虚血性心疾患の2次予防で重要なことって知っていますか?
虚血性心疾患の2次予防には『ABCDE』というおさえるべきポイントがあります。
ABCDEとは以下の頭文字をとったものです。
- A Aspirin and ACEi/ARB
- B Beta blocker and BP
- C Cigarette and Cholesterol
- D Diet and Diabetes
- E Education and Exercise
要は適切な薬物療法と生活習慣の管理と教育のことです。
では虚血性心疾患の病態・治療を確認しながら、虚血性心疾患2次予防のポイント『ABCDE』について一緒に見ていきましょう。
Contents
【狭心症・心筋梗塞】虚血性心疾患2次予防のポイントABCDE
1次予防と2次予防
まず予防には1次予防と2次予防があります。それぞれどういう意味か確認しましょう。
1次予防
- 健康増進
- 疾病予防
- 特殊予防
1次予防とは、病気になる前の段階で行う予防法です。
例えば食事・運動・睡眠といった生活習慣を改善することで、生活習慣病の予防を目指します。生活習慣病とは、生活習慣を原因として発症する疾患の総称で、糖尿病・高血圧・脳卒中などが該当します。
2次予防
- 早期発見
- 早期対処
- 適切な医療と合併症対策
虚血性心疾患の2次予防とは、虚血性心疾患の既往がある方の症状悪化や将来的な心不全の発症などを予防することが該当します。
虚血性心疾患は狭心症と心筋梗塞に分類できます。
ではそれぞれ見ていきましょう。
狭心症
狭心症は大きく3つに分類できます。
安定狭心症(労作性狭心症)、不安定狭心症、冠攣縮性狭心症(異型狭心症)の3つです。
安定狭心症(労作性狭心症)
安定狭心症とは発作の起きる状況や強さ、持続時間などがほぼ一定で、大きな変化が少ない狭心症です。安定狭心症は労作によって『酸素の必要量>酸素の供給量』の状態となった場合に症状が出るため、労作性狭心症とも呼ばれます。
不安定狭心症
不安定狭心症とはプラーク等により冠動脈が高度に狭窄しているため、労作に関係なく『酸素の必要量>酸素の供給量』の状態となり、発作の回数が増加したり、胸痛がだんだん強くなったり、以前は発作が起きなかった軽い運動や安静時に胸痛がおこったりしている状態です。近い将来に心筋梗塞を発症する可能性が高いと考えられており、特に注意が必要な状態です。
冠攣縮性狭心症(異型狭心症)
冠攣縮性狭心症とは冠動脈が急にけいれんして細くなり、心筋への血流が不足するために胸痛発作が起きるものです。夜の睡眠中や早朝、飲酒後などに胸痛を自覚します。
心筋梗塞
心筋梗塞とは、心筋(心臓を構成する筋肉)に血流を送る“冠動脈”が閉塞することによって血流が途絶えた結果、心筋が酸素不足の状態に陥る病気のことです。
急性冠症候群(ACS)
急性冠症候群(Acute Coronary Syndrome :ACS)とは急速に冠動脈が狭くなったり閉塞したりすることで血流障害を起こす病気のことで不安定狭心症と心筋梗塞の状態に該当します。
冠動脈狭窄の血管内イメージ
冠動脈狭窄の進行について血管内イメージをみていきましょう。
プラークが付着していない健康な冠動脈からスタートします。
プラークは血圧の上昇などなんらかの原因により血管内皮細胞に傷がつき血管内膜の内側にLDLコレステロールが入り込み、その結果としてできてしまうとされています。
小さなプラークができました。
プラークが大きくなります。
さらにプラークが大きくなります。
とくに自覚症状がなければ安定狭心症、労作等で自覚症状があれば不安定狭心症となります。
血圧の上昇などなんらかの原因によりプラークが破れた結果、そこに血小板が凝集して血栓ができて血管がつまると心筋梗塞となります。
冠攣縮性狭心症はプラークとは関係なく、スパズム(血管の痙攣)により血管が狭窄して症状がでます。
狭心症と心筋梗塞の違い
労作性狭心症では前胸部絞扼感・圧迫感が数分~10分程度の痛みの継続し、安静により改善します。またあくまで冠動脈の狭窄であり、一過性の心筋虚血です。血流があるため、ニトログリセリン投与により狭窄部位が血管拡張し症状は改善します。
それに対し、心筋梗塞では激烈な疼痛が30分以上継続し、安静により改善しません。冠動脈の閉塞であり、心筋壊死に至ります。血流が途絶えているため、ニトログリセリン投与により閉塞部位の血流が改善することはなく、ニトログリセリン投与は無効です。
労作性狭心症 | 心筋梗塞 | |
病態 | 冠動脈狭窄 | 冠動脈閉塞 心筋壊死 |
胸痛 | 前胸部絞扼感・圧迫感 数分~10分程度 |
激烈な疼痛 30分以上継続 |
安静 | 症状改善(+) | 症状改善(-) |
ニトログリセリン | 症状改善(+) | 症状改善(-) |
冠攣縮性狭心症とは冠動脈の攣縮(spasm)により、一時的に心筋血流が低下して胸部症状が出る状態です。
