なぜ効かない?ECMOと薬物動態~吸着・分布変化と投与管理の実務ポイント~
スポンサーリンク

ECMO導入患者で血圧が思うように上がらないのはなぜ?
バンコマイシンの血中濃度が想定より低いのはどうして?
その答えは、ECMO下で変化する薬物動態――回路への吸着や分布容積(Vd)の変化――にあります。
これらの変化を理解することで、薬剤の効果を適切に評価し、臨床での投与管理に役立てることができます。さあ、詳しく見ていきましょう。

PR
心不全×くすりゼロから楽しく学ぶ3step

『心不全と薬物療法のニガテ』を解決するための1冊!

①知る
②整理する
③想像(イメージ)する
3ステップで心不全薬物療法の考え方を理解し、臨床に活用しよう!

PR
心電図最後の教科書【NEXT STEP】~薬剤性不整脈編~『心電図がニガテ』、『くすりがニガテ』を克服し、不整脈と薬剤で悩む時間を減らしませんか?
『重要な不整脈と不整脈を判断するときのポイント』、『不整脈を起こす可能性のある薬剤・注意事項・対応の考え方』を臨床に活かすことができるようになるための1冊です!

薬剤師の“みや”です。

『薬の特徴や比較』、『循環器領域の薬物療法の考え方』、『論文の読み方のポイント』、『男性の育休取得時のポイント』などのテーマで記事を執筆しています。医療現場や日常生活で役立つ視点から、読者にわかりやすく、実用的な情報をお届けすることを心がけています。

スポンサーリンク

なぜ効かない?ECMOと薬物動態~吸着・分布変化と投与管理の実務ポイント~

ECMOの概要

ECMO(Extracorporeal Membrane Oxygenation:体外式膜型人工肺)は、体外循環回路を用いて血液に酸素を供給し、二酸化炭素を除去する補助療法です。

適応例
・重症心不全(心筋梗塞、心筋炎、心原性ショックなど)
・重症呼吸不全(ARDS、重症肺炎、COVID-19など)
・自己の心肺機能で十分な循環・酸素化が維持できない場合

    ECMOの目的

    ガス交換(酸素化・二酸化炭素除去)の補助
    肺が重度に障害され(ARDS、重症肺炎など)、人工呼吸器でも酸素化が保てない場合に、血液を体外に取り出して人工肺で酸素化・CO₂除去を行う。

    循環維持の補助
    心筋梗塞や心筋炎、重症心不全などで心臓が十分な拍出を維持できないときに、ポンプで血流を全身に送ることで臓器灌流を確保する。

    臓器回復までの“橋渡し”
    心臓や肺が自然回復するまでの時間を稼ぐ
    心移植や補助人工心臓(VAD)導入までの「bridge therapy」として使用

    ECMOの種類と目的の違い
    • VV-ECMO(静脈-静脈)
    → 肺の補助が目的(酸素化・CO₂除去)。心機能は保たれているが重度の呼吸不全があるケースに使用。
    • VA-ECMO(静脈-動脈)
    → 循環の補助が目的。重症心不全や心停止後など、心臓が血流を維持できないときに使用。肺補助効果も一部ある。

    ECMOは 「救命のための時間稼ぎ」 をする治療。根本治療ではなく、心肺が回復するまで、または次の治療(移植・補助循環)につなぐためのサポート療法です。

    ECMOの仕組み

    1. 静脈または動脈から脱血
    2. 人工肺で酸素化・二酸化炭素除去
    3. 遠心ポンプで血液を体内へ戻す

    この循環により、心肺を一時的に代替可能です。

    ECMOのメリットとリスク

    メリット
    • 重症心肺不全患者に対する最後の救命手段
    • 心肺を休ませて回復を待てる

    リスク・課題
    • 大血管カニュレーションによる出血・感染・血管損傷
    • 抗凝固療法で出血リスク上昇
    • 回路血栓、膜劣化、溶血などの機械的合併症
    • 継続管理には多職種の専門連携が必須

    ECMO回路と薬剤吸着の関わり

    回路の特徴
    • 人工肺やチューブ(PVC・ポリウレタン製)は合成ポリマーで、薬剤と相互作用しやすい
    • ECMO導入直後は血漿タンパクや脂質で回路表面がコーティングされていないため、吸着が顕著

    注意すべき薬剤
    • 疎水性薬剤(脂溶性鎮静・鎮痛薬、アミオダロンなど)
    • 高蛋白結合薬(ワルファリン、プロポフォールなど)

