SGLT2阻害薬に分類される薬剤は、
スーグラ®(イプラグリフロジン)、
フォシーガ®(ダパグリフロジン)、
デベルザ®(トホグリフロジン)、
ルセフィ®(ルセオグリフロジン)、
カナグル®(カナグリフロジン)、
ジャディアンス®(エンパグリフロジン)、
の6種類です。
では、SGLT2阻害薬各薬剤にはどのような違いがあるのでしょうか?一緒に確認していきましょう。
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Contents
SGLT2阻害薬の薬物動態情報まとめ&使い分け
作用機序
SGLT-2は、腎臓の近位尿細管に存在し、尿中のほとんどのグルコースを再吸収しています。SGLT-2を阻害することで、過剰な血中の糖を尿から排泄して血糖値を下げる薬剤です。
- 目に見える作用:血糖低下、尿量増加
- 目に見えにくい作用:心血管保護(明確な機序は不明)
尿量を増やすので脱水には注意が必要ですね。
SGLT2阻害薬でなぜ尿量が増えるかはコチラの記事の『SGLT2阻害薬』の項目をご確認ください。
薬物動態情報
薬物動態情報をまとめた表です。
特徴づけ
薬物動態情報から薬剤の特徴付づけをおこなった結果が下の表です。
尿中未変化体排泄率
SGLT2阻害薬に分類されるすべての薬剤は尿中未変化体排泄率30%未満であり、肝代謝型の薬剤でした。
分布容積
イプラグリフロジン、トホグリフロジン、ダパグリフロジンは分布容積Vd(b)≧50L以上と細胞内分布型の薬剤でした。ルセオグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジンは見かけの分布容積であり特徴づけできませんでした。
特徴づけの詳細は各薬剤の記事をご確認ください。
適応
各薬剤の適応についてまとめました。
エンパグリフロジンとダパグリフロジンは慢性心不全の適応がありますが、2022年6月時点でHFrEF、HFpEFともに有効という論文があるのはエンパグリフロジンのみです。ダパグリフロジンはHFrEFにたいしては有効という論文はありますが、HFpEFにたいしてはこれからです。(製薬企業よりHFpEFにも有効という発表はされたのであとは正式な文献化を待つだけです。)
2023年2月時点でHFrEF、HFpEFともに有効という論文があり、慢性心不全の適応があるのはエンパグリフロジンとダパグリフロジンの2薬剤です。
また2022年6月時点で慢性腎不全に有効という論文があって適応があるのはダパグリフロジンとカナグリフロジン(2022年6月20日に適応追加)です。加えて慢性腎臓病にたいしてエンパグリフロジンを投与した試験の中間報告結果で有効性が得られ、試験の早期終了が発表されました。詳細は2022年中に発表されるとのことなのでこちらももう少し待ちましょう。
論文の概要は本記事内『慢性心不全・慢性腎不全』に記載しています。
用法用量
イプラグリフロジン(スーグラ®)
イプラグリフロジン 1回50mg 1日1回 朝食前or朝食後
(効果不十分時は1回100mgまで増量可)
(1型糖尿病はインスリン製剤との併用下で使用)
トホグリフロジン(デベルザ®)
トホグリフロジン 1回20mg 1日1回 朝食前or朝食後
ルセオグリフロジン(ルセフィ®)
ルセオグリフロジン 1回2.5mg 1日1回 朝食前or朝食後
(効果不十分時は1回5mgに増量可)
カナグリフロジン(カナグル®)
カナグリフロジン 1回100mg 1日1回 朝食前or朝食後
エンパグリフロジン(ジャディアンス®)
【2 型糖尿病】
エンパグリフロジン 1日1回10mg 朝食前or朝食後
(効果不十分な場合1日1回25mgに増量可)
【慢性心不全】
エンパグリフロジン 1日1回10mg 朝食前or朝食後
ダパグリフロジン(フォシーガ®)
【2型糖尿病・1型糖尿病】
ダパグリフロジン 1日1回5mg 経口投与
(効果不十分な場合は1日1回10mgに増量可)