労作性狭心症では体動時に、冠攣縮性狭心症では明け方に起こりやすいなどの特徴がありますが、急性心筋梗塞の場合はいつでも起こる可能性があります。
虚血性心疾患の治療
薬物療法
抗血小板薬、ACE阻害薬/ARB、β遮断薬などがあります。次の項目『2次予防のABCDEとは』で記載しています。
手術
経皮的冠動脈形成術(PCI)
PCIとは冠動脈閉塞部位の血管を拡張し血流を改善させる治療のことです。
PCIではどのようにステントを留置しているのか、イメージをみていきましょう。
まず冠動脈病変部位(①)にバルーン付きステントを挿入(②)します。
病変部位にステントが届いたらバルーンをふくらませステントを拡張(③)します。
ステント拡張後、バルーンをしぼませてぬくのでステントが留置(④)されます。
PCIにはPOBA、BMS、DES、DCBといった種類があります。
- POBA(バルーン治療:Percutaneous Old Balloon Angioplasty)
バルーンにより冠動脈病変部位を拡張させます。(ステント留置はありません)
- BMS(ベアメタルステント:Bare Metal Stent)
BMSとは薬物を塗っていない金属剥き出しのステントのことです。(Bareは「裸の、剥き出しの」という意味で、Metalは「金属」という意味です。)
BMSを冠動脈病変部位に留置します。
- DES(薬剤溶出性ステント:Drug Eluting Stent)
DESとはステント留置後にステントが再狭窄しないようにする薬剤が塗布されているステントのことです。
- DEB(薬剤溶出性バルーン:Drug-Elution Balloon)
DEBは、バルーン表面に再狭窄を予防する効果のある薬剤が塗ってあり、バルーンを病変部で拡張させて病変部に薬剤が移行することで、再狭窄を予防する効果があります。ステント留置後に再狭窄したステント再狭窄病変に再度ステントを留置することなく治療が可能となるというメリットがあります。
BMS?DES?どっちが良い?
治療部位の再狭窄率は『POBA>BMS>DES』のため、DESのほうが再狭窄しにくいですが、抗血小板薬2剤内服期間が長くなります。つまり出血のリスクが高い状態が長く続くということです。
また、たとえば冠動脈の治療後に早急に手術をする必要があるような患者にステントを留置する場合は、DESではなくBMSが選択されるでしょう。
このようにBMSとDESどちらを使うべきかについては、患者の病態によって異なりますし、医師によっても意見が分かれるところだと思います。
冠攣縮性狭心症のカテーテル検査
- アセチルコリン負荷試験
心臓カテーテル検査のひとつでアセチルコリンを冠動脈内に注入し、冠動脈が攣縮するかどうかで冠攣縮性狭心症を診断する試験です。
アセチルコリンは本来、動脈拡張作用をもっていますが、攣縮しやすい動脈の場合には血管収縮作用を示すことを利用した検査方法です。
冠動脈バイパス術(CABG)
CABGとは血流の少なくなっている冠動脈閉塞部より末梢へ大動脈からバイパス血管をつなぎ、末梢血流を確保するための手術です。
PCIとCABGのイメージについてはコチラの記事の『心筋梗塞』の項目もご確認ください。
2次予防のABCDEとは
- A Aspirin and ACEi/ARB
- B Beta blocker and BP
- C Cigarette and Cholesterol
- D Diet and Diabetes
- E Education and Exercise
A:アスピリン投与・ACEi/ARB投与
アスピリンは血小板の活性化および凝集を抑制することにより、不安定狭心症または急性心筋梗塞の患者における死亡および非致死性心筋梗塞の発症を抑制することができるため、すべての急性冠症候群(ACS)患者に対して投与することが推奨されています。
血管疾患または糖尿病を有するハイリスク患者においてアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は心血管死亡、心筋梗塞、脳卒中または心停止の複合エンドポイントにおいて相対リスクの減少が認められています。またACE阻害薬は心不全患者に対する標準治療であり、ACE阻害薬を使用し、空咳等忍容性がない場合はARBが選択されます。
ACE阻害薬・ARBの心保護効果についてはコチラの記事もご覧ください。
B:β遮断薬投与・血圧管理
β遮断薬は交感神経抑制作用により心臓の仕事量を減らし、心筋の酸素要求量を減少させます。高血圧、左心室収縮機能不全、心筋梗塞後の患者に使用した場合、β遮断薬は有害な心血管イベントを有意に減少させます。
血圧は130/85mmHg未満(可能であれば120/80mmHg未満)にコントロールします。
