批判的吟味は方法が一番重要~ランダム化・盲検化~
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論文の批判的吟味を行う上でmethod、つまり方法の部分が一番重要です。

なぜ批判的吟味で方法が一番重要なのか?それはどのように試験を行うかでその結果を信用して良いのかどうか結果の捉え方が変わってくるからです。そもそもなぜ批判的吟味を行うのか?それは薬効を客観的に公平に評価するためです。

論文を批判的吟味する側は論文を客観的に評価できるかどうか、試験デザインを確認すること、つまり論文に記載されていることを読み取ることが大事です。

・比較試験
・ランダム化
・二重盲検
・明確なエンドポイント(アウトカム)

上記のようなものが一般的に客観的に評価できる良い試験デザインと言われています。

では論文の方法、試験デザインについて一緒に見ていきましょう。

エンドポイントについては下記記事にまとめていますので是非ご覧ください。

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比較試験

比較試験にも大きく分けて前向き比較試験、コホート研究、症例・対照研究などがあります。

前向き比較試験

前向き比較試験
介入群と対照群に分け、研究を開始してから未来に向かって追跡を続け、得られる結果を比較する研究方法のこと。

縦断研究の一つで、ある疾患に対し治療薬群と対照薬群で群分けし治療薬の有効性を見るときなど、その効果を比較します。

薬物療法の有効性は、一般的にはランダム化比較試験という前向き比較試験で実施されます。

例えば『A薬あり』と『A薬なし』でA薬の脳梗塞発症予防率をみる場合などがこれにあたります。

長期になればなるほどデータも取れるので良いのですが、世の中になるべく早く薬を出すことが企業の目的となりますから、有効性が確認できる期間(数カ月~1年程度)で試験が実施されます。ランダム化や盲検化がしっかりされているので科学的視点となります。

有効性を見るために実施されるので、例えば6カ月間の試験だとすると、安全性も6カ月間までしか分かりません。実際には何年、何十年と薬を使用する可能性もありますから、この視点で言うと短期的安全性の評価となります。

コホート研究

コホート研究
ある特定の疾患の起こる可能性がある要因・特性を考え、対象集団(コホート)を決め、その要因・特性を持った群(曝露群)と持たない群(非曝露群)に分け、疾患の罹患や改善・悪化の有無などを一定期間観察し、その要因・特性と疾患との関連性を明らかにする研究のこと。原則として、コホート研究は介入をせず、観察のみで行われる研究をさす。

疾病の要因と発症の関連を調べるための観察的研究の手法の一つです。

疾患の発生を将来に向かって観察する前向きコホート研究と診療記録などから過去の出来事に関する調査を行う後ろ向きコホート研究があります。例えば『A薬あり』と『A薬なし』で脳梗塞の発生率を観察するというものがコホート研究です(A薬が要因という扱い)。有効性というよりも安全性の評価で用いられます。また、前向きか後ろ向きかは調査開始時点より未来か過去かです。

前向き比較試験に比べ、試験期間が長期になるため、長期的な安全性の評価となります。(市販後調査など)

また、投与される患者の背景が実臨床により近くなるので、日常診療での有効性となります。

症例・対照研究

症例・対照研究
疾病の原因を過去にさかのぼって探そうとする研究。疾病に罹患した症例群と性別・年齢などをマッチさせた健常者からなる対照群を選び、仮説が設定された要因に曝露されたものの割合を両群比較する。

稀なものは前向きに行っても発生数が少なく分からないので、発生した群と背景因子をマッチさせた対照群とを後ろ向きに調査して比較します。背景因子を調整するとはいえ、気付かないでバイアスが入ってしまう可能性もあります。

比較試験のまとめ

前向き比較試験、コホート研究、症例・対照研究

これ以降の項目について前向き比較試験を例に記載していきます。

前向き比較試験の比較方法

前向き比較試験といっても、Parallel Group Design (並行群間比較試験)、Crossover Design (クロスオーバー試験)、Factorial Designs (要因配置試験)などいくつか比較する方法があります。

Parallel Group Design (並行群間比較試験)
  • 検証的試験で最もよく用いられる。
  • 患者は異なる治療の一つにランダムに割付けられる。

例えば、被験薬Aを投与するグループ、または対照薬Bを投与するグループに割り付けられ一定期間その割り付けられたほうの薬剤を服用し、各群の有効性や安全性を比較・検討します。

Crossover Design (クロスオーバー試験)
  • 患者は二つ以上の試験治療を、行う順序をランダムに割付けられる。
  • 患者自身を対照として試験治療比較が行われる。
  • ウォッシュアウト期間をはさむ。

