
ECMO導入患者で血圧が思うように上がらないのはなぜ?
バンコマイシンの血中濃度が想定より低いのはどうして?
その答えは、ECMO下で変化する薬物動態――回路への吸着や分布容積(Vd)の変化――にあります。
これらの変化を理解することで、薬剤の効果を適切に評価し、臨床での投与管理に役立てることができます。さあ、詳しく見ていきましょう。
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薬剤師の“みや”です。
『薬の特徴や比較』、『循環器領域の薬物療法の考え方』、『論文の読み方のポイント』、『男性の育休取得時のポイント』などのテーマで記事を執筆しています。医療現場や日常生活で役立つ視点から、読者にわかりやすく、実用的な情報をお届けすることを心がけています。
Contents
なぜ効かない?ECMOと薬物動態~吸着・分布変化と投与管理の実務ポイント~
ECMOの概要
ECMO(Extracorporeal Membrane Oxygenation:体外式膜型人工肺)は、体外循環回路を用いて血液に酸素を供給し、二酸化炭素を除去する補助療法です。
適応例
・重症心不全(心筋梗塞、心筋炎、心原性ショックなど)
・重症呼吸不全(ARDS、重症肺炎、COVID-19など)
・自己の心肺機能で十分な循環・酸素化が維持できない場合
ECMOの目的
ガス交換(酸素化・二酸化炭素除去)の補助
肺が重度に障害され(ARDS、重症肺炎など)、人工呼吸器でも酸素化が保てない場合に、血液を体外に取り出して人工肺で酸素化・CO₂除去を行う。
循環維持の補助
心筋梗塞や心筋炎、重症心不全などで心臓が十分な拍出を維持できないときに、ポンプで血流を全身に送ることで臓器灌流を確保する。
臓器回復までの“橋渡し”
心臓や肺が自然回復するまでの時間を稼ぐ
心移植や補助人工心臓(VAD)導入までの「bridge therapy」として使用
ECMOの種類と目的の違い
• VV-ECMO(静脈-静脈)
→ 肺の補助が目的(酸素化・CO₂除去)。心機能は保たれているが重度の呼吸不全があるケースに使用。
• VA-ECMO(静脈-動脈)
→ 循環の補助が目的。重症心不全や心停止後など、心臓が血流を維持できないときに使用。肺補助効果も一部ある。
ECMOは 「救命のための時間稼ぎ」 をする治療。根本治療ではなく、心肺が回復するまで、または次の治療(移植・補助循環)につなぐためのサポート療法です。
ECMOの仕組み
1. 静脈または動脈から脱血
2. 人工肺で酸素化・二酸化炭素除去
3. 遠心ポンプで血液を体内へ戻す
この循環により、心肺を一時的に代替可能です。
ECMOのメリットとリスク
メリット
• 重症心肺不全患者に対する最後の救命手段
• 心肺を休ませて回復を待てる
リスク・課題
• 大血管カニュレーションによる出血・感染・血管損傷
• 抗凝固療法で出血リスク上昇
• 回路血栓、膜劣化、溶血などの機械的合併症
• 継続管理には多職種の専門連携が必須
ECMO回路と薬剤吸着の関わり
回路の特徴
• 人工肺やチューブ(PVC・ポリウレタン製)は合成ポリマーで、薬剤と相互作用しやすい
• ECMO導入直後は血漿タンパクや脂質で回路表面がコーティングされていないため、吸着が顕著
注意すべき薬剤
• 疎水性薬剤(脂溶性鎮静・鎮痛薬、アミオダロンなど)
• 高蛋白結合薬(ワルファリン、プロポフォールなど)
臨床的影響
• 血中濃度低下 → 効果不安定
• 総薬物濃度と遊離型濃度の比率が変動 → TDMや投与設計が難しい
ECMOと薬物動態への影響
