適切な薬物療法のためには患者さんの背景と薬剤の特徴を把握することが必要です。
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC) はトロンビンを選択的に阻害するダビガトランと、Xa 因子を選択的に阻害するリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンがあります。
また、DOAC はトロンビンや Xa 因子を選択的に阻害することで抗凝固作用を示すため、ビタミン K 拮抗薬(vitamin K antagonist:VKA)と異なり食事による影響がありません。
では、DOACについて各薬剤の適応、用法、薬剤の消失経路、薬剤の分布、タンパク結合率など薬物動態情報を一緒にみていきましょう。
記事内の表は画像としても添付していますので見やすい方でご確認ください。
薬物動態情報の活用方法についてはコチラの記事をご覧ください。
また、各薬剤の詳細は以下の記事をご参照ください。
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Contents
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の適応
商品名 | 一般名 | 非弁膜症性心房細動における血栓塞栓症の発症抑制 | 静脈血栓塞栓症の治療・再発抑制 | 下肢整形外科手術における静脈血栓塞栓症の発症抑制 |
プラザキサ® | ダビガトラン | ○ | ― | ― |
イグザレルト® | リバーロキサバン | ○ | ○ | ― |
エリキュース® | アピキサバン | ○ | ○ | ― |
リクシアナ® | エドキサバン | ○ | ○ | ○ |
DOACはすべて非弁膜症性心房細動に適応がありますが、静脈血栓塞栓症に適応があるのはイグザレルト®、エリキュース®、リクシアナ®です。また、下肢整形外科手術における静脈血栓塞栓症の予防としては適応があるのはリクシアナ®のみです。(記載時点)
用法用量については非弁膜症性心房細動のみ以下にまとめています。(適応により用法用量が異なってきますので、詳細は添付文書等をご確認ください。各薬剤の記事にも記載しています。)
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)と非弁膜症性心房細動における腎機能投与量調節
CLCr(ml/min) | CLCr<15 | 15≦CLCr<30 | 30≦CLCr<50 | 50≦CLCr |
ダビガトラン | 禁忌 | 禁忌 | 1回110mg | 1回150mg |
リバーロキサバン | 禁忌 | 1回10mg | 1回10mg | 1回15mg |
アピキサバン | 禁忌 |
1回5mg |
||
エドキサバン | 禁忌 | 1回30mg | 1回30mg | 1回60mg (60kg未満は1回30mg) |
CLCr:クレアチニンクリアランス
エドキサバンは高齢の患者(80歳以上目安)で下記項目に1つ以上当てはまる場合は1 回15mg に減量することも可能。
- 頭蓋内、眼内、消化管等重要器官での出血の既往
- 低体重(45kg 以下)
- クレアチニンクリアランス15mL/min以上 30mL/min未満
- 非ステロイド性消炎鎮痛剤の常用
- 抗血小板剤の使用
非弁膜症性心房細動に対する用法用量ですが、腎機能により投与量が変わってくるので注意が必要です。
プラザキサ®はCLCr30ml/min未満で投与禁忌になりますので、特に腎機能低下患者への使用は注意が必要です。
また、CLCr15ml/min未満ではDOACはすべて禁忌に該当しますので、抗凝固薬はビタミン K 拮抗薬(VKA)であるワーファリンを使用します。
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の薬物動態情報
商品名 | プラザキサ® | イグザレルト® | エリキュース® | リクシアナ® |
一般名 | ダビガトラン | リバーロキサバン | アピキサバン | エドキサバン |
用法 | 1日2回 | 1日1回 | 1日2回 | 1日1回 |
バイオアベイラビリティ, BA(%) | 6.5 | 66-100 | 50 | 61.8 |
血漿中遊離形率, fuP(%) | 65 | 5 | 13 | 45 |
尿中未変化体排泄率, Ae(%) | 82.1 | 36 | 27 | 48.6 |
全身クリアランス, CL(L/hr) | 6.48~6.6 | 4.73 | 3.3 | 21.8 |
分布容積, Vd(L) | 60~70 | 43.8 | 21 | 107 |
全血液中薬物濃度/血漿中薬物濃度, B/P | 0.555~0.835 | 0.71 | 0.92 | 0.95 |
半減期, t1/2(hr) | 10.7~11.8 | 5~13 | 6~8 | 10~14 |
相互作用 | ・P糖蛋白質(P-gp)阻害↑ (BA+15%上昇) |
・P-gp阻害↑ ・CYP3A4阻害↑ (寄与率約18%) |
・P-gp阻害↑ | ・P-gp阻害↑ ・CYP3A4阻害↑ (寄与率10%未満) |
プラザキサ®とエリキュース®は1日2回、イグザレルト®とリクシアナ®は1日1回の薬剤です。
イグザレルト®は細粒やOD錠、リクシアナ®はOD錠といった剤形もあります。
プラザキサ®はカプセル剤であり粉砕ができません。
トロンビン阻害薬であるプラザキサ®には中和剤プリズバインド®(イダルシズマブ)がありますが、Xa阻害薬(イグザレルト®、エリキュース®、リクシアナ®)には中和剤はありません。、Xa阻害薬(イグザレルト®、エリキュース®、リクシアナ®)には中和剤オンデキサ®(アンデキサネット)(2022/5/25発売)があります。
各薬剤、P糖蛋白阻害作用を持つ薬剤との併用はDOACの血中濃度が上昇し出血等副作用のリスクがあがるため注意が必要です。
直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の薬物動態的特徴
薬品名 | 消失経路 | 肝クリアランス | 腎クリアランス | 分布容積 | 血漿中遊離形率 |
ダビガトラン | 腎排泄型 | 消失能依存型 | 消失能依存型 | 細胞内分布型 | 蛋白結合非依存型 |
リバーロキサバン | 中間型 | 消失能依存型 | 消失能依存型 | 細胞内分布型 | 蛋白結合依存型 |
アピキサバン | 肝代謝型 | 消失能依存型 | 消失能依存型 | 中間型 | 蛋白結合依存型 |
エドキサバン | 中間型 | 消失能依存型 | 消失能依存型 | 細胞内分布型 | 蛋白結合非依存型 |
主な消失経路ですがダビガトランは腎排泄型、アピキサバンは肝代謝型、リバーロキサバンとエドキサバンは中間型でした。
分布容積はダビガトラン、リバーロキサバン、エドキサバンは細胞内分布型、アピキサバンは中間型でした。DOACは比較的半減期の短い薬剤ですが過量投与により臓器に薬剤が蓄積する可能性があります。腎機能低下時など血中濃度の上昇に注意が必要です。
リバーロキサバンとアピキサバンはタンパク結合依存型の薬剤になるので、薬剤と結合する血中のタンパク質、主にアルブミンが変化するような状態(炎症、外科手術、腎障害など)では薬剤のタンパク結合率の低下(=薬剤の遊離形濃度の増加)の可能性があり、血中濃度が上昇する可能性があります。
DOACの薬物動態情報を把握して、薬の適正使用につながるといいなと思います。