例えば、一方のグループにはまず被験薬Aを投与、もう一方のグループには対照薬Bを一定期間服用します。ウォッシュアウト期間のあと、被験薬Aと対象薬Bを投与するグループを入れ替えてまた一定期間服用します。同じ患者に被験薬と対照薬を投与することができるので、個体差を考えなくて良いのがメリットです。入れ替え後まで薬の効果が残っていないかウォッシュアウト期間が適切かどうかを考える必要があります。

Factorial Designs (要因配置試験)
  • 二つ以上の試験治療を同時に評価する。これらの交互作用を調べる。
  • 2×2要因計画では、試験治療をA、Bとすると「A単独」「B単独」「AB同時」「どちらもなし」で、患者は四つの組み合わせの一つにランダムに割付けられる。

例えば、被験薬Aを投与するグループ「A単独」、被験薬Bを投与するグループ「B単独」、被験薬A・B両方とも投与するグループ「AD同時」、両方とも投与しないグループ「どちらもなし」に割り付けられ、一定期間服用し、「どちらもなし」に比べ「A単独」「B単独」「AB同時」の有効性や安全性を比較検討します。「A単独」「B単独」と「AB同時」の効果があまり変わらないのか、それとも相乗効果があるのか交互作用を調べることができます。

 

図示すると下のようになります。

並行群間試験、クロスオーバー試験、要因配置試験

ランダム化(無作為化)

ランダム化比較試験
ある試験的操作(介入・治療など)を行うこと以外は公平になるように、対象の集団(特定の疾患患者など)を無作為に複数の群(介入群と対照群や、通常+新治療を行う群と通常の治療のみの群など)に分け、その試験的操作の影響・効果を測定し、明らかにするための比較研究のこと。

なぜランダム化を行うのか。

治療群の割付けをランダムに行うことで、試験開始前の患者背景を揃えたいからです。目に見えている背景因子が揃うように人為的に割り付けると、見えていないところで偏り(バイアス)を生じているかもしれません。ランダム割付けでは、目に見えていない背景についてもおよそ揃うため、患者背景を揃えることができます。(偶然、患者背景に差が生じることもあります。)

 

例えば、年齢、性別、疾患など、目に見えている背景因子が揃うように人為的に割り付けた場合、医薬品投与群とプラセボ投与群で試験をしたときに結果に影響を与える因子は医薬品だけでしょうか?

プラセボ効果も可能性としてはあります。プラセボとは有効成分が入っておらず、かつ本物の薬と見分けがつかないようにしたものです。つまり、プラセボ効果とは薬としての効果をもたないプラセボを服用し得られる効果のことです。

また自然変動で差が出てしまう可能性もあります。

プラセボ効果も自然変動も目に見えていない背景があるかもしれませんが、ランダム化を行うことで患者背景のバイアスを減らすことができます。

下図のようにスタートライン(ベース)が揃っていないと、差が出たとしても医薬品の効果なのか、プラセボ効果なのか、自然変動なのか、本当は何が原因で差が出たかは分かりませんよね。

非ランダム化

もし、脳梗塞の発症予防を見る場合、医薬品投与群に非喫煙者を、プラセボ投与群に喫煙者を意図的に分けていたとしたらどうでしょうか。喫煙者の多いプラセボ投与群の方が脳梗塞発症者が多くなると推測できるので、医薬品投与群との脳梗塞発症者数の差は大きくなりそうです。

下図のようにスタートラインをランダム化でそろえると、プラセボ効果も自然変動も起こる可能性のある背景因子は同様ですから試験で得られた結果は医薬品投与によるものと考えることができますよね。

ランダム化

何がバイアスになりうるのか?試験の結果に影響を与える因子は取り除けているのかを考えることが重要です。

 

ただ、ランダム化だけでは客観的かどうかは分かりません。

そこで盲検化がでてきます。

盲検化

盲検化とは試験関係者や参加者がどの治療群に割り当てられたか、すなわちどのような治療を受けたか把握できなくするための処理のことです。盲検化が行われていないと試験関係者が意識的に都合の良いように患者を割り付けたと思われてしまうかもしれません。または無意識でもバイアスが入ってしまうかもしれません。このバイアスを避けたり予防するために、盲検化を行います。

盲検化された試験をBlinded studies(盲検化試験)、盲検化されていない試験をOpen studies(非盲検化試験)と言います。

Blinded studies(盲検化試験)
  • 患者 and/or 試験実施者は割付群を知らない
  • 単盲検 Single-blind:患者
  • 二重盲検 Double-blind:患者と試験実施者
Open studies(非盲検化試験)
  • 患者、試験実施者ともに割付群を知っている
  • アウトカム評価だけブラインドされた中央判定委員会で行うこともある(PROBE試験:prospective randomized open blinded end-point study)