※1型糖尿病インスリン製剤との併用下
【慢性心不全、慢性腎臓病】
ダパグリフロジン 1日1回10mg経口投与
用法用量については、デベルザ®、カナグル®が単一用量、スーグラ®、ルセフィ®、ジャディアンス®、フォシーガ®は増量が可能な設定になっています。
スーグラ®は開始用量の50mgで効果不十分な場合に75mg、100mgと段階的な増量ができ、多様な用量設定が可能ですが、増量の場合は2錠服用することになります。
ルセフィ®とフォシーガ®は標準用量とその倍量の2段階で用量調節でき、増量しても1錠の服用で済みます。ジャディアンス®は10mg(標準用量)と25mgと2段階で用量調節でき、増量しても1錠の服用で済みます。
またスーグラ®、デベルザ®、ルセフィ®、カナグル®、ジャディアンス®は朝食前か朝食後と指定されているのに対して、フォシーガ®ではその指定がありません。
血糖降下作用
各薬剤の第Ⅲ相試験で実施された2型糖尿病に対するSGLT2阻害薬単独での血糖降下作用をまとめました。
イプラグリフロジン(スーグラ®)
ベースのHbA1c値平均値±標準偏差
・プラセボ群:8.25±0.678
・イプラグリフロジン50mg群:8.40±0.857
HbA1c値のベースラインからの平均変化量±標準偏差
・プラセボ群:0.54±1.003
・イプラグリフロジン50mg群:-0.76±0.697
スーグラ®IF, 2021年11月(第12版), P.22より
トホグリフロジン(デベルザ®)
ベースのHbA1c値平均値±標準偏差
・プラセボ群:8.41±0.78
・トホグリフロジン20mg群:8.34±0.81
HbA1c値のベースラインからの平均変化量[95%信頼区間] ・プラセボ群:-0.028[-0.192, 0.137] ・トホグリフロジン20mg群:-1.017[-1.178, -0.856]
デベルザ®IF, 2019年10月(第12版), P.17より
ルセオグリフロジン(ルセフィ®)
ベースのHbA1c値平均値±標準偏差
・プラセボ群:8.17±0.80
・ルセオグリフロジン群:8.14±0.91
HbA1c値のベースラインからの平均変化量[95%信頼区間]
・プラセボ群:0.13[-0.04,0.29]
・ルセオグリフロジン2.5mg群:-0.63[-0.79,-0.46]
ルセフィ®IF, 2022年2月(第13版), P.28より
カナグリフロジン(カナグル®)
ベースのHbA1c値平均値±標準偏差
・プラセボ群:8.04±0.70
・カナグリフロジン100mg群:7.98±0.73
・カナグリフロジン200mg群:8.04±0.77
HbA1c値のベースラインからの平均変化量±標準偏差
・プラセボ群:0.29±0.07
・カナグリフロジン100mg群:-0.74±0.07
・カナグリフロジン200mg群:-0.76±0.07
カナグル®IF, 2019年12月(第9版), P.30より
エンパグリフロジン(ジャディアンス®)
ベースのHbA1c値平均値
・プラセボ群:7.92
・エンパグリフロジン10mg群:7.89
・エンパグリフロジン25mg群:7.86
HbA1c値のベースラインからの平均変化量±標準偏差
・プラセボ群:0.08±0.05
・エンパグリフロジン10mg群:-0.65±0.05
・エンパグリフロジン25mg群:-0.76±0.05
ジャディアンス®IF, 2021年11月(第11版), P.30より
ダパグリフロジン(フォシーガ®)
ベースのHbA1c値平均値±標準偏差
・プラセボ群:7.50±0.629
・ダパグリフロジン5mg群:7.50±0.718
・ダパグリフロジン10mg群:7.46±0.611
HbA1c値のベースラインからの平均変化量±標準偏差
・プラセボ群:-0.06±0.0607
・ダパグリフロジン5mg群:-0.41±0.0606
・ダパグリフロジン10mg群:-0.45±0.0605
