この記事ではフィブラート系薬剤の薬物動態的特徴と薬剤の使い分けについて記載しています。
フィブラート系薬剤は主に高トリグリセリド(TG)血症にたいして使用される薬剤です。
現在フィブラート系薬剤は、
- ベザフィブラート(ベザトール®SR)
- クロフィブラート
- フェノフィブラート(リピディル®/トライコア®)
- ペマフィブラート(パルモディア®)
の4種類があります。
では、フィブラート系各薬剤にはどのような違いがあるのでしょうか?
一緒に確認していきましょう。
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薬剤師の“みや”です。
『薬の特徴や比較』、『循環器領域の薬物療法の考え方』、『論文の読み方のポイント』、『男性の育休取得時のポイント』などのテーマで記事を執筆しています。医療現場や日常生活で役立つ視点から、読者にわかりやすく、実用的な情報をお届けすることを心がけています。
Contents
【フィブラート系薬剤】薬物動態情報まとめ&使い分け
作用機序
フィブラート系は特に中性脂肪(トリグリセリド)を減らす脂質異常症治療薬です。
この中性脂肪の合成や分解に関与しているタンパク質として『PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor:ペルオキシソーム増殖剤活性化レセプター)α』があります。
PPARαは主に以下の2つの作用により血中の中性脂肪を減らします。
①『血中でのリポたん白質リパーゼ合成促進による中性脂肪の分解促進』
②『肝臓での中性脂肪の合成抑制』
つまりフィブラート系薬剤はPPARαを活性化し、
『リポたん白質リパーゼ合成促進により中性脂肪を分解』
『中性脂肪合成抑制』といった作用機序によって
中性脂肪を血中で分解し肝臓でつくらせないことで中性脂肪を低下させる薬剤です。
物動態情報
商品名 | ベザトールSR | クロフィブラート | リピディル/トライコア | パルモディア |
一般名 | ベザフィブラート | クロフィブラート | フェノフィブラート | ペマフィブラート |
トリグリセリド低下度(%) | 30~57% | ー | 33~54% | 46~51% |
バイオアベイラビリティ, BA(%) | ― | ー | ー | 61.534 |
血漿中遊離形率, fuP(%) | 6.4 | ー | 1 | 1未満 |
尿中未変化体排泄率, Ae(%) | ― | ー | ー | 0.47以下 |
全身クリアランス, CL(L/hr) | ― | ー | ー | 18 |
分布容積, Vd(L) | ― | ー | ー | 64 |
半減期, t1/2(hr) | 3 | ー | 20.36 | 2.061 |
腎障害 | 禁忌(Cre≧2.0mg/dL) | 慎重投与 | 禁忌 (Cre≧2.5mg/dL or CLCr<20mL/min) |
慎重投与 |
代謝 | 資料なし | 資料なし | 消化管・血中エステラーゼ | CYP2C8/2C9/3A4 UDPグルクロン酸転移酵素 |
表は見やすいほうで見てくださいね!
2018年と最近発売されたペマフィブラートについてはIF上にデータが記載されていましたが、その他の薬剤は該当資料なしと不明なデータが多かったですね。
特徴づけ
薬品名 | 消失経路 | 肝クリアランス | 腎クリアランス | 分布容積 | 血漿中遊離形率 |
ベザフィブラート | 腎・肝中間型 | ー | ー | ー | 蛋白結合依存型 |
クロフィブラート | ー | ー | ー | ー | ー |
フェノフィブラート | 腎排泄型 | ー | ー | ー | 蛋白結合依存型 |
ペマフィブラート | 肝代謝型 | 中間型 | ー | 細胞内分布型 | 蛋白結合依存型 |
得られていないデータが多いので、特徴づけできないものが多かったですね。
同等量換算
- ベザフィブラート(B)
- クロフィブラート(C)
- フェノフィブラート(F)
- ペマフィブラート(P)
B:C:F:P=400:1500:160:0.4
(単位はすべてmg/day)
フィブラート系薬剤の使い分け
フィブラート系薬剤は脂質異常症の第一選択ではありません。
LDL-コレステロール低下作用がメインのスタチン系薬剤が第一選択となります。
フィブラート系薬剤の立ち位置はガイドラインでは下記のようになっています。
高トリグリセライド血症に対する薬物治療による動脈硬化性疾患発症予防効果に関しては十分なエビデンスはない。しかしながら、空腹時トリグリセライドが著明に上昇している症例では急性膵炎のリスクも考慮し、脂質制限や禁酒などの食事指導とともにフィブラート系薬剤などの投与を考慮する。(推奨レベル:B)
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版
ではフィブラート系薬剤が必要と判断された場合、どの薬剤が良いのかみていきましょう。
ベザフィブラートは腎・肝中間型、フェノフィブラートは腎排泄型で、腎機能低下時は禁忌となっています。
それにたいしてペマフィブラートは肝代謝型の薬剤なので、禁忌ではなく慎重投与となっています。
クロフィブラートの薬物動態的な特徴づけはデータがないため不明です。
腎機能も問題なく、どれを選択しても良い場合はベザフィブラート、フェノフィブラート、ペマフィブラートから選択すれば良いと思います。(クロフィブラートはデータも少ないですし、実は処方自体をみたこともないのでもし自分が選択するとなったら…という選択肢から省きました。)