回路への吸着
メカニズム
• 疎水性薬剤:回路表面に吸着 → 血中濃度低下
• 高蛋白結合薬:血漿タンパクに引きずられて吸着 → 総・遊離濃度変動
例と管理ポイント
|
薬剤例 |
吸着リスク |
対応ポイント |
|
ミダゾラム、フェンタニル |
高 |
効果不安定。必要に応じ増量 |
|
アミオダロン |
高 |
TDM必須。回路交換後再吸着注意 |
|
ワルファリン、プロポフォール |
中 |
PT-INRや意識レベルを確認。回路交換後再評価 |
分布容積(Vd)の拡大
Vdとは
薬剤が体内にどれくらい拡散するかを示す指標。Vdが大きいと、同じ血中濃度を得るには初期投与量を増やす必要があります。
ECMOでVdが拡大する理由
①プライミング液による循環血液量増加
ECMO回路を満たす液で体内循環血液量が増加 → 薬剤が「薄まる」
初回投与では血中濃度が下がり効果不足の可能性
②炎症や浮腫による分布拡大
血管透過性亢進 → 血管内に薬剤が留まりにくくなる → 血中濃度低下
臨床的影響
• 初期投与:効果不足の可能性
• 持続投与:血中濃度が安定するまで予測困難
• 高蛋白結合薬や疎水性薬:吸着と分布拡大が重なると濃度変動大
対応の工夫
• 初回負荷量を増量検討
• TDMを積極活用
• 血圧・心拍・尿量・意識レベルで臨床評価
• 段階的増量や持続投与で血中濃度安定化
臓器機能変化
メカニズム
①肝腎機能低下
ショックや低血圧 → 臓器灌流低下 → 代謝・排泄低下
血中濃度予測困難、過量投与リスク
肝代謝型薬(リドカイン、アミオダロン)、腎排泄型薬(バンコマイシン、フロセミド)で顕著
②CRRT併用による除去増大
低分子量・疎水性が低い薬剤、腎排泄型薬剤で血中濃度低下
臨床例
|
薬剤例 |
臓器機能変化の影響 |
対応ポイント |
|
バンコマイシン |
CRRTで除去増大 |
TDM必須。投与量・間隔調整 |
|
フロセミド |
腎血流低下+CRRT併用で効果不安定 |
尿量・電解質モニタリング。持続投与・高用量検討 |
|
アミオダロン、リドカイン |
肝低灌流で代謝低下 |
血中濃度モニタリング。投与量調整 |
薬剤別:吸着・分布・CRRT影響まとめ
ECMO下で特に注意すべき薬剤群ごとの吸着・分布・CRRT影響と、臨床での管理ポイントをまとめました。
|
薬剤群 |
主な薬剤例 |
吸着リスク |
分布容積影響 |
CRRT併用の影響 |
臨床管理ポイント |
|
循環作動薬 |
ノルアドレナリン、ドパミン、ドブタミン |
🟢低 |
🟡中(分布拡大による効果減弱) |
🟢低 |
血圧・心拍数・尿量を観察。必要に応じ増量 |
|
抗不整脈薬 |
アミオダロン |
🔴高(疎水性・高蛋白結合) |
🟡中 |
🟢低 |
TDM必須。回路交換後は再吸着に注意 |
|
リドカイン |
🟢低 |
🟡中 |
🟢低 |
効果(心電図・心拍)を確認し増量・間隔調整 |
|
|
降圧薬 |
ニカルジピン、ACE阻害薬、ARB |
🟢低 |
🟡中(ECMO流量依存) |
🟢低 |
血圧を厳密にモニタリング。段階的増減。血管抵抗に応じ調整 |
|
利尿薬 |
フロセミド、トラセミド |
🟢低 |
🟡中(分布拡大・腎血流低下) |
🟡中(除去増加で効果低下) |
尿量・体重・電解質を観察。持続投与・高用量検討 |
|
鎮静・鎮痛薬 |
ミダゾラム、フェンタニル |
🔴高(疎水性・脂溶性) |
🟡中 |
🟢低 |
効果不安定。必要に応じ増量・投与間隔短縮 |
|
プロポフォール |
🔴高(疎水性・高蛋白結合) |
🟡中 |
🟢低 |
効果不安定。回路交換後再評価。血中濃度測定困難 |
