出路圧較差を認める
    2. 非閉塞性肥大型心筋症(non-obstructive HCM)
      安静時および誘発時に30mmHg以上の圧較差を認めない
    3. 心室中部閉塞性心筋症(midventricular obstruction:MVO)
      肥大に伴う心室中部での30mmHg以上の圧較差を認める
    4. 心尖部肥大型心筋症(apical HCM)
      心尖部に限局して肥大を認める
    5. 拡張相肥大型心筋症(dilated phase of HCM:D-HCM)
      肥大型心筋症の経過中に,肥大した心室壁厚が減少・菲薄化し,心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下(左室駆出率50%未満)をきたし,拡張型心筋症様病態を呈する

この記事では肥大型心筋症のうち、閉塞性肥大型心筋症についてみていきます。

閉塞性肥大型心筋症は心筋が肥大することによって、収縮期に左心室から血液が出ていく部位(左室流出路)がせまくなっている状態です。左室流出路がせまくなった結果30mmHg以上の圧較差がある状態が「閉塞性肥大型心筋症」となります。

閉塞性肥大型心筋症の症状には、胸痛・呼吸困難・動悸といった胸部症状と立ちくらみや失神といった脳症状があります。(肥大型心筋症は無症状で経過する例も多いです。)

圧較差とは

圧較差という言葉が出てきたので、簡単に説明したいと思います。

圧較差とは、例えば、左心室が150mmHgくらいの血圧で血液を全身に押し出そうとしても、閉塞性肥大型心筋症では左室流出路がせまいので、90mmHgくらいの血圧しか全身に伝わらなかったとします。このときの圧較差が60となります。

もし上腕で測定した収縮期血圧が120mmHgだとしたら、圧較差60といわれたら左心室には180mmHgもの血圧がかかっていることになります。

圧較差60のイメージを図に示すとこのようになります。通り道(左室流出路)が狭くなっているので通常より圧がかかっている状態ということです。

また上腕での血圧が正常でも、心臓には負担がかかっている状態が続いているので、心臓に負担がかかり続けると心筋の肥大が起こります。

左室流出路圧較差・左室中部圧較差にたいする治療

薬物療法

  • β遮断薬
  • 非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬
  • Naチャネル阻害薬(Ia群抗不整脈薬)

非薬物療法

  • 外科的中隔切除術
  • 経皮的中隔心筋焼灼(PTSMA:カテーテル治療)

左室流出路狭窄の原因となっている肥大心筋を縮小させることのできる治療です。

肥大型心筋症における上室性不整脈治療と血栓塞栓症予防

薬物療法

  • 上室性不整脈治療
    ・β遮断薬
    ・非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ベラパミルやジルチアゼム)
  • 血栓塞栓症予防
    ・抗凝固薬
    (除細動前後での抗凝固療法の使用については心房細動治療(薬物)ガイドラインに従います。日本循環器学会 循環器病ガイドラインシリーズよりガイドラインの最新版を確認できます。https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/

非薬物療法

  • カテーテルアブレーション
  • ペースメーカー植込み

閉塞性肥大型心筋症に使用される薬剤

  • β遮断薬
  • 非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬
  • Naチャネル遮断薬

β遮断薬は、心拍数減少作用や陰性変力作用があります。心拍数減少により、拡張期は延長し左房圧の低下が期待されます。また、陰性変力作用により、左室内圧較差を減少させ、胸痛や失神発作などの自覚症状を改善することも期待されます。

 

ベラパミルやジルチアゼムといった非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬には、陰性変力作用と心拍減少効果があります。

 

ジゾピラミドやシベンゾリンといったNaチャネル遮断薬は、Naチャネル抑制による陰性変力作用を有し、左室流出路圧較差軽減および抗不整脈作用があります。

閉塞性肥大型心筋症に投与を注意すべき薬剤

  • 強心薬
  • 血管拡張薬
  • 利尿薬

利尿薬、血管拡張薬(硝酸薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬など)の前負荷を軽減する薬剤は心腔を縮小させます。つまり左心室から全身に送る血液量が少なくなる可能性があるということです。結果、“酸素供給量<酸素必要量”となって心不全症状を悪化させる可能性があります。(利尿薬は注意しながら少量用いることで症状の改善が得られることがあります。)
前負荷についてはコチラの記事も参考にしてください。

 

また血管拡張薬(硝酸薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬など)は流出路圧較差を増大させるとともに、反射性頻脈を惹起するため、心室拡張機能をさらに悪化させる可能性があります。

 

強心薬は流出路閉塞を悪化させ,拡張末期圧(心臓が収縮する前の心内圧)上昇を改善させず、不整脈を誘発する可能性があります。

 

このように閉塞性肥大型心筋症では強心薬、血管拡張薬、利尿薬の安易な投与は症状を悪化させる可能性があるため注意が必要です。状態を確認しつつ、症状が悪化していないか経過を見ていくことが重要です。

『【閉塞性肥大型心筋症】強心薬・血管拡張薬・利尿薬はなぜ要注意?』まとめ

閉塞性肥大型心筋症の症状改善に使用される薬剤
  • β遮断薬
  • 非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬
  • Naチャネル阻害薬(Ia群抗不整脈薬)
閉塞性肥大型心筋症への投与に注意が必要な薬剤
  • 強心薬
  • 血管拡張薬
  • 利尿薬

投与する場合は少量から開始し状態を確認しつつ、症状が悪化していないか経過を見ていくことが重要。

 

参考資料
  • 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版), 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン
    日本循環器学会 循環器病ガイドラインシリーズ
    こちらからガイドラインの最新版を確認できます。https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/

大動脈弁狭窄症も同じように投与が注意な薬剤がありますので、コチラの記事もぜひ参考にしてくださいね!

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