ペマフィブラートはまだ先発品しかありませんので、他のフィブラート系薬剤と比べて薬価は高くなる点に注意は必要ですね。
薬品名 | 後発品 | 規格(mg) | 1錠薬価(円) | 同等量(日) | 同等量薬価(円) |
ベザフィブラート | あり | 100 | 10.10 | 1日2回 1回200mg | 20.2 |
200 | 10.10 | ||||
クロフィブラート | あり | 250 | 8.70 | 1日3回 1回500mg | 52.2 |
フェノフィブラート | あり | 53.3 | 8.50 | 1日1回 1回160mg | 20.2 |
80 | 10.10 | ||||
ペマフィブラート | なし | 0.1 | 33.10 | 1日2回 1回0.1mg | 132.4 |
(記載時点:2022年4月薬価)
上の表のように、同等量薬価をみるとペマフィブラートはベザフィブラート・フェノフィブラートと比べて約6.5倍も薬価が高くなることがわかります。
また腎機能が低下している場合はペマフィブラートを選択することになります。
ここで補足ですが、ペマフィブラートはフィブラート系薬剤に代表されるPPARαアゴニストのベネフィットを高め、リスクを軽減した脂質異常症治療薬を目指して開発が行われたようです。
またペマフィブラートは、核内受容体のPPARαに結合後、リガンド特異的なPPARαの立体構造変化をもたらし、主に肝臓の脂質代謝に関わる遺伝子群の発現を選択的に調節することで脂質代謝を改善するため、選択的PPARαモジュレーター(Selective Peroxisome Proliferator-activated receptor-α modulator: SPPARMα)と呼ばれています。
つまりペマフィブラートは既存のフィブラート系と比較して、PPARαに対してより選択的かつより強力に作用するようです。
このことからもフィブラート系薬の投与が必要で腎機能が低下している場合やその他副作用等で使用できない場合はペマフィブラートを選択するべきと考えますが、それ以外では後発品が発売されているベザフィブラート、フェノフィブラートで良いかなと思います。
横紋筋融解症
フィブラート系薬剤の副作用に横紋筋融解症があります。
横紋筋融解症は、筋肉(特に骨格筋)が破壊されて、「手足・肩・腰・その他の筋肉が痛む」、「手足がしびれる」、「手足に力がはいらない」、「こわばる」、「全身がだるい」、「尿の色が赤褐色になる」などの症状が出る病気です。
原因として、熱中症や薬などがあります。薬では今回まとめているフィブラート系やスタチンといった脂質異常症に用いられる薬剤で横紋筋融解症が発症することがあります。ほかにもニューキノロン系抗生物質や抗精神病薬、抗パーキンソン病薬、麻酔薬・筋弛緩剤など多くの薬剤が原因となり得ます。
横紋筋融解症の発症はまれではありますが、発症すると重篤な状態になってしまう可能性がありますので、自覚症状が認められた場合は早急に医師に受診・対応する必要があります。
また初期は自覚症状が出ない場合もありますが、血液検査で分かりますので定期的な血液検査でのフォローは必須ですね。
詳しくはPMDAより重篤副作用疾患別対応マニュアルが出ております。
横紋筋融解症以外にも薬剤性肝障害や薬剤性せん妄、薬剤性味覚障害など多くのマニュアルがありますのでぜひ一度みてみてください。
『【フィブラート系薬剤】薬物動態情報まとめ&使い分け』まとめ
- フィブラート系薬剤は脂質異常症の第一選択ではない
- 中性脂肪(トリグリセライド)を低下させる
- 薬物動態情報(下表)
商品名 | ベザトールSR | クロフィブラート | リピディル/トライコア | パルモディア |
一般名 | ベザフィブラート | クロフィブラート | フェノフィブラート | ペマフィブラート |
トリグリセリド低下度(%) | 30~57% | ー | 33~54% | 46~51% |
バイオアベイラビリティ, BA(%) | ― | ー | ー | 61.534 |
血漿中遊離形率, fuP(%) | 6.4 | ー | 1 | 1未満 |
尿中未変化体排泄率, Ae(%) | ― | ー | ー | 0.47以下 |
全身クリアランス, CL(L/hr) | ― | ー | ー | 18 |
分布容積, Vd(L) | ― | ー | ー | 64 |
半減期, t1/2(hr) | 3 | ー | 20.36 | 2.061 |
腎障害 | 禁忌(Cre≧2.0mg/dL) | 慎重投与 | 禁忌 (Cre≧2.5mg/dL or CLCr<20mL/min) |
慎重投与 |
代謝 | 資料なし | 資料なし | 消化管・血中エステラーゼ | CYP2C8/2C9/3A4 UDPグルクロン酸転移酵素 |
表は見やすいほうでみてください
- 使い分け(個人的見解です)
- フィブラート系の投与が必要な場合
→ベザフィブラート フェノフィブラート (ペマフィブラート) - 腎機能が低下している場合
→ペマフィブラート
- 同等量換算
ベザフィブラート:400mg/day
≒クロフィブラート:1500mg/day
≒フェノフィブラート:160mg/day
≒ペマフィブラート:0.4mg/day -
横紋筋融解症の発現に注意
- 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版(一般社団法人日本動脈硬化学会)
その他の重篤副作用疾患別対応マニュアルについても下記より各疾患を確認できます。