β遮断薬についてはコチラの記事もご覧ください。
C:禁煙・コレステロール管理
喫煙は冠動脈イベントのリスク因子のひとつであり、禁煙は将来の冠動脈イベントのリスクを大幅に下げることが判明しているため、すべての喫煙者は、禁煙するように勧められるべきです。(勧められるだけで禁煙にとりかからない場合や、禁煙に取り組んでも途中でドロップアウトしてしまうことも問題ではあります…)
LDLコレステロールが高いほど冠動脈疾患の発症リスクは高くなります。
そのため虚血性心疾患の2次予防ではLDLコレステロールを100mg/dL未満(ACSの場合などは70mg/dL未満)に管理することが目標です。
LDLコレステロールを低下させるHMG-COA阻害薬(スタチン)についてはコチラの記事をご覧ください。
D:食事・糖尿病管理
長期的な心血管リスクの軽減には、糖尿病患者はHbA1c値7.0%未満と厳格な血糖コントロールを維持する必要があります。また、タンパク質、複合糖質、果物、野菜、ナッツ類、全粒粉を多く含み、飽和脂肪、コレステロール、塩分を控えた食事が望ましいです。
減塩方法など簡単にできる説明は薬剤師同時に一緒に説明しますが、望ましい食事をとるためにどうするかといった詳細な話は管理栄養士さんからの話をよく聞くように伝えています。
E:教育・運動
虚血性心疾患の患者さんは運動によって生活の質の改善・心疾患再発や悪化の減少が得られること、すなわち健康寿命が延長することがわかっていて、薬を飲むだけでは得られないメリットがあります。
心臓リハビリテーションとして可能な限り毎日30分間以上、中程度のレベルの有酸素運動と体重負荷運動を実施するべきです。(リハビリメニューは状態に合わせて理学療法士や運動指導士から指導があると思います。)
ここででてきた「中強度の運動」とは3メッツ〜4メッツの運動を指しています。
「メッツ」とは、簡単にいえば運動の強度を示す単位です。安静にしている状態を1メッツとした時に、何倍の運動強度があるかということを示しています。
歩く・軽い筋トレをする・掃除機をかける・子どもと遊ぶなどは3メッツ程度、やや速歩・通勤で自転車に乗る・階段をゆっくり上るなどは4メッツ程度、ゆっくりとしたジョギングなどは6メッツ、ランニング・クロールで泳ぐ・重い荷物を運搬するなどは8メッツ程度といったように、様々な活動の強度が明らかになっています。
詳細は国立健康・栄養研究所の栄養・代謝研究部のホームページの「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」をご確認ください。
そして、ABCDEの各項目を継続できるように教育することが大事です。
例えば病院薬剤師は、入院中・退院時の指導、退院後の心不全教室などがあります。急性期以後は保険薬局で薬をもらうことになると思いますので保険薬局の薬剤師による定期的なフォローが重要ですね。
一番大事なのは薬を切らさないように必ず外来通院を継続するよう伝えることかなと思います。医師の定期的なフォローがあれば問題があった時に対応できますし、通院することで多職種の介入もあるので!
【狭心症・心筋梗塞】『虚血性心疾患2次予防のポイントABCDE』まとめ
- A:アスピリン投与・ACEi/ARB投与
- B:β遮断薬投与・血圧管理
- C:禁煙・コレステロール管理
- D:食事・糖尿病管理
- E:教育・運動
虚血性心疾患では2次予防のABCDE(つまり適切な薬物療法と生活習慣の管理と教育)が重要!
あ、ABCDEが重要と言いましたが、維持するためにはF:フォローアップも重要ですね!
- T.J. Gluckman, M. Sachdev, S.P. Schulman, et al. A simplified approach to the management of non-ST-segment elevation acute coronary syndromes. JAMA, 293 (2005), pp. 349-357
- 2014 AHA/ACC Guideline for the Management of Patients With Non–ST-Elevation Acute Coronary Syndromes: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines
- 国立健康・栄養研究所 栄養・代謝研究部「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/program_kiso.html - 日本循環器学会 循環器病ガイドラインシリーズ
こちらから各種「冠動脈疾患」ガイドラインの最新版を確認できます。
https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/