心不全予後改善薬のひとつであるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、エンレスト®(サクビトリルバルサルタン)について薬物動態情報を見ていきたいと思います。
各動態情報の項目について詳細は下記記事をご参照ください。
本記事中のデIFは『ディオバン®IF, 2023年5月(第23版)』、エIFは『エンレスト®錠IF, 2024年3月改訂(第8版)』、審査報告書は『エンレスト®審査報告書, 令和2年4月15日』のことです。
ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の4つをfantastic fourと呼び、早期にこれらの内服を適切に導入することで、心不全予後を改善します。
各薬剤については以下の記事を参考にしてください。
Contents
エンレスト®(サクビトリルバルサルタン)薬物動態情報
適応
〈錠 50mg・100mg・200mg〉
- 成人
慢性心不全
ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。 - 小児
慢性心不全
〈錠 100mg・200mg〉
高血圧症
〈粒状錠小児用12.5mg・31.25mg〉
慢性心不全
粒状錠は小児でも飲みやすい小さな粒状の錠剤がカプセル型容器に入った製剤です。そのためカプセル型容器から取り出して服用する必要があります。つまりカプセルは服用しない。また錠剤を食べものに混ぜて服用することが可能です。
カプセル型容器を誤って飲んでしまったら医療機関に相談・受診とのことです。
容器の材質は『カプセル型容器:ヒプロメロース、酸化チタン、酸化鉄(31.25mg のみ)』(エIF:P.より)とのことで、材質的には問題なさそうですね。食道等に詰まってしまったりしなければ経過観察で良いと思います。
カプセル型容器のまま服用してしまった場合は、薬成分の吸収率低下による心不全管理面が心配ですね。
用法用量(成人)
〈慢性心不全〉
開始用量:エンレスト® 1回50mg 1日2回経口投与
忍容性がある場合は段階的「エンレスト® 1回200mg 1日2回経口投与」まで増量する。
〈高血圧症〉
エンレスト® 1回200mg 1日1回経口投与(最大1回400mg)
バイオアベイラビリティ(F)
- バルサルタン:39%
経口と静注後の未変化体のAUCより算出した絶対的バイオアベイラビリティは39%であった(外国人データ)(デIF:P.33より)
- サクビトラート:60%以上
サクビトリルバルサルタンの経口投与後におけるサクビトリルのバイオアベイラビリティ(sacubitrilat として測定)を尿中排泄量から算出したとき、60%以上であった(外国人データ)(エIF:P.90より)
全血液中薬物濃度/血漿中薬物濃度(B/P)
- サクビトリル:B/P=0.561~0.597
- サクビトラート(活性代謝物):B/P=0.42~0.62
(審査報告書P.32より)
バルサルタンはB/Pが得られていないためB/P=0.5を代用します。
分布容積(Vd)
- バルサルタン:16.9±6.9L(外国人、静注データ)(デIF:P.32より)
- サクビトリル:82.7±23.0L(外国人、経口データのため参考値)(エIF:P.89より)
Vd(b)=Vd/(B/P)
バルサルタンVd(b)≦16.9/0.5=33.8L
Vd(b)=20~50(分布中間型)、Vd(b)≦20(細胞外分布型)の可能性があるため特徴付けできませんでした。
サクビトリルは経口データのため特徴づけできませんでした。
全身クリアランス(CL)
- バルサルタン:2.19±0.39L/h(外国人、静注データ)(デIF:P.32より)
- サクビトリル:49.4±21.3L/h(外国人、経口データのため参考値)(エIF:P.89より)
単位変換すると
バルサルタン:36.5ml/min
サクビトリル:823ml/min
尿中未変化体排泄率(Ae)
- バルサルタン:9~14%(投与48時間)(デIF:P.37より)
- バルサルタン:11%(投与96時間)(エIF:P.96より)
投与後168時間までに投与量の13.2±3.8%が尿中に、85.7±4.5%が糞中に排泄された(外国人データ)(デIF:P.38より)
上記記載より胆汁排泄型の薬剤といえます。
- サクビトリラート(活性代謝物):55%(投与96時間)(エIF:P.96より)
Ae=30~70%より腎・肝混合型(中間型)の薬剤といえます。
以下は全身クリアランスが静注データであるバルサルタンのみ考えます。
腎クリアランス(CLR)=CL×Ae=2.19×0.11=0.24 L/h=4ml/min
肝クリアランス(CLH)=CL-CLR=2.19-0.24=1.95 L/h=32.5ml/min
抽出比
バルサルタン
- 腎抽出比
ER=CLR(ml/min)/(B/P)/QR(ml)=4/0.5/1200≦0.0067
ER<0.3より消失能依存型の薬剤といえます。 - 肝抽出比
EH=CLH(ml/min)/(B/P)/QH(ml)=32.5/0.5/1600≦0.041
EH<0.3より消失能依存型の薬剤といえます。
サクビトラートはみかけのクリアランスのため、腎抽出比(ER)・肝抽出比(EH)を算出することはできませんでした。
タンパク結合率
- バルサルタン:93.0~95.9%(デIF:P.36より)
- サクビトリル:96.0~97.4%(審査報告書:P.32より)
- サクビトラート(サクビトリルの活性代謝物):91.3~99.1%(審査報告書:P.32より)
タンパク結合率より結合していない(遊離形)割合が分かります。
バルサルタン:血漿中遊離形率(fuP)=1-(0.93~0.959)=0.041~0.07
サクビトリル:fuP=1-(0.96~0.974)=0.026~0.04
サクビトラート:fuP=1-(0.913~0.991)=0.009~0.087
fuP<0.2よりタンパク結合依存型の薬剤といえます。
半減期(t1/2)
- バルサルタン:4~6時間(デIF:P.29より)
- サクビトラート:13.4時間(エIF:P.83より)
その他
- 透析除去率:該当資料なし
- ACE阻害薬からARNIへの切り替えは36時間以上あけること(ACE阻害薬を36時間以内に投与された患者は血管浮腫が現れる可能性があるため禁忌)
エンレスト®(サクビトリルバルサルタン)薬物動態情報まとめ
- ARNI(心不全予後改善薬fantastic fourのひとつ)
- プロドラッグ
- サクビトラート(活性代謝物):腎・肝中間型
- バルサルタン:胆汁排泄型(肝代謝型)
- 粒状錠小児用はカプセル型容器から取り出して服用
- 薬物動態情報(表)
- ACE阻害薬からの切替は36時間以上あける
- ディオバン錠IF、2023年5月改訂(第23版)
- エンレスト錠IF、2024年3月改訂(第8版)
- エンレスト錠審査報告書、独立行政法人医薬品医療機器総合機構、令和2年4月15日