    臨床的影響
    • 血中濃度低下 → 効果不安定
    • 総薬物濃度と遊離型濃度の比率が変動 → TDMや投与設計が難しい

    ECMOと薬物動態への影響

    回路への吸着

    メカニズム
    • 疎水性薬剤:回路表面に吸着 → 血中濃度低下
    • 高蛋白結合薬:血漿タンパクに引きずられて吸着 → 総・遊離濃度変動

    例と管理ポイント

    薬剤例

    吸着リスク

    対応ポイント

    ミダゾラム、フェンタニル

    効果不安定。必要に応じ増量

    アミオダロン

    TDM必須。回路交換後再吸着注意

    ワルファリン、プロポフォール

    PT-INRや意識レベルを確認。回路交換後再評価

    分布容積(Vd)の拡大

    Vdとは
    薬剤が体内にどれくらい拡散するかを示す指標。Vdが大きいと、同じ血中濃度を得るには初期投与量を増やす必要があります。

    ECMOでVdが拡大する理由
    ①プライミング液による循環血液量増加
    ECMO回路を満たす液で体内循環血液量が増加 → 薬剤が「薄まる」
    初回投与では血中濃度が下がり効果不足の可能性
    ②炎症や浮腫による分布拡大
    血管透過性亢進 → 血管内に薬剤が留まりにくくなる → 血中濃度低下

    臨床的影響
    • 初期投与:効果不足の可能性
    • 持続投与:血中濃度が安定するまで予測困難
    • 高蛋白結合薬や疎水性薬:吸着と分布拡大が重なると濃度変動大

    対応の工夫
    • 初回負荷量を増量検討
    • TDMを積極活用
    • 血圧・心拍・尿量・意識レベルで臨床評価
    • 段階的増量や持続投与で血中濃度安定化

    臓器機能変化

    メカニズム

    ①肝腎機能低下
    ショックや低血圧 → 臓器灌流低下 → 代謝・排泄低下
    血中濃度予測困難、過量投与リスク
    肝代謝型薬(リドカイン、アミオダロン)、腎排泄型薬(バンコマイシン、フロセミド)で顕著

    ②CRRT併用による除去増大
    低分子量・疎水性が低い薬剤、腎排泄型薬剤で血中濃度低下

    臨床例

    薬剤例

    臓器機能変化の影響

    対応ポイント

    バンコマイシン

    CRRTで除去増大

    TDM必須。投与量・間隔調整

    フロセミド

    腎血流低下+CRRT併用で効果不安定

    尿量・電解質モニタリング。持続投与・高用量検討

    アミオダロン、リドカイン

    肝低灌流で代謝低下

    血中濃度モニタリング。投与量調整

    薬剤別:吸着・分布・CRRT影響まとめ

    ECMO下で特に注意すべき薬剤群ごとの吸着・分布・CRRT影響と、臨床での管理ポイントをまとめました。

    ECMOと薬剤

    薬剤群

    主な薬剤例

    吸着リスク

    分布容積影響

    CRRT併用の影響

    臨床管理ポイント

    循環作動薬

    ノルアドレナリン、ドパミン、ドブタミン

    🟢低

    🟡中(分布拡大による効果減弱)

    🟢低

    血圧・心拍数・尿量を観察。必要に応じ増量

    抗不整脈薬

    アミオダロン

    🔴高(疎水性・高蛋白結合)

    🟡中

    🟢低

    TDM必須。回路交換後は再吸着に注意

    リドカイン

    🟢低

    🟡中

    🟢低

    効果(心電図・心拍)を確認し増量・間隔調整

    降圧薬

    ニカルジピン、ACE阻害薬、ARB

    🟢低

    🟡中(ECMO流量依存)

    🟢低

    血圧を厳密にモニタリング。段階的増減。血管抵抗に応じ調整

    利尿薬

    フロセミド、トラセミド

    🟢低

    🟡中(分布拡大・腎血流低下)

    🟡中(除去増加で効果低下)

    尿量・体重・電解質を観察。持続投与・高用量検討

    鎮静・鎮痛薬

    ミダゾラム、フェンタニル

    🔴高(疎水性・脂溶性)

    🟡中

    🟢低

    効果不安定。必要に応じ増量・投与間隔短縮

    プロポフォール

    🔴高(疎水性・高蛋白結合)