フォシーガ®IF, 2021年8月(第11版), P.32より
血糖降下作用まとめ(表)
実薬同士の比較ではないデータため、どちらのSGLT2阻害薬がHbA1cをより下げたとかは言えません。あくまで参考値としてですが、各SGLT2阻害薬が単剤でどの程度HbA1cを低下させるのかイメージはできるかと思います。
慢性心不全・慢性腎不全
慢性心不全と慢性腎不全の論文について下記にPICOと主要エンドポイントの結果をまとめました。PICOについてはコチラの記事をご覧ください。
また論文の詳細は原著論文をご確認ください。
論文を読んでどこになにが書いてあるか分からない、記載している結果の意味が分からないという方はコチラの記事をお読みいただき、必要に応じて記事内のリンクから該当の記事をご確認ください。
エンパグリフロジン(ジャディアンス®)
【HFrEF】
I エンパグリフロジン投与は
C プラセボ投与と比べて
O 心血管死+心不全による入院の複合エンドポイントを減らすか
[ハザード比(HR)0.75,95%CI 0.65-0.86,P<0.001]
【HFpEF】
I エンパグリフロジン投与は
C プラセボ投与と比べて
O 心血管死+心不全による入院の複合エンドポイントを減らすか
[ハザード比(HR)0.79,95%CI 0.69-0.90,P<0.001]
ダパグリフロジン(フォシーガ®)
【HFrEF】
I ダパグリフロジン投与は
C プラセボ投与と比べて
O 心血管死+心不全増悪による入院or点滴加療の複合エンドポイントを減らすか
[ハザード比(HR)0.74,95%CI 0.65-0.85,P<0.001]
【慢性腎不全】
I ダパグリフロジン投与は
C プラセボ投与と比べて
O eGFR≧50%の持続的減少、末期腎臓病、腎疾患死+心血管死の複合エンドポイントを減らすか
[ハザード比(HR)0.61,95%CI 0.51-0.72,P<0.001]
カナグリフロジン(カナグル®)
【慢性腎不全】
I カナグリフロジン投与は
C プラセボ投与と比べて
O 末期腎不全(透析、移植、eGFR<15ml/分/1.73m2)、血清クレアチニン値の倍増、腎疾患死+心血管死の複合エンドポイントを減らすか
[ハザード比(HR)0.70,95%CI 0.59-0.82,P=0.00001]
SGLT2阻害薬の使い分け
現在は適応により使用できるSGLT2阻害薬は異なります。
2022年6月時点の適応は上記に示した通りですが、糖尿病患者へのSGLT2阻害薬投与は6種類の薬剤間で、心不全や心筋梗塞、脳卒中などの発症率が同等であることが示されました6)。つまりSGLT2阻害薬の各薬剤間では効果に差がなく、効果はSGLT2阻害薬全般に共通する可能性があるということです。心臓への作用は可能性が示唆されましたが、腎臓への作用はどうでしょうか。将来でてくるであろう論文が楽しみですね。
また、薬剤選択時の検討事項のひとつに薬価もあります。
2022年4月時点のSGLT2阻害薬各薬剤の薬価は下記となります。
2型糖尿病に使用する場合、標準用量を薬価の安い順に並べると以下のようになります。
ルセフィ®2.5mg<カナグル®100mg<デベルザ®20mg<フォシーガ®5mg<スーグラ®50mg<ジャディアンス®10mg
慢性心不全に使用する場合、適応用量を薬価の安い順に並べると以下のようになります。
ジャディアンス®10mg<フォシーガ®10mg
SGLT2阻害薬の薬物動態情報&使い分けまとめ
SGLT2阻害薬の薬物動態情報
- SGLT2阻害薬はAe30%未満とすべて肝代謝型の薬剤
SGLT2阻害薬の適応(2022.6時点)
- エンパグリフロジン10mg:HFrEF、HFpEF
- ダパグリフロジン10mg:HFrEF
- 使い分け:適応により選択される
(糖尿病患者への心血管イベント抑制効果はSGLT2阻害薬全般に共通する可能性)
- 薬価は薬剤選択の一要因となりうる