|
|
抗血栓薬 |
ワルファリン、ヘパリン |
🟠中(高蛋白結合薬は吸着影響あり) |
🟢低 |
🟢低 |
PT-INR/aPTTを頻回モニタリング。回路交換後再評価 |
|
抗菌薬 |
バンコマイシン |
🟢低(吸着限定的) |
🟡中(分布拡大・腎機能変化) |
🟡中(除去増加) |
TDM必須。投与量・間隔を腎機能・CRRT条件に合わせ調整 |
|
セフェピム、メロペネム、ピペラシリン/タゾバクタム |
🟢低 |
🟡中(分布拡大) |
🟡中(除去増加) |
腎排泄型でCRRT影響大。投与量・間隔調整 |
🔴 高リスク・吸着で血中濃度低下の可能性大
🟠 中リスク・注意が必要
🟡 分布容積影響により効果変動の可能性あり
🟢 低リスク・通常管理でよい
臨床で押さえる投与管理の要点
循環作動薬
• ノルアドレナリン、ドパミン、ドブタミン
• 吸着リスク:低
• 分布容積影響:中
• CRRT影響:低
• 臨床管理:血圧・心拍・尿量観察、必要に応じ増量
抗不整脈薬
• アミオダロン:吸着高 → TDM必須、回路交換後再吸着注意
• リドカイン:吸着低、分布拡大による効果減弱 → 心電図・心拍で投与調整
降圧薬
• ニカルジピン、ACE阻害薬、ARB
• 分布容積拡大・流量依存 → 血圧厳密モニタリング、段階的増減
利尿薬
• フロセミド、トラセミド
• 分布拡大・腎血流低下・CRRTで除去増加 → 尿量・電解質観察、持続投与や高用量検討
鎮静・鎮痛薬
• ミダゾラム、フェンタニル、プロポフォール
• 高吸着リスク・血中濃度不安定 → 投与量増量・間隔短縮、回路交換後再評価
抗血栓薬
• ワルファリン、ヘパリン
• 高蛋白結合薬は吸着影響あり → PT-INR/aPTT頻回モニタリング、回路交換後再評価
抗菌薬
• バンコマイシン、セフェピム、メロペネム、ピペラシリン/タゾバクタム
• 分布容積拡大+CRRT除去増加 → TDM必須、投与量・間隔を腎機能・CRRT条件に応じ調整
ECMO下での薬物管理:実務メモ
導入直後
• ECMO導入初期は吸着が最も顕著であることを意識する
• 高吸着リスク薬(アミオダロン、ミダゾラム、プロポフォール)は、特に初期投与不足による血中濃度低下に注意
維持期
• 血圧・尿量・意識レベル・Sedation scaleなどの臨床指標を中心に投与量を調整する
• TDM可能な薬剤(バンコマイシン、アミオダロン、リドカインなど)は積極的に活用し、投与量・間隔を個別設計
CRRT併用時
• 腎排泄型薬剤(バンコマイシン、セフェピムなど)の除去量が増大するため、用量・間隔調整が必須
• ECMO+CRRT併用例では、薬物動態がさらに複雑化するため、TDMと臨床モニタリングを組み合わせて管理
まとめ
- ECMOは心肺を代替する救命手段だが、薬物動態に大きな影響を与える
- 「吸着」「分布変化」「臓器機能変化」を理解し、薬物療法を設計する必要がある
- 特に循環器薬や抗菌薬は治療効果に直結するため、血圧・尿量・意識レベルなどの臨床モニタリングや、TDMの活用が重要となる
⏩ 投与前
• 分布容積拡大や疎水性・高蛋白結合薬での血中濃度低下を想定し、初期投与不足を防ぐ
• 投与設計時には「吸着」「分布変化」「臓器機能変化」を意識する
⏩ 投与中
• 効果・副作用を臨床指標(血圧・尿量・意識レベルなど)で丁寧にモニタリング
• 薬剤特性に応じて段階的な増量や投与間隔の調整を実施
⏩ 回路交換時
• 再吸着による血中濃度低下を想定し、治療効果の減弱に注意
• 必要に応じて追加投与や投与設計の見直しを行う