    🟡中

    🟢低

    効果不安定。回路交換後再評価。血中濃度測定困難

    抗血栓薬

    ワルファリン、ヘパリン

    🟠中(高蛋白結合薬は吸着影響あり)

    🟢低

    🟢低

    PT-INR/aPTTを頻回モニタリング。回路交換後再評価

    抗菌薬

    バンコマイシン

    🟢低(吸着限定的)

    🟡中(分布拡大・腎機能変化)

    🟡中(除去増加)

    TDM必須。投与量・間隔を腎機能・CRRT条件に合わせ調整

    セフェピム、メロペネム、ピペラシリン/タゾバクタム

    🟢低

    🟡中(分布拡大)

    🟡中(除去増加)

    腎排泄型でCRRT影響大。投与量・間隔調整

    🔴 高リスク・吸着で血中濃度低下の可能性大
    🟠 中リスク・注意が必要
    🟡 分布容積影響により効果変動の可能性あり
    🟢 低リスク・通常管理でよい

    臨床で押さえる投与管理の要点

    循環作動薬
    • ノルアドレナリン、ドパミン、ドブタミン
    • 吸着リスク:低
    • 分布容積影響:中
    • CRRT影響:低
    • 臨床管理:血圧・心拍・尿量観察、必要に応じ増量

    抗不整脈薬
    • アミオダロン:吸着高 → TDM必須、回路交換後再吸着注意
    • リドカイン:吸着低、分布拡大による効果減弱 → 心電図・心拍で投与調整

    降圧薬
    • ニカルジピン、ACE阻害薬、ARB
    • 分布容積拡大・流量依存 → 血圧厳密モニタリング、段階的増減

    利尿薬
    • フロセミド、トラセミド
    • 分布拡大・腎血流低下・CRRTで除去増加 → 尿量・電解質観察、持続投与や高用量検討

    鎮静・鎮痛薬
    • ミダゾラム、フェンタニル、プロポフォール
    • 高吸着リスク・血中濃度不安定 → 投与量増量・間隔短縮、回路交換後再評価

    抗血栓薬
    • ワルファリン、ヘパリン
    • 高蛋白結合薬は吸着影響あり → PT-INR/aPTT頻回モニタリング、回路交換後再評価

    抗菌薬
    • バンコマイシン、セフェピム、メロペネム、ピペラシリン/タゾバクタム
    • 分布容積拡大+CRRT除去増加 → TDM必須、投与量・間隔を腎機能・CRRT条件に応じ調整

    ECMO下での薬物管理:実務メモ

    導入直後
    • ECMO導入初期は吸着が最も顕著であることを意識する
    • 高吸着リスク薬(アミオダロン、ミダゾラム、プロポフォール)は、特に初期投与不足による血中濃度低下に注意

    維持期
    • 血圧・尿量・意識レベル・Sedation scaleなどの臨床指標を中心に投与量を調整する
    • TDM可能な薬剤(バンコマイシン、アミオダロン、リドカインなど)は積極的に活用し、投与量・間隔を個別設計

    CRRT併用時
    • 腎排泄型薬剤(バンコマイシン、セフェピムなど)の除去量が増大するため、用量・間隔調整が必須
    • ECMO+CRRT併用例では、薬物動態がさらに複雑化するため、TDMと臨床モニタリングを組み合わせて管理

    まとめ

    • ECMOは心肺を代替する救命手段だが、薬物動態に大きな影響を与える
    • 「吸着」「分布変化」「臓器機能変化」を理解し、薬物療法を設計する必要がある
    • 特に循環器薬や抗菌薬は治療効果に直結するため、血圧・尿量・意識レベルなどの臨床モニタリングや、TDMの活用が重要となる
    実務での注意ポイント

    投与前
    • 分布容積拡大や疎水性・高蛋白結合薬での血中濃度低下を想定し、初期投与不足を防ぐ
    • 投与設計時には「吸着」「分布変化」「臓器機能変化」を意識する

    投与中
    • 効果・副作用を臨床指標(血圧・尿量・意識レベルなど)で丁寧にモニタリング
    • 薬剤特性に応じて段階的な増量や投与間隔の調整を実施

    回路交換時
    • 再吸着による血中濃度低下を想定し、治療効果の減弱に注意
    • 必要に応じて追加投与や投与設計の見直しを行う

     

     

    皆様の応援が励みになります。
    1日1回、クリック(↓)をよろしくお願いします。

    にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

     

    PVアクセスランキング にほんブログ村

    スポンサーリンク
    他にもこんな記事を書いています!