二重盲検で実施されているかどうかを確認しましょう。

盲検化されていても単盲検の場合、患者は割付群を知りませんが、試験実施者は割付群を把握しています。

また、盲検化されていても薬の外見で区別できてしまう場合、どちらに割付けられているか分かってしまいます。そのため、盲検化が維持されているか、つまりダブルダミー法で行われているかの確認も大事です。

ダブルダミー法

ダブルダミー法
臨床試験において、二つの試験治療の外見上の区別がついてしまう場合に、医薬品投与時の盲検を維持するため、それぞれの試験治療に対して「ダミー」(プラセボ)を用意する方法のこと。

『対照薬群と剤型・用法などが異なる場合、ダブルダミー法を用いているか?』を確認することは重要です。

ダブルダミー法はどうしますか?
・試験薬:1回1錠 1日1回 朝食後 経口投与
・対照薬:1日1カプセル 1日1回 夕食後 経口投与

上記のような試験があった場合、ダブルダミー法が行われていないと自分がどちらの群に割り当てられているか、錠剤かカプセル剤か、朝か夕かで自分がどっちの群に割り当てられているかすぐわかってしまいます。ではどうしたら良いでしょうか?

二重盲検

試験薬群は朝に試験薬の錠剤を、夕に対照薬と同じ剤型(カプセル剤)のプラセボを飲みます。対照薬群は朝に試験薬と同じ剤型(錠剤)のプラセボを、夕に対照薬のカプセル剤を飲みます。こうすることでどちらの群に割り振られたか、飲む薬では見分けることができなくなります。(上図参照)

下の図には標準薬と記載していますが、標準薬とは既に有効性が証明された、販売承認が下りている薬で臨床試験の際にその領域で標準的な治療となっている薬物のことです。標準的な治療と比較することで、これまでの治療と比べどうなるかということを検討します。

プラセボも対照薬の一つであるので、今回説明しているような試験の場合は対照薬=標準薬となります。プラセボが対照の場合はプラセボ対照試験、標準薬が対象の場合は実薬対照試験と言います。もし上図の朝食後だけの比較の場合、朝に試験薬を飲むか試験薬と同じ形のプラセボを飲むか、プラセボが対照薬の場合がプラセボ対照試験となります。

ダブルダミー法はどうしますか?
・試験薬:1回1錠 1日1回 朝食後 経口投与
・標準薬(対照薬):1日1カプセル 1日1回 朝食後 経口投与

二重盲検

ダブルダミー法が行われていないと、どちらの群に割り当てられているか、錠剤かカプセルか飲んでいる薬の形から分かってしまいます。そのため試験薬群では標準薬と同じ形のプラセボを、標準薬群では試験薬と同じ形のプラセボを飲み、どちらを飲んでいるか分からないようにします。

もし、錠剤と注射剤や貼付剤を比較する場合は、錠剤を飲む群もプラセボの注射剤や貼付剤を使わないと盲検化ができていないことになりますね。

PROBE試験

盲検化がされていない場合、試験結果を解析するときに試験関係者が都合の良いようにデータを取り扱ってしまうかもしれません。

ただ、盲検化したくても盲検化できない試験もあります。

例えばプラセボ対照で長期の安全性を評価したい試験です。

試験薬群に割り当てられれば良いですが、治療が必要な人に長期間プラセボを飲んでもらうというのは倫理的に問題がありますよね。

その場合の対策としてPROBE試験があります。

prospective randomized open blinded end-point studyの頭文字をとってPROBE試験です。

prospective(前向き)、randomized(無作為・ランダム)、open(非盲検・オープン)、blinded end-point(エンドポイントがブラインドされた) study(試験)です。

つまりPROBE試験とは結果の評価者に、被験者が試験薬群と対照薬群のどちらに割り当てられているかという情報を分からないようにして公平性を保つ方法です。

ただ、PROBE試験の主要評価項目が客観的なエンドポイントであることだけは必ず確認しましょう。もし、主観的なエンドポイントが設定されていたら、非盲検なので試験関係者の判断により影響を受けてしまう可能性がありますので公平ではなくなりますね。

そもそもエンドポイントは客観的に評価できて臨床的に意味のある真のエンドポイントで評価されている論文がまず読むべき論文となりますが…。

エンドポイントについては下記記事をご覧くださいね。

まとめ

客観的で公平な試験かどうかランダム化・盲検化を確認することが重要
  • ランダム化二重盲検比較試験であるか
  • ダブルダミー法が実施されているか(必要な場合)
  • 盲検化できないときはPROBE法が用いられているか

論文の批判的吟味では方法が一番重要です。

論文でどんなに良い結果が出たとしても、方法がしっかりしていなければその結果の信頼性は低くなるからです。

客観的で公平な試験が行われているか論文を批判的吟味して記載されている内容を読み取っていきましょう。

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